山の雑記帳

山歩きで感じたこと、考えたことを徒然に

広重・五十三次の山(3)

2024-08-26 11:46:38 | 浮世絵の山

蒲原・夜之雪 江戸より15番目の宿

 温暖の地、駿河の国でも、かつてはこれほどの雪が降ることがあったのだ。どれほど歩いてきたのか、蓑や笠に積もった雪が重そうである。茅[かや]や菅[すげ]などで作られたこの昔の雨具は、防水性と共に通気性もあるなかなかの優れものであったらしい。背後のドームのような山は大丸山だろう。広いカヤトの山頂で、東の金丸山にかけての一帯は、富士川沿いの整備されたハイキングコースになっている。

(2003年5月記)

新蒲原駅西に建つ蒲原夜之雪記念碑

【2024年8月追記】

 『文化遺産オンライン』の解説によると
「深々と雪が降る寒村の夜の情景を描いた広重。画面に漂うその静寂さはシリーズの中でも突出した傑作といわれる。現実の蒲原にはこのような豪雪がみることはできず、広重の創作した心象の風景ではないかといわれている。(後略)」
 “心象風景”であることは、この画に限らずそうなのであろうが、本当に蒲原でこれくらいの雪が降ったことは無かったのだろうか。描かれている人物の足下を見ると、左の傘をさした人は宿の住人なのだろうか、履いているのは下駄で雪には埋まっていない。右の蓑を着けた人物の足元も埋まってはいないし、前の人物に至っては上半身を布で羽織るだけで足には何も着けていないようで、埋もれているのもせいぜい足首程度。よく見れば屋根の積雪もそれ程多いわけではない。つまり“豪雪”というには大げさで、10センチにも満たない位の雪が降ったのだろう(その後、さらに降り積もったかは分からないが…)。いかに温暖の地といえども、南岸低気圧が通過するときなどには、その程度の雪が降ることはたまにはある。従って全くの想像上のシチュエーションというわけではない。広重は“温暖の地”という駿河のイメージとのギャップを利用してこの画を創作し、それが見事にハマって名作となったということだろう。
 見飽きた冬の低山を雪の山の景に変える南岸低気圧通過のチャンスを、現在の静岡の登山者たちも今か今かと待っているものだった。

Google Earthで作成した蒲原宿北方の風景



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