3月11日 (火) 
今年になって、最初の遠出をする。遠出といったところで、たかだか東京までだが……。
ジパング手帳は3月から更新されたが、昨年の手帳をみてみると僅かに5回使っただけだったことを知る。20年前には新幹線定期券で通勤していたこと、その後も10年前くらいまではジパング手帳20回分を使い切っていたことを思えば、年齢を重ねるに従っていつの間にか高齢者の行動範囲は否応なく狭まっていき、伊豆半島から出ることがほとんどなくなっていることをを思い知らされる。
それに今回に限っていえば、大雪によるカーポート倒壊で車が大破、修理にはドイツから部品を取り寄せるので1月以上かかるとかで、朝早く伊豆高原駅まで桜並木通りを歩くことを余儀なくされた。かつて60歳台の頃は25分で下れた道だが、今回は40分かかった。
しかし、雲一つない晴れ渡った朝のさわやかな空気を吸いながら歩く下り道なので、上りは別だが、私は負担を感じないだけでなくむしろ快い刺激となる。
途中、並木通りの染井吉野の蕾はまだまだ固いが、鶯の鳴き声をきき、何処からか漂ってくる沈丁花の香りを嗅ぎ、駅近くでは早や咲きの桜の綻びを見ると、春がもうそこまで来ていることが感じ取れる。
伊豆急線・伊東線の列車はうまい具合に「リゾート21」車両だったので、空席の多い展望車両に座って春が近づく沿線の風景を楽しんだ。この風景に接すると気分が晴れ晴れする。
池袋のホテルメトロポリタン25階の会議場からはビルが林立する向こうに富士山がくっきりと浮かんでいる。伊豆に住む私にとって富士の姿は珍しくないが、ぎっしり埋まった街区越しに見る富士山は違った味わいがある。
K会の理事会で予算書の数字に眼を通していたら、視力がかたんと落ちていることに気付いた。老眼鏡を通しても0、6、8、9の数字が識別できないのである。なるほど書斎で細かい数字を見るのに最近はルーペを使っていたことを思いだした。
聴力はなんとか補聴器でカバーできるとしても、こういう場で数字も読めないとなると、ぼちぼち理事退任を申し出るべき時期に来ているな、と思う。顧みれば、20数年前理事に就任したときは、私は最若輩だった。それがいつの間にか、最年長になっている。眼や耳だけではなく頭も弱くなっているかもしれない。自戒せねばなるまい。


理事会を終えて、年一度のインプラントの定期健診に麹町の歯医者を訪れる。インプラント異常なし。1年ぶりに見る四谷見附も心なしかくっきり晴れやかに見える。この桜樹もやがて開花を迎えよう。
帰途、東京駅の雑踏には圧倒される。日頃、人の少ないところに居住していると激しい人の出入りだけでも息苦しくなる。以前は、これが適度な刺激になっていたのだが……。
夜に入って伊豆高原駅に着く。駅前八幡野口にこれまで見たことのないイルミネーションが輝いているのに驚く。タクシーの運転手さんの言うところによると今年の初めごろからだという。「さくら祭」のためか。伊豆高原もすこしずつおしゃれになってきているようだ。この日の総歩数1万歩、よく歩いた。
