狙いを定め、一撃で仕留めたが、大きな音に何事かと家族が驚いていた。
夏場でもここ札幌は朝夕涼しいのだが、流石に7月に入ってからは日中窓を開けることが多くなった。網戸はしっかり閉じているが、どこかの隙間から入り込んだ様だ。
台所で見つけた一匹については、つい体が反応して始末してしまったが、我が家には、虫退治に最高の“武器”いや“トラップ”があるのだ。その、トラップとは…。
「ハエ取り紙」
それは、かつてトイレと言うよりは便所と言うにふさわしい、水洗以前のその小部屋に大体ぶら下がっていたしろ物だ。
数年前の夏の終り、近所の大型スーパーへいつものように買い物へ行った折のこと。
毎度必ずチェックする、値下げ品があるワゴンを覗いてみると、懐かしいハエ取り紙があるではないか!何だか、旧友に会った様な喜びが湧いた。
売れなかったらしく、1パックにハエ取り紙5個入りの商品が、10パック位残っていた。商品名は「ハエ取りリボン」になっていた。
全部買いたいくらいだったが、その時はさほど使う機会も無かろうと、3パック買い求めた。
買ったはいいが、活躍することなく、しばらくしまい込んだままになっていた。
ある年の事、風呂場でゴマ粒より小さな羽虫が出始めた事があった。
当初は、白い風呂の壁によく目立つので、気が付けば石鹸の泡をつけたりして始末していたのだが、一向に減らない。
「コバエホイホイ」を使用してみたが、風呂場に繁殖する羽虫は、残飯などにたかるハエとは種類が違うため、ほとんど効果が無かった。
次なる一手は、たまたま夫が仕事場から持って帰ってきた殺虫剤「アー○ジェット」。
当時は小鳥を飼っていたので、あまり殺虫剤を使いたくなかったが、止むを得ない。
風呂場の扉を細めに開け、思う存分風呂場内へ噴射し、扉を閉めたままにした。
翌朝確認すると、風呂場の床に思った以上のおびただしい量の羽虫の死骸があり驚いた。
「やっぱり殺虫剤だなあ」とその効果に満足していたのも束の間、再び一匹姿を現したかと思うと、またたく間に大繁殖してしまうのである。
調べたところ、チョウバエと言うらしく、排水口の溜まった水の中で幼虫時代を過ごすため、殺虫剤を噴霧しても、生き残る事が出来た様だ。
つくづく虫退治に嫌気がさした。
虫とはいえ、殺生に変わりはない。出来る限り殺生は避けたい。
共存できれば良いが、残念ながら家の中ではそれは無理と言うもの。我が家では、虫の「家宅侵入罪」は基本“死刑”なのだ。
自ら虫に手を下す事がほとほと嫌になった頃、あの昭和の虫取り大スター「ハエ取りリボン」の存在を思い出したのだ。
実に優れたデザインと機能。良く出来ている。
直径2センチの円筒形。円筒の長さは、5センチと実にコンパクト。
円筒の片側はロウ状の物質で封がされており、吊り下げる為の輪っかが付いている。
その輪っかに指を引っ掛けてゆっくり上に引き上げると、粘着剤のたっぷり付いたリボンが伸び出て来るのだ。同時に、ロウ状の封がコイン状になって外れるのだが、それには画鋲が埋め込まれていて、直ぐに天井などに留めて使えるようになっている。なんと気が利いているのだろう。ちなみに、このメーカーは「桐ば○」さん。
リボンの長さは測ったことはないが、30センチほどだろうか。
円筒の下側には、万一粘着リボンから落ちて来た虫を受け取る為の、受け紙が付いている。至れり、尽くせりである。
早速風呂場にその勇姿を吊り下げてみた。
チョウバエは壁にもよく止まるが、「ハエ取りリボン」にも良く止まる。
確実に成虫が捕まえられるので、次の世代を生む親がいなくなる。羽化してきたものも次々「ハエ取りリボン」に止まるので、“そして誰もいなくなった”もとい、そして一匹もいなくなったのである。
それ以来、我が家の風呂場にチョウバエはゼロのままだ。
「ハエ取り紙」最強説!
意外なことに、現在も飲食店など殺虫剤の使えない場所で、コバエホイホイと共に、現役でハエ取り紙が活躍しているのを見た。
ワゴンで見つけた時は、昭和の遺物と思ってしまったけれど、現役で活躍中。ネットで通販の商品としても売っている。
“老兵は死なず”
そして、消え去りもしなかった。
昭和人として嬉しい事この上ない。
ただ、高いところに設置しないと、うっかり触れてベタベタが…我が家の風呂場で被害者1名、大変な目に…。ご注意下さい。