雑居空間
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 社会思想社・現代教養文庫、イアン・リビングストン著のゲームブック、「雪の魔女の洞窟」のプレイを開始しました。

 これ以降、「雪の魔女の洞窟」のネタバレが含まれています。ご注意ください。



<現在の状況>

技術(10):10
体力(21):14
運(10):10

金貨:0
宝石:なし
飲み薬:ツキ薬
食料:10

装備:戦鎚、槍



 いつの間にかあれだけ降り続いていた雪もすっかり止み、怪物を打ち倒したことを祝福するかのように、空には青空が広がっていた。陽光が出ているからといってそれほど暖気が得られるわけでもないが、雪原に反射してまぶしいほどの光を生み出し、多少なりとも心を明るくしてくれる。
 あたしは「水晶の洞窟」を探すべく、山腹を進んだ。目印はあの男性が残してくれた毛皮の切れ端。銀世界にあっては目立つものかもしれないが、見落とさないようよくよく注意して進まなくてはならないだろう。あたしは周囲に気を払いながら、慎重に歩を進めていった。
 !
 突然頭上で何か地響きのような音がしてきた。雪崩だ! 陽射しが差し込んだことで、積雪が緩んだのかもしれない。心底冷えきっている背中に、なお一層冷たいものが走った。
 周囲を見渡すと、地面から大きく張り出した岩があった。避難するのには丁度良さそうだ。雪崩はすぐそこにまで迫っている。迷っている暇はない。あたしは大急ぎでその岩影に潜り込むべく駆け出した。
 ドドドドドドド、と、あたしのすぐ脇を雪崩が通過していく。かろうじて岩陰に飛び込んだものの、あたしは雪崩に巻き込まれないよう、必死で岩肌にしがみついた。
 どれほどの時間そうしていただろうか。ようやく雪崩は通り過ぎ、辺りには静寂が戻った。どうにか雪崩をやり過ごすことができたのだ。荷物も全て無事だ。
 雪崩はもの凄い勢いで周囲の景観をまったく変えてしまった。どんなに剣の腕前があろうとも、あのような自然の脅威を前にしては為す術が無い。あたしは雪崩が目印を押し流したりしなかったことを祈りながら、再び山を登り始めた。

 しばらく進んだところで、あたしは急峻な岸壁によって行く手を遮られてしまった。登山用の装備など無いあたしには、ここを攀じ登っていくことはできない。止む無くその岸壁を迂回するように移動していく。次第に道は下り坂へと差し掛かり、山と山とに挟まれた谷間へと出る。そこであたしは不思議な光景に出くわした。その谷は巨大な氷壁によって埋め尽くされていたのだ。その他にまでするすると降りていくと、とある壁面に毛皮の切れ端が吊るされているのを発見した。これがあの男性が残した目印なのだろうか?
 右手を伸ばすと、そこにあるはずの氷壁に触れることはなく、ただ空を切るのみだった。この氷壁は幻なのだ。あたしは恐る恐るその氷壁の中へと踏み込んでいく。そのトンネルは随分と長く続いている。氷壁を内側から覗くというのは、とても幻想的で奇妙な体験だった。少なくとも、火山や地下深くににトンネルを掘ったりするよりも、ずっとセンスの良いもののように思われた。

 やがてトンネルは丁字路に出た。分岐している左右の通路を見渡してみるが、どちらの通路からも、特にこれといって目に付くものはない。
 少し考えて、あたしは左の通路を選択することにした。左の通路はほどなくに右に折れている。何の気になしにその角を曲がると、不意に現われたマントの男とぶつかりそうになり、咄嗟に後ろに跳び退った。男は長身痩躯の山エルフだ。その肌は病的なほどに青白く、目もひどく落ち窪んでいる。雪の魔女の手下だろうか? 敵の本拠地に踏み込んでおきながら、ただのうのうと歩いていた自分の愚かさに、あたしは舌打ちをする。
 油断を帳消しにしようと剣に手をかけようとしたが、すぐに思いとどまった。その山エルフから、明確な敵意が感じられないのだ。よしんば戦闘になったとしても、その山エルフの貧弱な身体であれば、遅れをとることもないだろう。上手く丸め込むことができれば、この場を無事にやり過ごし、さらには雪の魔女の情報を得ることもできるかもしれない。
 あたしは努めて穏やかに、そして幾らかの下卑た調子も加えながら、雪の魔女の配下に加えて欲しいという旨を山エルフに伝えた。しかしそれに対する山エルフの反応は意外なものだった。
「心正しい者が進んで雪の魔女に荷担しようなどと思うものか。僕だってこれがなければここにはいない!」
 山エルフはずきんを下げ、その首につけられた首輪をあたしに示した。それは薄暗い中でぼんやりと鈍い光を放っている。
「この服従の首輪のせいで言うことをきかされているだけなんだ」
 なんということか。この山エルフは邪悪な魔術によって雪の魔女に行動を縛られていたのだ。しかしあたしは、あくまでも雪の魔女の仲間になりたいと嘘をつき通すことにした。彼になら真相を明かしても良いのかもしれないが、もしかしたらそれによって、雪の魔女にあたしの情報が流れてしまうかも知れないからだ。
「それなら、どうなっても恨まないでくれよ――服従の指輪をはめられてから気が変わってもむだなんだから。地下道をどこまでも行ってわかれ道に出たら右に折れるんだ。幸運を祈るよ」
 山エルフはあたしの態度が変わらないので残念そうに肩をすくめたが、それでも雪の魔女に会うための道を教えてくれた。彼からの誤解を解く機会があるかはわからないが、今はとにかく雪の魔女を倒すことが先決だ。じっと彼の目を見つめると、彼もまた不思議そうな顔をしてあたしを見つめる。あたしは心の中で雪の魔女の打倒を誓うと、彼に軽く礼を述べ、また通路を進んでいった。

 しばらく進むとまた丁字路に出た。山エルフの言葉を信じて、ここは右に折れる。さらに少し進むと、通路の左側の壁が崩れている箇所があった。覗き込んでみると、そこは洞穴になっているようだ。中の様子を窺ってみると、何者かがいるような雰囲気がある。
 一歩、二歩と、慎重にその洞穴へと入ってみると、洞穴の中では、ボロボロの衣服を身に纏った原始人が巨大な鹿の皮を剥いでいるところだった。その後ろには大きな鍋が火にかけられている。ここは厨房のようだ。
「まだ終わらねぇのか! このウスノロ!」
 ほら穴の中に大きな声が響く。鍋の傍にうずくまっていた小さな生物――ノームが、木製のさじを振り回して原始人を怒鳴りつけたのだ。怒鳴られた原始人はしょぼくれた様子でなにやらブツブツとつぶやいている。図体が大きい割には、随分と気の小さい奴だ。
 こいつらならば大した危険もないだろうと、あたしは厨房に入っていったが、あたしに気がついたノームはずかずかと近づいてくると、原始人に対するのと同じように爆発した。
「出てけ。晩飯ができるのは二時間も先だぞ。鐘で知らせるから」
 なんという大声の持ち主だろうか。間近で怒鳴られると耳が痛いなんてものではない。こんな上司がいたのでは、あの原始人もたまったものではないだろう。
 しかしそんなノームも、根はいい奴だったらしい。ボロボロだったあたしの格好を見たノームは、少しばかり気を利かせてくれた。
「とはいえ、そうとうくたびれたようすをしているから、この古くなった菓子でよけりゃやるよ」
 ノームが指差したテーブルの上には、いつのものかもわからないような、古くて干からびた菓子が一切れ乗っていた。それをつまみ上げてみるが、さして美味いものとも思えなかった。ノームと原始人はもうあたしのことは無視して、作業に戻っている。なんとなく所在のなくなったあたしは、菓子を口に放り込むと、元の通路へと戻っていった。案の定、その菓子は甘味も何もあったものではなかったが、こんなものでも幾らかは腹の足しになるだろう。

 通路はやがて洞窟の入口で行き止まりとなった。洞窟の中からは、大勢でなにやら唱えているような、不気味な声が聞こえてくる。中を覗いてみると、中央にある巨大な悪魔の像に向かって、十人程度のフードを被った連中がひれ伏し、一心不乱に崇めたてている。その動きは一糸乱れずに統制されており、まるで全体で1つの生物であるかのようだ。他の場所に目を走らせると、正面と右側の2箇所に出口があるのを確認した。
 正面から戦うにしても、如何せん相手が多すぎる。あたしは彼らにみつからないようさりげなく洞窟内に入ると、そ知らぬ不利をして、入口に近い右の出口へと向かった。横目で確認する限り、彼らはひたすら礼拝を続けている。しかしどうにかやり過ごせたかと思ったのも束の間、断続的に続けられていた詠唱がぴたりと止んだかと思うと、彼らが一斉に立ち上がった。
「貴様、なぜ<凍れるもの>をほめ讃えない?」
 今まではフードに隠れてよく見えなかったが、あたしはざっとその連中を眺め回した。オークにゴブリン、それに原始人といった面々だ。単独でならどうとでも対処でいるだろうが、今は何しろ数が多すぎる。ここは三十六計逃げるに如かず。あたしは出口に向かって駆け出した。
 近くにいた奴が鞭を振り回し、さらに別な奴が吹き矢であたしを狙い撃ったが、幸いなことに両方とも狙いは逸れ、どうやら無事に礼拝堂を抜けることに成功した。

(つづく)



<現在の状況>

技術(10):10
体力(21):15
運(10):7

金貨:0
宝石:なし
飲み薬:ツキ薬
食料:10

装備:戦鎚、槍


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