掃除をしていたら、読んだ小説を発見した。
猫が続けて亡くなった衝撃で本を読むペースが一気に鈍化したり、緊急事態宣言の影響で、読書交換会がオンラインになったりで、本が溜まっている。読書交換会は、本を読書交換会に放出したり、捨てたりと本を整理する機会となっていたのだ。オンラインだと本の交換ができない。
貫井徳郎さんの小説「誘拐症候群」を読んだ。
症候群3部作と呼ばれる、同じ主人公たちによる連作の第2作目。
第1作も第3作も読んだことがあり、この「誘拐症候群」が最後になる。第3作「殺人症候群」、第1作「失踪症候群」の順番に読んで、それでも楽しめたけど、もし今から読み進めるのであれば、定石通り第1作目からがおすすめかもしれません。
⇒ 貫井徳郎「殺人症候群」、どっぷり小説世界に浸りたくなったので読んだ
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症候群3部作は、警察の外部組織として働く、警察官1名、元警察官3名が主人公。実際にそういうチームがあるのかわからないけど、小説としてはとても興味深い。スパイ小説の主人公に近いのだろうけど、スパイよりも身近で、そして草の根な感じで、日本らしさを、そしてありそうだよなと感じる。
誘拐事件がテーマになっていて、彼らチームが調査している連続誘拐事件と、チームメンバーのひとりが巻き込まれた警察が調査している誘拐事件、2種類の誘拐事件が絡み合う。
なんというか階級が上手に描かれている小説だとおもった。背景や所属による意識の違い、自意識の違い、経済力の違いが描かれている。
そして、その異なる階級に属する人たちが出会い、タッグを組むことによって生まれる普段なら起こらないような会話、事件、調和、化学反応。それらが面白い気がする。
「誘拐症候群」が出版されたのは1998年のようです。今でこそ、格差社会と言われるようになったし、またSNSによってさまざまな背景の方と出会えるようになったけど、当時はそうではない。
今読んでも、身につまされるような気分で読んだけど、この小説が出版された当時の社会では、もっと衝撃が強かったんだろうな。
ミステリーだからストーリーは書けないけど、個人的に一番ハッとさせられたのは、主人公のひとりがホームレスのボスに情報提供を求めたシーンで、ホームレスのボスが「そりゃ見込み違いだと思うぜ。他人様の子供を誘拐してせしめるような真似ができる奴は、最初からホームレスになんかならないんだ」というところだった。
そのとおりかもしれない。
もっともこれは、正直なところ、後で読み返してからそうおもった。
なんというか、経済力、財力があることを正義と考えてしまって、社会的に失敗している人を悪人として考えてしまう、という自分の傾向に気づかされた。うーん、率直なところ、力がある人からおこぼれにあずかりたいからだとおもう。カッコ悪いな、あたし。
もし日本でベーシックインカムが導入されたら、おこぼれにあずかりたいという気持ちが少なくなるかもしれない。それはきっとあたしだけじゃないだろうし、となると社会の図が変わりそうだなともおもった。
で、このホームレスのボスのすごいのは、そういう風に言っておきながら、「気持ちはわかるよ。だから教えるんだぜ」と主人公に寄り添っているところ。
わ、すごいな、この懐の深さ。ボスだからかもしれないし、そもそも貫井さんのフィルターであってノンフィクションではないけれど、でもゾッとさせられた。
これも後で読み返したときに気づいた。
ほとんどの小説は一度しか読まない。つい新しいものが読みたくなるけれど、同じ小説を何度も読むのも楽しいのかもしれないとおもった。まだまだ貫井さんの小説で、読んだことがないものがいっぱいある。
今まで「私に似た人」「慟哭」「愚行録」「悪党たちは千里を走る」「神のふたつの貌」を読んだ。
あたしにしてはけっこう読んでいるほうで、世界観が好きであると同時に、きっと文章も好きなんだろうな。どういう文章が好きと言えるほどはわからない。繰り返し読むとそういう部分も味わえるのかもしれないね。
今日も佳い日をお過ごしください。
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