Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

意地悪な血管

2024-06-22 06:00:00 | エッセイ

 

 

血管が細い。

「もう意地悪なんだから」採血あるいは点滴の針を手に、

看護師さんたちは決まって困った顔をする。

親指を中に腕をぎゅっと握り締めても、腕のあちこちをパンパンと叩いても、

血管が浮き出てこない。これでは針を刺すのが難しい。

とうとう「先輩、お願いできませんか」とギブアップする若い看護師さんもいる。

また、点滴の針をミスし「先輩、先輩」と大慌てした看護師さんもいた。

後に左の手の甲は見事に腫れ上がったものだ。

 

         

 

看護師さんたちの名誉のために言うが、もちろんそんな看護師さんばかりではない。

技術は言うまでもなく、不安感いっぱいの患者を優しく慰めるように

対してくれるベテラン看護師さんもいる。

2年前に肺炎で入院した際の看護師さんがそうだった。

 

抗生剤の点滴の際、その看護師さんはいつものように

「さてと、どこがいいかな」腕のあちこちを探った。

「血管が細いからね。すまんね」と詫びると、

「人それぞれですよ。でも、それをクリアするのがプロです」

頼もしい根性を見せながら、

「ちょっと右手をぐーっと握り締めてくれませんか」と続けた。

言われるまま、右手に力を入れると、「おおっ、すごい」

一瞬何に驚いたのか分からなかったが、

「前腕部の筋肉がむきっと盛り上がる。おまけに堅いですね」と言うのだ。

「ええっ」と今度はこちらが驚いてしまった。

 

「何か、スポーツされていたんですか」

「ああ、中学から大学まで10年ぐらい器械体操やってたよ」

「あのクルクル回るやつ?」

「そうそう、鉄棒や床運動ね」

「テレビで見ると選手は皆筋肉モリモリですよね。

それでなのか。ついでに腕をぐいと曲げてみせてください」

図に乗って右腕に力を入れ曲げると

「おー、見事な力こぶ。立派、立派」と言ってくれた。

実際は、悲しいほどげっそりと落ちてしまった筋肉を嘆く日々であったが、

この看護師さんは、しょぼくれた爺さんをおだてる術を心得ておられる。

気分が悪かろうはずはなく、勇気をもらったような気さえした。

「それでは、少しチカっとしますよ」言いながら、

右手首付近のわずかに浮き出た血管に針を刺した。

「うまい」と言えば、ニコリと笑顔を返してきた。

 

コメント (3)
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