受忍論を改め差別なき補償を
アジア・太平洋戦争末期の空襲で、一夜で10万人もの命が奪われた1945年3月10日未明の東京大空襲からあすで80年です。日本政府は広島、長崎への原爆投下を含む空襲の民間人被害者に一切の謝罪と補償をしていません。一方、元軍人・軍属と遺族への国家補償は総額60兆円を超えています。
政府は民間人に対し「戦争の被害は国民が等しく受忍しなければならない」(受忍論)との主張を盾に国家補償を拒み、差別を続けています。同じ敗戦国のドイツやイタリアが軍民の区別なく補償しているのとは対照的です。
■国の責任を認めよ
日本政府の「受忍論」を国際社会で厳しく批判したのが、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の田中熙巳(てるみ)代表委員です。被団協は再び被爆者をつくらないため、国家補償と核兵器廃絶を基本要求に運動してきました。田中さんはノーベル平和賞授賞式の演説で、被爆者は受忍論にあらがい、「原爆被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならない」と強く求めてきたと語りました。
国は被爆者援護法を制定しましたが、社会保障施策の枠を出ません。国の責任を認めないものです。
田中さんは「何十万人という死者に対する補償は一切なく、日本政府は一貫して国家補償を拒み、放射線被害に限定した対策のみを今日まで続けてきました」と訴え、「もう一度繰り返します。原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていない」と草稿にない言葉を加え、真っ向から政府を非難しました。
被団協の基本要求は、国家補償を「同じ被害を起こさせないための第一歩」と位置づけています。国の責任で補償させることは、政府がアジア・太平洋地域への侵略を反省し、再び戦争の道に進まないための証しになります。
■政治決断で救済を
政府に非戦の誓いを求めるのは空襲被害者も同じです。被害者は救済法制定を求め、50年以上運動をしてきました。空襲被害者には被爆者援護法のような救済制度すらありません。爆弾の破片で体に一生の傷を負っても、顔や手足にケロイドが残っても、父母を殺され戦災孤児や遺児になっても国は救済をしませんでした。国が実態調査をしていないため、正確な犠牲者数もわかりません。
超党派の議員連盟は、心身に障害を負った生存者への一律50万円の一時金支給と実態調査、追悼事業が柱の法案をまとめています。救済の対象者も支給額も絞り込んだ限定的な内容です。しかし、それでさえ、自民党の一部議員の反対で法案提出に至っていません。
被害者は高齢化しています。全国空襲被害者連絡協議会は4日の集会で、今国会での救済法案の成立を求め、戦後80年たってもなお民間人を差別し続ける日本政府を「人権を尊重する民主国家といえるのか」と批判しました。
石破茂首相は、国会で政治決断を迫られても後ろ向きの姿勢に終始しました。石破首相は被害者救済を決断し、国の責任を果たすべきです。
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