ニュース映像に映る女の子が試着していたのは、ミントやピンクのパステルカラーの可愛らしいデザインのランドセルだ。中にはブランド物もあり、価格も高級バッグ並のものまである。
人気のあるものは、早々と売り切れてしまうらしい。そのため、孫や子供のために皆早くから買い求めるわけだ。
もう、20年以上前のことになるが、息子が小学校に入学した日のこと。
式を終え教室に入り後ろから、息子やクラスの新1年生の子供達を眺めていた。
子供達の椅子には何れもピカピカのランドセルが掛けられていて、思わず様々な色とデザインに見入っていた。
ただその中に一つだけ、明らかに“お下がり”と思われる革製の古いランドセルがあった。それも、古いというよりはもはや骨董品級の代物で、夫と思わず顔を見合わせたぐらいだ。
ランドセルの表面はヨレヨレで黒色であったであろう色は、皮にヒビが入ったところが白っぽくなっている。ランドセルの皮自体がヘタれて厚みは既になく、ペッタンコだった。
誰かのお下がりなのだろうか。
家庭により、様々な事情があるのだろう。それにしても、と思う。
子供の本格的な教育のスタートに、親だったらやはり新しいランドセルを用意してあげたいと、私なら思う。他はヨレヨレでも、小学1年生の象徴であるランドセルだけは、借金してでも新品を背負わせてあげたいと思う。
そんな事に頓着しない親御さんだったのかもしれない。あるいは…親御さんは健在だったのだろうか。祖父母に育てられていたという事もあったのだろうか。それだったら、祖父母の息子のランドセルが出てきても、おかしくないか…。色々と無責任な妄想が広がる。
何れにしても、クラスの子供達の家庭事情のことは、その後もあまり知らなかったので、真相も知らないままだ。
息子は6年間、昔ながらの真っ黒いランドセルを使用してくれた。
高学年になると、息子のクラスメートはスポーツバッグやリュックに切り替える子が多かった。
皆のように切り替えなくて良いのか、心配になって息子に「ランドセルじゃないカバンを用意しなくていいの」と声掛けをしたが、必要ないと言った。
息子は卒業までランドセルで通してくれた。
高学年になると、皆背伸びをして、格好をつけたくなる年頃だ。
クラスの中でも最後までランドセルを使い続けていた子は数人だったと思う。
息子は家の経済事情を考慮して、我慢していたのじゃないだろうか。嫌な思いはしなかっただろうか。
6年間使用したランドセルは、傷も無くとてもきれいだった。
大昔、私は革製の赤いランドセルを背負っていたが、かなり傷が付いていたことを覚えている。乱暴な女の子だったので、ランドセルは投げ飛ばすのが当たり前だった。
それに引き換え、息子のランドセルは表面に傷一つない。安い合皮のランドセルなのに、へたれてもいない。
あまりにもきれいなので捨てるのに忍びなく、テレビ局主催のフリーマーケットに参加した時、300円で売りに出したところ、売れた。
フリーマーケットで息子のランドセルを買っていかれた方は、確か年配の男性だったと記憶している。お孫さんのために買ったのだろうか。誰かのお役に立ったのだろうか。そうだといいな。
娘にもランドセルを新調した。その頃にはもう様々な色やデザインのランドセルが、かなり市場に出回り始めていた。
娘はパステルカラーのかわいいランドセルを欲しそうにしていたが、その値段は当時1万円を軽く超えていた。予算は1万以内と決めていた。娘は安い赤の合皮のランドセルで良いと言った。我慢したんだろうな。
結局、娘は3年生までランドセルを使ったが、クラスメートの皆が他のカバンに変えていったので、同じ様に娘も別のカバンに変えたのだった。
娘の3年間使ったランドセルは、6年使用した息子のランドセルより傷がついていた。それはごく普通のレベルだが。
息子の物に対する丁寧な扱いは、夫に似たのかも知れない。
夫の持ち物もやはり長く美しい状態を保っているものが多い。
何故か私には真似できない。
私が家族の中で一番の破壊王かも知れない。