社会思想社・現代教養文庫、イアン・リビングストン著のゲームブック、「雪の魔女の洞窟」のプレイを開始しました。
これ以降、「雪の魔女の洞窟」のネタバレが含まれています。ご注意ください。
<現在の状況>
技術(10):10
体力(21):21
運(10):10
金貨:0
宝石:なし
飲み薬:ツキ薬
食料:10
装備:なし
朝早くにビッグ・ジムの隊商を発ったあたしは、小一時間ほどで、昨日の惨劇の舞台となった前哨砦に辿り着いた。
あれから幾らかの雪が降り積もり、怪物による破壊の跡も覆い隠されてしまっているが、この雪化粧の下には歴としてその傷跡も、犠牲になった人たちの遺体も、そのまま残されているはずだ。昨日のうちにできるだけでもきちんとしておいてあげられなかったことを、少しだけ後悔した。悪いことに、雪は砦を襲った怪物の痕跡も消し去ってしまっていた。しばらく周辺を探ってみるが、怪物の気配を窺うことはできなかった。
あたしは少し考えをめぐらして、山を目指して歩き出す。怪物の正体ははっきりとはわからないが、ねぐらがあるとすれば平野部よりも山間部だろうと思ったからだ。山に近づいていくにつれて、昨晩のうちに降り積もった柔らかい新雪は次第に厚みを増していき、膝ほどの深さにまで至った。このくらいの深さになると、歩くだけでも体力を消耗していく。
しばらく進んだところで、あたしの行く手を巨大なクレバスが遮っていた。山へ向かうためにはこのクレバスを越えなくてはならないが、飛び越えるには幅が広すぎるように見える。少し離れたところに氷でできた橋のようなものがクレバスにかかっているが、多少心もとなく、それを渡っていくのは危険かもしれない。
化け物による被害を最小限に抑えるためには急がなくてはならないが、元々山に行けば怪物に遭遇できるという保証があるわけでもなし、あたしはこのクレバスを迂回していくことにした。
クレバスの淵に沿って歩いていると、次第に風雪が強くなってきた。視界も徐々に悪化してくる。このまま当ても無く彷徨っていて、果たして怪物に巡り遭えるのか、少し不安にもなってくる。
その時、吹きすさぶ吹雪の中で、なにやら巨大な黒い影が揺らめいたように見えた。剣に手をかけて雪原に目を凝らすと、雪の中からのっそりと巨大な獣が姿を現す。長い毛並に覆われたマンモスだ。足跡からして砦を襲った化け物はこいつではないが、これもまた危険な存在である事に変わりはないし、なによりいきり立って2本の牙を振るわせているこのマンモスが、あたしを見逃してくれるとはとても思えない。
剣を構えて相対すると同時に、マンモスはあたしめがけて突進してきた。それをかわそうと身を翻そうとするが一瞬遅く、あたしは雪原に放り投げられた。こいつの動きはお世辞にも俊敏であるとはいえないが、その巨体を生かした攻撃は油断すれば致命傷になりかねない。今のタイミングを忘れないようにして、あたしの間合いで戦わなくてはならない。
だが、こいつ、何度斬りつけてもなかなか倒れてくれない。あたしの剣は間違いなく肉を切り裂いている筈なのだが、まるで痛みなど感じていないかのようにあたしの前に立ち塞がってくる。見かけ通りにタフな相手だ。しかし生物である以上は、死と無縁でいられる訳は無い。さしもの巨獣も何度目かの攻撃によって足から崩れ落ち、遂には咆哮を上げなげなら血だまりに沈んでいった。苦しそうに喘ぐその喉元に剣を突き刺して、ようやくこいつは動くのを止めた。
少し行ったところで、ようやくクレパスが途切れている場所に出た。随分迂回することになったが、改めて山を目指して進んでいくことができる。次第に雪が激しくなり行進するのもなかなか困難になってくるが、途中休んだりしながら、少しずつでも山を登っていく。
やがて、小さな小屋があるのを発見した。その小屋は張り出した岩の下に建てられており、その屋根には分厚い雪の層が積もっている。見た目はみすぼらしいが、北国の小屋らしくしっかりとした造りになっているようだ。近づいてみると、入り口から外へ出る足跡が残されていて、それはそのまま山の方へと伸びている。足跡が残っているということは、割合最近に出発したのだろう。
凍り付いてしまっている扉をこじ開けて中に入ってみると、そこは一間しかないこじんまりとした造りになっていた。斧や狩猟用の罠などがあることから、ここの住人は猟師を生業としているのだろうか。竈もまだ温かく、やはり外出して間もないようだ。
ふと見ると、竈にかけられた鍋の中にシチューが残されている。ここまで歩き通しで、あたしも少し小腹が減ってきたところだ。ここの住人には留守宅で勝手して申し訳ないが、ここで少し休憩させてもらうことにして、シチューを温め直すために竈で火を焚いた。そのシチューは素朴な味付けながらも、あたしの冷えきった身体を芯から暖めてくれる。おかげであたしは、幾分元気を取り戻すことができた。
そろそろ出発しようかと腰を上げると、寝台の下に武器が納められているのが目にとまった。戦鎚と槍だ。どちらも無骨でしっかりとした作りになっている。剣の腕前に自信はあるが、雪山に棲む獣と戦うにはあるいはこういった武器の方が向いているのかもしれない。ここの住人には迷惑をかけることになるが、無事に化け物を倒した暁にはきちんと返却することにして、この2つの武器も拝借していくことにした。
一休みしたところで、小屋を出て、化け物の探索を再開した。幸いまだ小屋の住人の足跡が残っているので、それを追っていくことにする。もしかしたらここの住人も、あの化け物を追っているのかもしれない。
ただでさえ雪中で歩きにくいというのに、急峻な山道であることに加え、標高も高いために空気も希薄になってくる。周囲も一面真っ白で、現実的な刺激として感じられるのは疲労と寒さだけだ。その孤独を癒してくれるのは、あたしが追っているこの足跡だけだ。この先には確かに人がいる。その望みが無ければ、雪中に倒れ込み、今すぐにでも永遠の眠りにつくという魅力に抗えなかったかもしれない。
ほとんど何も考えられないままにただ歩を進めていただけのあたしを現実に引き戻したのは、山中に轟いた野太い男性の悲鳴だった。それほど遠くは無い。あたしは荷をしっかりと背負いなおすと、急ぎ足で雪中を進んでいった。
少し開けたところでまず目に入ったのは、鋭い牙と爪とを持った、熊のような巨大な獣だった。凶悪な風貌を持ちながら、白く長い体毛の隙間から覗くぎょろりとした目にはどことなく愛嬌がある。
その手前には、おびただしい量の血を流している猟師風の男性がいる。随分ひどい傷を負っているようだ。おそらくあの小屋の住人だろう。助太刀をするため、あたしもその化け物の元へと駆け寄るが、しかし一歩遅く、あたしの目の前で化け物の爪が男性を捕え、雪中へと叩きつけた。
やばい! 今の一撃が致命傷になったかもしれないと、あたしは直感的に感じた。
あたしは身体を思い切りひねり、小屋から持ってきた槍を化け物めがけて投げつけた。男性を倒したばかりの化け物には、不意の一撃を避ける余裕も無く、その槍をまともに胸で受ける。手ごたえはあった。事実、槍は化け物の胸に深々と突き刺さっている。しかし化け物を絶命させるまでには至らなかったようだ。
化け物は雄叫びを上げ、新たな獲物――あたしのことだが――めがけて突進してきた。あたしも剣を手にして、化け物を迎え撃つ。
こいつもマンモス同様、圧倒的なパワーの持ち主ではあるが、動きはそれほど素早くはない。あたしは慎重にその動きを見極めて、剣を繰り出していく。槍の一撃と、おそらくは男性が痛めつけてくれていた分もあり、次第に化け物の動きも鈍くなってくる。だんだんと荒くなってくる化け物の爪をかいくぐって懐に飛び込み、槍が刺さっている付近に剣を突き刺すと、化け物は声にならないうめき声を上げた。
動けなくなった化け物を放って、あたしはすぐさま男性の元へと駆け寄った。どうやらまだ息はあるようだが、傷の様子から見て、そう長くはもたないだろう。あたしにしてやれることは何も無いようだった。
それでも男性は最後の力を振り絞り、あたしに救おうとしてくれたことに対する礼を言ってくれた。職業柄、人の死に接することも多いが、死は免れない運命だとしても、死の間際に多少なりとも安らかな気持ちにしてやれたとしたら、それがせめてもの救いなのだろうと思う。むざむざ化け物に殺されるのに比べれば、仇を取ってやれただけでも役目を果たしたと言えるだろう。
しかし、男性は最後の力を振り絞って語ったことは、それだけに留まらなかった。
彼は猟師をする傍ら、ここ数年は伝説に語られる「水晶の洞窟」を探していたのだという。「水晶の洞窟」は、邪悪なる雪の魔女の命によって造られたもので、この世を支配すべく、世界に氷河期をもたらそうと画策している。その雪の魔女が住む「水晶の洞窟」の入口を、この男性は昨日偶然に発見したというのだ。彼は目印として、洞窟の入口に毛皮の切れ端をぶら下げておいた。そして今日、雪の魔女を倒すために洞窟へと向かっていたのだが、この化け物と出くわしてしまったために、残念ながらその望みは絶たれてしまった。
男性は改めて、あたしに代わりに雪の魔女を倒してくれないかと懇願してくる。洞窟内には莫大な宝が眠っている筈なので、報酬としても充分だろう、と。さらにあたしに何かを言おうとしたようだが、それは血にまみれて言葉にならず、遂に力尽きて男性は息を引き取った。
動かなくなった男性を静かに横たえて、あたしは少し考えをめぐらせる。足跡から見て、この怪物こそが前哨砦を襲った化け物だ。ビッグ・ジムの隊商に帰れば、金貨50枚を得ることができる。しかし、果たしてこのまま雪の魔女を放置してよいものだろうか。世界の支配を企んでいるとしても、今回の仕事を辞して南方にでも行けば、雪の魔女の脅威は当分訪れないだろう。だが、多少の縁を持ってしまったこの事件は素通りするには事が大きいし、なにより目の前で死んだこの男性の最期の願いを斬り捨てるのはあまりにも忍びなかった。
簡単な埋葬で申し訳ないが、あたしは男性の遺体に雪を被せ、軽く黙祷を捧げた。そして今度は「水晶の洞窟」の入口を探すため、また雪の山中へと踏み込んでいった。
(つづく)
<現在の状況>
技術(10):10
体力(21):14
運(10):10
金貨:0
宝石:なし
飲み薬:ツキ薬
食料:10
装備:戦鎚、槍
ヤバい。久しぶりだからというのもあるけど、本気で描写しようとすると時間も体力もやたら消費する……。


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