気温が上がるに従い、気持ちも上がり、旅行に行きたくなってくる。
気軽に旅行も出来ない昨今、思い出を書き起こして旅気分を味わって見よう。
とりわけ北海道の東部の自然が好きだ。ダイナミックな山林、森林、湖、火山の活動など、地球の息吹が感じられる所だから。
私の好きなスポットをいくつかご紹介したい。何れも30年前の旅行の記憶なので、現在と状況等が変わっている所もあるかも知れない。
阿寒摩周国立公園内はどこも見どころではあるけれど、まず私の好きな泥火山「ボッケ」
阿寒湖畔の温泉宿に宿泊した。
「ボッケ」へと向かう道は温泉街のみやげ物屋を歩いて抜け、ビジターセンター(現在は阿寒湖畔エコミュージアムセンター)に突き当たる。そこで周辺の自然環境などを軽く学習してバードコールを買った。
あわよくば、野鳥とバードコールで鳴き声のセッションでも出来ればと思い…。
そのセンターからうっそうと木々が茂る広く整地された遊歩道へ入り、湖畔へ向かってゆっくり歩く。
左右に林立する木々を眺めながら歩くと、エゾリスや野鳥などが見受けられ、それも楽しい。
明るく視界が開けると、目的地のボッケエリアである。
あちこち地熱が裂け目から湯気となって見える場所を過ぎると、目的の泥火山ボッケがある。
高温で危険なので柵で囲ってある。
そこは灰色の粘土状の泥溜まりであり、ドロ坊主と言いたくなるような、半円の泥の泡がボッコリ浮かび出て来ては割れて消える。
その終わりなき繰り返しの様を私は見ていて全く飽きないのだ。いつまでも見てられるわー。
そしてまりもで有名な、雄大で美しい阿寒湖が目の前に広がる。最高!
その時は遠目にサギと思われる鳥が湖の浅瀬にたたずんでいた。その白い姿が日の落ちかけた湖に映えて美しかった。
それから「硫黄山」。
「硫黄山」は摩周湖と屈斜路湖の中間地点にある。
以前は硫黄の採掘をされていた場所と言う事だ。
岩の間の小さな噴火口からシュウシュウと熱風が噴出している場所があちこちに見られ、その周辺は硫黄の色で黄色くなっている。
その熱を利用して、ダイナミックにゆで卵を何十個も一遍に蒸し上げている風景が忘れられない。
30年以上前のことだが、硫黄山を訪れた時、ゆで卵が4、5個入った袋を何個も持った真っ黒に日焼けしたおじさんが、観光客にまるで配っているかの様な印象を与える手口で売りさばいていた姿が忘れられない。
私も結局買って食べたが、高温の地熱で蒸し上げた卵は普通の茹で卵とは違い、独特の旨味があってとても美味しかった。また、食べてみたいなと思う。
あちこちにある小さな噴火口は、地熱が吹き出ていてものすごく熱くなっているのだが、観光客の中にはどの位の熱さなのか手をかざして確かめる人が必ずいる。そんな人は、みやげ物屋の前の水道で火傷した手を水でずっと冷やしているので、直ぐにわかる。気の毒だったけど、「何故確かめたかなぁ」とちょっと可笑しかった。
1年の内でも北海道の6月は、百花繚乱の素晴らしい季節だ。祝祭日が無いのがとても残念だ。
そんな訳で、ある年の6月に会社をずる休みして硫黄山を訪れた年があった。2度目の訪問だ。
硫黄山へ真っ直ぐに続く道路の両脇にエゾイソツツジの真っ白い花が満開でとても美しかった。6月ならではの光景だったので、ずる休みしたかいがあったと言うものだ。
テレビを見ていて知った場所に、「ポンポン山」がある。
「ポンポン山」は屈斜路湖畔にあり、冬でも地熱でその周辺は雪が積もらず、コオロギの一種マダラスズが一年中生息するという不思議な場所。
さらに、名前のとおり、足踏みすると地面の中で反響し、確かにポンポンと音がするのだ。
初めて訪れた時は、入り口も小さな立て札のみで、熊の出没にも気をつける様にとあったので、ドキドキだった。
人もあまり通らないので、何となくここかな?といった道を夫と二人で20分位歩いただろうか。
ぱっと開けた所に小高い丘があり、早速駆け上がって地団駄を踏んでみると、確かに地面の下が反響し、面白い音が微かにして楽しかった。
周辺を散策すると、辺りには無数の小さな穴があって虫(その時は知らなかったがマダラスズ)もあちこちに見受けられた。
楽しくて、うかれてあちこち移動して歩いていると、直径20センチ位の真っ黒な土饅頭のような物が足元にあった。
あたり一面緑色だったので、その物体が目立っていた。
もしかしてフン?動物の?
大型と言えば、熊!
糞の状態から見ると、そんなに古い物では無かったので、急に恐怖にかられ、そそくさと、もと来た道を引き返した。
何事も無く済んだが、近くで熊がこちらを見ていたかも知れないと思うとゾッとした。
いつ頃からか、ネッシーならぬクッシーがいると言われるようになった「屈斜路湖」
お土産屋さんの前に、デンッと結構大きめの青いクッシーの像がある。
その一角にある「砂湯」。
屈斜路湖の湖畔は砂地で、そこを掘ると砂地から暖かなお湯が湧いてくる不思議なところである。とは言え、全ては地熱の為せるわざなのだが…。
20年ほど前、まだ小さかった子供達を連れて、そこで砂地を掘って遊んだことを思い出す。
私は子供と一緒に砂を掘りながら、はっとした。
それは私がまだ学齢に届かない幼い頃、父と一緒にここを訪れた事があったという事実を突然思い出したこと。
記憶に埋もれた遠い日の思い出が、手に触れたお湯とともに湧き上がってきたのだった。
すっかり忘れ去っていた記憶がよみがえった嬉しさと懐かしさ。そして子供達とこの地を訪れることができた事の喜びで胸がいっぱいになった。
私にとって、この時の旅の一番の収穫になったのだった。
道東の魅力は深く、まだほんのひとかじりにも満たない程度。
私の道東への愛は尽きない。