あたし、レイン・デシンセイ。19歳だけど熟練の冒険者。旅の途中でたまたま出くわしたドワーフのビッグレッグさんの遺志を継いで、ダークウッドの森からハンマーを見つけてくることになりました。まずは森の入り口にある、魔術師ヤズトロモの塔にやってきたんだけど……。
以下、「運命の森」のネタバレがあります。ご注意ください。
<現在の状況>
技術:9
体力:18
運:8
食料:10
金貨:30
ツキ薬:2
「あー、しんど」
歩くこと1日半。あたしはほうほうの体でヤズトロモの塔までやってきた。目の前にそびえる、大きな樫の扉。
これで、ビッグレッグさんの話が全部たわごとだったらどうしようかと思っていたんだけど、一応ヤズトロモの塔は実在したみたいで、とりあえずは一安心。ただ、経験上、魔術師はそう簡単に信用しちゃいけない人種なんだけどね。
あたしは厳寒にすえつけられていた大きな真鍮の鐘を鳴らす。予想よりも大きな音がしたんでちょっとびっくり。
「お前はだれだ」
塔の窓から、意地悪そうな声が聞こえた。あれがヤズトロモかしら。
「あのー、ヤズトロモさんですか? ここで、魔法を買うことが出来るって聞いてきたんですけど」
魔術師に対して嘘をついてもいいことがない。これも経験則ね。
「おやおや、そうなのかい。おまえさん、おれの魔法を買いたいと言いなさるのか。それならば入るがよい。このおれさまがヤズトロモだ」
あらま。意外と軽い感じの人だわ。あたしは彼について、塔の中へと入っていく。
らせん階段をひたすら登って、とうとう塔の最上階。そこには乱雑に、様々な品物が置いてある。なんか、魔術師の部屋ってかんじでわ(実際そうなんだけど)。
ヤズトロモは石版に何か書き付けると、それをあたしに見せた。それは、ここにあるアイテムの価格表。好きな物を購入しろってことね。ほいほい。あたしは使えそうなアイテムを幾つか選んで、ビッグレッグさんの残してくれた金貨を使って購入した。
万能薬、静けさの薬、毒消しの薬、聖なる水、光の指輪、とび跳ねブーツ、するするロープ、水の探し棒、ニンニク玉、鼻用フィルター。これで金貨26枚分。4枚は残しておこう。
ヤズトロモが、あたしに何故アイテムを買い求めたのかを訊いて来た。あたしは、不幸なビッグレッグの話をし、彼の遺志を継いでハンマーを探すと決意したことを告げる。すると、ヤズトロモは、ドワーフのハンマーについていろいろと教えてくれた。
曰く、捜し求めている”戦いのハンマー”はストーンブリッジに住む善良なドワーフたちに古くから伝わる物であるということ、それを奪ったのはハンマーの存在をうらやんだ他のドワーフの国だということ、しかしハンマーを持ち去るときにダークウッドの森に落としてしまったということ、そのハンマーは2匹のゴブリンに拾われて頭と柄の2つの部分にぶんかつされてしまったということ。
特に最後の事柄は、ちょっと厄介ね。探し物が2つになっちゃったわけだから。
あたしはヤズトロモに礼を言って、塔を後にした。
外に出ると、日差しは明るいものの、あたりは奇妙な静寂に包まれている。やっぱり、この森はただの森じゃなさそうな感じね。
あたしは森の方角--北へと向かって進んでいく。太陽は明るかったはずだったけど、森の中はやはり薄暗い。空気も湿っぽく、不快だ。
道は巨大な老木の根元で東西にわかれている。あたしは西に歩を進める。
やがてまた分かれ道に出た。今度は北と西。さらに西へ。すると道はその先で北へと曲がっていた。
突然、左の方から悲鳴が聞こえた。なんだろう。あたしは声の方に向かって駆け出した。
そこにいたのは、ウサギの罠にかかってしまったらしい男の人。その人は黒くて長いローブに身を包んでいて、顔まで覆っている。うーん。怪しい。
怪しいけど、とりあえず罠を外してやることに。罠に剣を差し込むと、パチッと罠が開いた。
その人はあたしに何度も何度もお礼を言ってくれる。なんだ、いいひとじゃん。どうやらその人は、森のどこかにいる弟さんを捜しているみたい。同行しようと誘ってみたんだけど、弟さんは南の方にいるらしいのよね。あたしは、北へ向かわなくちゃいけない。残念だけど、一緒には行けないかな。
彼と別れた後、妙な胸騒ぎに襲われて、財布を調べてみたんだけど……。くっそー! やられた! あたしの財布、空っぽだ。
いや、だからね、怪しいって言ってたでしょ、最初に。だから言ったんだよ。あー、もう! こんちくしょー!
自分の甘さを噛みしめながら、あたしは元の道に戻って、北へと向かった。
道はだらだらと曲がりくねっている。しばらく歩くと、道の右側に、丸太に腰掛けた小さなイボイボの生き物が。
こいつ、もしかしてハンマーを持っていったゴブリンの片っぽかも。あたしはそいつに話し掛けた。
「ちょっと、あんた」
するとそいつは顔を挙げてにやりと笑った。う、なによ。
そいつは突然巨大化し始めた。背が伸び、尻尾が生え、つめも伸び、体色も緑色に変る。口には鋭い歯が何枚も並び、目も不気味に赤く輝く。
やばい。こいつ、変身怪獣だ。あたしも出くわすのは初めてだけどね。
あたしは剣を握りなおし、変身怪獣に相対した。
戦ってみればわかる。こいつ、まちがいなくあたしより強い。
でも、今日は妙についていた。苦し紛れに突き出した剣がクリーンヒットしたり、変身怪獣がぬかるんだ地面で足を取られたり。ともかく、あたしに有利なように物事が進んでいった。
そんなこんなで、あたしはなんとか、無傷で変身怪獣を退治することが出来た。
あー、疲れた。あたしはどしんとその場に腰をおろした。何とか勝てたけど、やっぱ強いわ、変身怪獣。
ふと横を見ると、紫色のキノコが生えていた。口中のよだれに気づいて、あたしは首を振る。まずいって、ぜったいこれ、まずいって。
しかし何故か、あたしはそのキノコを手にとっていた。いいじゃん、別に。そういえばずっと何も食べてないわけだしさ。
あたしは、あくっとキノコをかじる。
ん? なんだこれ? ああっ、なんか体がおかしい。
ちょっとゲーム的な台詞になるけど、ごめんね。これ、運点と技術点が入れ替わるキノコだった見たい。あたしは少し運がよくなったような気がした。でもその代わりに、どうも剣の振りが鈍くなったような……。ま、しかたないか。
あたしは再び、北へ向かう。
道はやがて、北と東の分かれ道に。森の外周を押さえておきたいところなので、このまま北へ。
北へ行くと、木々がまばらになったところに出た。久しぶりに拝む日の光がまぶしい。休憩できそうな場所だけど、あたしはまだまだ元気なので、そのまま北へ。
すると木々はますますまばらになり、創元に、じゃなかった草原にでた。のどかな風景だ。
なんとなくのんびりした気分になっていた私を現実に引き戻したのは、キーキーブーブー言う謎の奇声だ。なんだよ、もう。
草むらから飛び出してきたのは、いのししだ! あたしは剣を構えて、いのししに切りつける。
ザックリ。
あたしはいのししを余裕で片付けた。といいたいところだけど、ちょっと負傷。くっそー、変身怪獣よりもよっぽど弱い相手なんだけどなぁ。
遠くで猟犬の声が聞こえる。どうやら、狩で追われてこっちにやって来たみたい。
あたしはいのししの鼻についていた金の鼻輪(金貨10枚の価値)をザックにしまうと、先を急いだ。
さらに進むと、そこは十字路。あたしは西へと向かう。
その道は、乾いた泥で出来た小屋のところで行き止まりになっていた。窓からその小屋の中を覗いてみると、黒い肌をした半裸の男が、筋肉を盛り上がらせている。
う。キモッ。
しかししかし、冒険者とは因果な商売なのでありました。心の中の嫌悪感とは裏腹に、あたしの足は小屋へと向かっていたのです。うう、悲しい……。
小屋に入ると、マッチョ男が話し掛けてきた。
「よくきたな、旅の人。俺の名はクイン。腕でめしを食っているんだ。腕ずもうでおれとちょっとした賭けをしてみたくはないかね?」
あかんあかん。今回のあたしはちょっと弱いのだ、能力値的に。
あたしは丁寧にその場を辞すと、十字路に戻った。
今度は十字路を北へ。
北へ行くにしたがって、草原の草は短くなり、道も上り坂に。その坂を登ると、行く手を川に遮られてしまった。
東の方では川はゆっくりと流れているけど、目の前で滝になっていて西側の谷間へと落ちていっている。皮の向こう岸を見ると、道がさらに先まで続いているみたい。それとは別に滝つぼの方へおりていく階段もあるんだけど、滝のしぶきがすごくて、先がどうなっているのかよくわからない。
ふと見ると、こちら側の岸の東の方に、ボートがつないである。それを使えば向こう岸にも渡れそうかな。
で、あたしは結局滝つぼへの階段を下りていくことにした。だって、そっちの方がおもしろそうだしね。
地面は滑りやすかったけど、どうにか滝つぼまで到着。ふと見上げると、滝に虹がかかっている。きれーい。
どうもまだ階段が続いているみたいなので、思い切って滝の裏側に入ってみることに。
案の定、滝の裏側は洞窟になっていた。そこを進んでいくと、やがて大きな洞穴に出た。中央には大きな池があって、階段はその周りを回っている。
他には石のテーブルと椅子。テーブルの上には、魚の残骸が放置されている。だめだよ、ちゃんと片付けないと。
と、うしろでバシャバシャと水の音がした。慌てて振り返ると、そこにいたのは槍を持った半魚人。そいつは問答無用で襲い掛かってきた!
ボカスカ、ボカスカ。
いや、あたしの方が技量は上のはずなんだけど、いのししさんに引き続いてやたら苦戦してしまいました。もう、死にそう。
でも何とか退治。洞穴を捜してみたけど、役に立ちそうな物は見つからなかった。ちぇ。
階段を進むと、どんどん登っていって、川の北側に出ました。暗くなってきたので、この辺で今日はもうキャンプしよう。
あたしは盛大に火を焚くと、剣を持ったまま眠りについた。
一時間ほど眠った頃、うなるような獣の鳴き声で目が醒めてしまった。なんだ、一体。
空には満月が輝いていて、その光が、辺りに不気味は影を作る。
なんか、嫌な予感。
すると右手から、毛むくじゃらの男が現れた。狼男だ。
半魚人にやられた傷が痛む腕で、あたしは剣を取る。しかし、狼男は力強く、それに対抗するには、あたしは弱り過ぎていた。
打ち合うこと3合。狼男のツメが、あたしののど笛を切り裂いた。ああ、痛いよ……。
<おしまい>
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