引き続き小説の感想。
辻村深月さんの小説「凍りのくじら」(講談社文庫)を読んだ。
凍りのくじら (講談社文庫) | |
辻村 深月 | |
講談社 |
ジャケットの絵が美しいね。月の下を気持ちよさそうに悠々と泳ぐクジラ。一方、本のなかに登場するクジラのエピソードはとても悲しくなる切ない内容だった。
小説の内容も、ジャケットのようなのびのびとしたものではない。けれどもこれは一種の祈りだったり、未来への期待の気持ちなのかもしれないね。とても好きな絵。
辻村深月さんの小説を拝読するのは初めてだった。お名前を聞いたことはあったのだけど、長編が多く、本がぶ厚い。つい読むのを見送っていた。
でもいざ読み終わってみると、もっと読みたい!とおもっている。近いうちにまた読むでしょう。
「凍りのくじら」の主人公は女子高生・理帆子。がんになった父親は、5年前、死ぬ前に疾走。母子家庭で暮らす彼女だが、母親の命もまもなく燃え尽きようとしている。
父親の影響でドラえもんが大好きな理帆子。小説のストーリーもドラえもんの魔法の道具を引き合いに出しながら進行していく。理帆子は少し人生を斜めにみるところがある。そんな彼女はある日、ドラえもん好きの上級生から写真のモデルになってくれと頼まれる。
と書くと、青春小説っぽい。青春小説の面もある。でもどちらかというともうちょっとジメッとした感じ。彼女がどういう人間関係を選ぶか、誰と付き合うか、まっすぐじゃないところいっぱい。
いやらしいといえばいやらしいし、自身がやられたらいやだとおもう。だけど、正直、共感した部分も多い。つまりは、自分がやっている(あるいはやってきた)ということなんだろうね。
友人に心を開けないのもわかる。また、恋人とのやりとりに読みごたえがあった。人間関係は、ドラマや小説のように綺麗にはいかない。でも現実ってこんなものだよね、これでも普通だし、大丈夫なのかもとおもわせてくれた、そんな等身大の世界を見せてくれるような小説。
そんなにすっきりする小説でないけど、なぜか癒された。著者独特の世界なのかな。ひょっとしたら、けっこう相性がいいかもと期待している、また読みたい。
それと、男性の自尊心の描かれ方が秀逸な気がした。
この本は読書交換会で譲っていただいた本で、紹介してくださった男性が「女性がストーカーになる理由と男性がストーカーになる理由は違う」と言っていた。男性は、相手が好きだからではなく、自尊心を回復するためにストーカーになるらしい。そのときは「どういう意味?」とおもっていたけど、この小説を読んだらなんとなくわかった、、、気がした。
ではまた
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