翌日もチラチラ雪が降り、今年はもうジョギングは無理だなと観念した。

犬の散歩をしている人が多かった。

用事を足すついでに長距離を歩こうと、マフラーをしてダウンジャケットを着た。今季初のダウンジャケットだ。
外へ出て用事を足した後、遊歩道に入った。軽く積もった雪が溶け、アスファルトは濡れていた。アスファルトが濡れていると、妙に落ち着くのはなぜだろう。不思議だ。

犬の散歩をしている人が多かった。
私の前を2匹のトイ・プードルを連れた年配の男性が歩いていたが、突然白い方のワンちゃんが、尻込みするような態勢で固まった。
おや、どうしたのかな?
ワンちゃんの視線の先を見てみると、若い女性が黒のトイプードルを連れて、こちらへ向かって来るのが見えた。
距離が接近するに従い、何やら起こりそうな緊張感が高まる。
私は、止まったままの男性と2匹のワンちゃんを追い越して先へ進んだが、ワンちゃん達がどうなるのか、気になっていた。少し離れてから振り返って、成り行きを見守った。
屈託なく黒のトイプードルが近づいて行くと、白のトイプードルが一瞬飛びかかりそうな感じになったけれど、落ち着いたままの黒のトイプードルは、気にすること無く鼻を付けてご挨拶。それに応えて、白のトイプードルも落ち着きを取り戻したようだった。
その後お互いが、お互いの背後に回ろうと、漫画みたいなクルクルが始まった。当然リードが絡まる。それを見ていて、ディズニー映画のワンシーンを思い出した。
「101匹わんちゃん」。
小学生の時に一番好きな映画だった。
まだビデオもDVDもない時代だから、劇場公開を逃せば観られない。テレビ放映はしばらく待たねばならない。そんな時代に父は、何度か私を劇場へ連れて行ってくれた。
件のシーンは、大型犬のダルメシアン、ポンゴとパディータが出会って、飼い主のロジャーとアニタがリードでグルグル巻きになる場面。二人と二匹はそれがきっかけで結婚することになるのだ。
小型犬のトイプー達はリードが絡まるだけで、飼い主さん達はリードをほどくのみ。残念ながらロマンスは生まれなかった。
かわいいワンちゃん達を見てなごみ、ディズニー映画の思い出にひたり、楽しい気分で家に向かって歩いた。
広い道路に出て、いつも通るマンションの前の薔薇を見た。
薔薇たちは冬囲いされていた。寒い中、まだ花は咲いている。
その中の一本、頼りない幹の薔薇が、けなげでかわいかった。

薔薇を見て、更に楽しい気分で歩道を歩いていた。
ところが、突然、「んぎゃもー!」と猫を踏んづけた様な変な声が背後から聞こえた。と思った瞬間、私のダウンの右袖をこすって、自転車が猛スピードで通り過ぎた。変な声は、ぶつかりそうになった自転車に乗っている男の声だった。
衝突は免れたが、危ういところだった。
私もぼんやり歩いていて、少し右側に寄った瞬間だったから、私もいけなかったかもしれないけれど、やはり歩行者が歩いている所であのスピードは無い!それに自転車は本来左側を走るべきだ。
腹立たしい思いで、爆走して過ぎ去る自転車の男の背中を心の中で避難しながら見つめた。こんな自転車男が最近多い。恥じを知れ。
ああ、せっかくこの上ない幸福に満たされていたのに、一気に厳しい現実に引き戻されてしまった。
ちょっと残念なエンディングの散歩だった。