それは、自然豊かな遊歩道か山道でカップルが映っていたのだが、後方から蜂に襲われて逃げる男性にいち早く気づいた彼女が走りだした時、一緒にいた彼が思わぬ一言を発して驚いた。
彼が彼女に向かって言ったのは
「動かないほうが良いよ。動かないほうが蜂は刺さないから」
周囲の人達が蜂に襲われて騒然としているのにも関わらずだ。
それは、説明するまでもなく、蜂が攻撃を始める前の段階の話だ。
蜂は巣に不用意に近付く人に、警告を発するため人の近くに飛んで来ることがある。そんな時にうっかり蜂を払おうと手を出すと、攻撃されることになるのだが、今回の場合は既に攻撃が始まっているのだから、逃げなくては刺されてしまう。
男性は「動かなければ刺されない」ということが頭にあるせいか、その場にしゃがみこんで丸くなった。蜂をやり過ごそうとしていたのだろうか。
蜂はどんどんやってきて彼を攻撃し続け、それでも彼はなかなか動かなかったが、やがて耐えきれずに走り出したのだった。
説明では、彼の方は全身を50箇所刺され、彼女の方も30箇所刺されたと伝えていた。
蜂の種類は分からなかったが、スズメバチではなさそうだった。大事に至らなかったようで不幸中の幸いだった。
彼は誤った認識で、随分痛い目に合ったようだが、あの後「動かなければ蜂は刺さない」という言葉が有効である状況を正しく理解しただろうか。
とんだ誤解もあったものだとテレビを見終わってから、画面には映っていなかったがカップルを撮影していた人物の事を思った。
ニュース映像は、何かのインタビューが行われていたさなかに突然起こった様子だった。撮影していた人も当然巻き込まれた状態だったと思う。だとしたら、当然、蜂の防護服も無いわけで、よくあの状況で写し続けていられたと思う。当然蜂に刺されながらの撮影だったと思うのだ。
撮影者とカップルの関係性は不明だが、蜂の攻撃をものともせず撮影し続けていたのだとしたら、ものすごい根性の持ち主だ。
もしその人がジャーナリストなのだとしたら、取材魂に敬服するとともに、職務に忠実すぎる姿勢に「どうかご自愛を」と伝えたい。