娘とラインをしていて、「部屋をシェアしている同居人が4日ほど家をあける」と知った。
突如、『娘に会いに行こうかな』という思いがムクムクと湧き上がり、夫の了解を得て私の3泊4日の旅が決まった。
そうと決まったら、あらゆる事を娘が手配してくれた。
私のコンシェルジュ、娘。
航空券の手配から、前泊のホテルの宿泊予約、ディズニーシーの入場チケットの手配など、おんぶに抱っこ状態。
昔、おんぶして抱っこした娘から、ありがたい“お返し”。
飛行機に乗るのは、指折り数えてみたら17年ぶり。小学6年と2年の息子と娘をディズニーランドに連れて行った時以来。あの頃は現在ほど航空会社の数も無かった。
搭乗手続きを、苦手なスマートフォンで行わなければならない。娘に会いに行くというワクワク感よりも、ちゃんと飛行機に乗ることが出来るだろうかという不安感で頭がいっぱいになった。
家族から「楽しみだね」と言われて「うん」と答えながらも、心はうつろ。
そんな不安を抱えながら、あっという間に出発の日が訪れた。
6月2日木曜日。
当初、家の近くの空港行きバスで千歳空港まで向かおうと考えていた。ところが、バス停に行って確認してみると、コロナで便数が一気に減り、午前9時以降の便がない。結局、夫の車で連れて行ってもらった。
千歳空港からは、ひとり。
16時55分発成田行き。
搭乗手続き、ちゃんと出来るか不安マックス。数ある航空会社から目指すべき場所を確認。第一関門突破。
事前に息子や娘から説明された事を思い出しつつ、航空チケットの予約番号を自動チェックイン機に入力する。これでよしと次の画面を待つと、思いがけずエラーの画面表示!なにー?打ち間違えたかな。番号を再度確認しつつ再試行。エラー。「えええっ?」
ちょっと焦りながら、家族の「分からなかったら聞きなさいよ」という声を思い出し、カウンターへ。
結局、すんなり発券された。何だったんだ、あれは…。まあ、チケットが発券されれば問題無いが、ただでさえ不安いっぱいの心がさらに脅かされるという、BBAの心臓はドキドキしっぱなしだった。
時間を気にしながら、娘とお友達へのお土産購入を済ませ、搭乗口へ。
優先搭乗が始まり、ボンヤリ待っていると自分の順番が間もなくというタイミングで、急におトイレに行きたくなった。焦って周囲を見回し近場のおトイレへ。これで乗り遅れてはならじと、大急ぎで戻った。すでに人の列はなく、ほぼ最後の搭乗。
荷物を座席の上部に収め、席に座って初めて娘に会えるワクワクで心がいっぱいになった。
離陸もスムーズ。久々のフライト。ジェットエンジンの大きな音を除けば、何ら自動車に乗ってるのと変わらないじゃない。17年ぶりの搭乗の感想。そう思った途端、機体が一瞬不意に下がり、「地面が無いんだ」という事実を改めて感じる。
通路の両サイドに3席ずつの小さな飛行機。窓から見える鋼鉄の翼が、強風にしなって不安になる。
飛行機に乗るときはいつも「堕ちるかも」と覚悟している。縁起でもないと思いながら、一寸先は闇。未来の事など誰にも分からない。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチの中に、彼が17歳の時に出会ったという言葉がある。
「毎日を人生最後の日として生きよう。いつか本当にそうなる日が来る」
この言葉の様に生きれば、毎日全力で生きる人もいるだろう。スティーブ・ジョブズその人が、正にそうだったのかも知れない。
人によって、様々に受け止められる言葉だ。私の場合は、全力で家族を愛し、後悔の無い関係でいたい、ということだ。
毎日を人生最後の日として生きる割には、部屋が汚い。その点だけは、死んでもなおらないことだ。
堕ちるかも…と思った後は、雲に魅了されっぱなし。空の上の地上みたい。
エンジンに変なものが入らないか不安。こんな上空に何も無いか。とそこへ、猛烈なスピードで移動する小さな未確認飛行物体を発見。「すわ!UFO」と思ったら、逆方向へ飛ぶ航空機。なーんだ。
それにしても、私は今飛んでいる。すごいな飛行機。
雲の山々。美しい。成田までの1時間40分、ずっと雲を見続けていた。時を忘れて見続けていた。
ひょろ長ーい雲。
波が押し寄せた様な雲の連なり。なんぼでも見ていられるわー。
気が付けば成田。ランディングもスムーズ。
午後6時半を過ぎた成田空港は閑散として人もまばらだった。フードコートエリアも営業しているのは10ほどあるかと思われる店舗の2店舗ほど。エスカレーターで1Fへ。
「電車が遅れていて…」という娘のラインを受け取り5~10分ほど。インフォメーションにいる係の男性以外、広いロビーにポツンと私一人。
やがて、エスカレーターに乗って私の天使が降りてきた。ハグッ!無事に北海道から東京に来られた安堵と、娘に再会できた喜びを、娘を抱きしめながら思う存分味わった。