議会の論戦と住民運動で前進
誰もが補聴器を買えるようにしてほしい―。そんな声が広がり、独自の助成を行う自治体が、この1年で2倍近くに増えました。(重村幸)
軽度や中等度の難聴の高齢者などに補聴器助成を行う自治体が、4日時点で239になりました。(グラフ)
東京都では、23区のうち19区で実現。さらに、北、世田谷、中野の3区が新年度での実施の意向を明らかにしており、台東区も「準備を進める」と、全区実現へと大きく前進しています。
調査した全日本年金者組合大阪府本部の林洋司執行委員は、「議会論戦と住民運動の連係プレーが実現させた」と振り返ります。
日本共産党東京都議団(19人)が助成制度をくり返し求める中で、都に包括補助金が活用できることを明らかにさせ、「区市町村の取り組みを支援する」との答弁を引き出しました。新年度予算案には、補聴器助成が個別の補助金として計上され、さらに前進。党都議団は、自治体間の格差をなくすための補助率引き上げなど、引き続き要求しています。「自治体の役割を発揮させる議員の重要性を痛感する」と、林さん。
2023年から助成を始めた杉並区でも、住民の陳情署名や党区議団の条例案が議会に提出されるなど、粘り強い取り組みがありました。22年には、市民と野党が応援し、補聴器助成を公約にしていた岸本聡子さんが区長に初当選。党区議団が「都の補助金を使って助成を」と提案したところ、前向きな答弁を返し、早期の実現につながりました。
聞こえるようになり“集まりにも行ける”
厚生労働省は2021年、自治体の補聴器助成の状況などを調査した「難聴高齢者の社会参加等に向けた適切な補聴器利用とその効果に関する研究」を公表。当時、助成は36自治体、65歳以上の住民の聴力検査は4自治体のみが実施との結果をふまえ、「取り組み強化の検討が求められる」と提言しました。
同研究では、医師会に委託して聴力検査を行う金沢市の事例を調査。19年実績で、補聴器が必要と判定されたのは65人、実際に装用したのは7人。その全員がほぼ満足と答えたといいます。「補聴器をつければ生活の質が上がるのは確実だが、購入するまでがかなりハードルが高い」として、「価格の問題もある」と指摘しています。
東京都港区では、補聴器相談医が補聴器の装用を必要と認めた60歳以上の住民に、13万7千円まで助成します。(住民税課税者には2分の1)
制度を始めた22年度の利用は523人と、当初の見込み220人を大きく上回りました。
担当課は「医師会や補聴器販売店とも相談して助成額を決めた。初期には13万7千円以内の補聴器で十分適応する人も多いので、自己負担なく買えることが、申請の多さにつながったと思う」と話します。住民からは「制度があったから購入できた」「聞こえるようになり、集まりにも行けるようになった」などの声が寄せられたといいます。
前出の林さんは、「補聴器助成をさらに広げるとともに、聴力検査での早期発見、補聴器を使い続けるための支援を含め、難聴対策の保険適用をめざして運動を進めたい」と意気込みます。
国の補聴器助成の対象 聴力レベルが両耳70デシベル以上や、片耳90デシベル以上・もう片耳が50デシベル以上など、高度や重度の難聴。
補聴器助成 実施自治体
(全日本年金者組合 大阪府本部調査、2024年1月4日)
北海道 赤井川村、北見市、池田町、豊頃町、蘭越町、東川町、新得町、幌加内町、上土幌町、歌志内市、東神楽町、美瑛町、根室市、厚岸町、弟子屈町、上川町、浦幌町、沼田町、赤平市、鹿追町、網走市、木古内町
岩手県 大船渡市、遠野市、九戸村、久慈市、釜石市、陸前高田市
宮城県 富谷市、大郷町、東松島市
秋田県 三種町、横手市、仙北市、にかほ市
山形県 庄内町、山形市
福島県 二本松市、南相馬市、西郷村、白河市、金山町
茨城県 古河市、土浦市、筑西市、城里町
栃木県 宇都宮市、足利市、鹿沼市、真岡市
群馬県 大泉町、前橋市、太田市、千代田町、館林市
埼玉県 秩父市、小鹿野町、滑川町、草加市、鴻巣町、吉見町、皆野町、三郷市、越谷市
千葉県 浦安市、船橋市、印西市、鎌ヶ谷市
東京都 新宿区、江戸川区、葛飾区、中央区、大田区、千代田区、墨田区、豊島区、足立区、文京区、利島村、板橋区、江東区、練馬区、渋谷区、港区、荒川区、三鷹市、日野市、府中市、三宅村、杉並区、品川区、調布市、小金井市、目黒区
神奈川県 厚木市、愛川町、相模原市、清川村、逗子市
新潟県 三条市、阿賀野市、聖籠町、刈羽村、弥彦村、見附市、出雲崎町、湯沢町、加茂市、栗島浦村、十日町市、上越市、胎内市、佐渡市、村上市、燕市、新発田市、小千谷市、妙高市、五泉市、魚沼市、阿賀町、田上町、津南町、関川村、新潟市、柏崎市、糸魚川市、南魚沼市、長岡市
山梨県 山梨市、富士吉田市、甲州市
長野県 木曽町、南箕輪村、飯綱町、南木曽町、南牧村、伊那市、松川村、中川村、阿智村、富士見町、飯島町、下諏訪町、飯山市、大野町、大町市
静岡県 長泉町、磐田市、焼津市、藤枝市、富士宮市、御殿場市、掛川市
岐阜県 飛騨市、輪之内町、白川村、海津市、岐南町、高山市、関市
富山県 小矢部市、滑川市
愛知県 設楽町、犬山市、稲沢市、あま市、知多市、大府市、豊明市
三重県 朝日町、南伊勢町
滋賀県 豊郷町、東近江市、長浜市、甲良町、多賀町
京都府 京丹後市、精華町
大阪府 貝塚市、交野市、泉大津市、岬町、富田林市、大阪狭山市
兵庫県 明石市、稲美町、相生市、養父市、新温泉町、多可町、加西市、朝来市
奈良県 斑鳩町、三郷町、桜井市、香芝市
和歌山県 紀美野町、すさみ町、和歌山市、印南市
鳥取県 湯梨浜町、大山町、日吉津村、北栄町、三朝町、境港市、岩美町、琴浦町、日野町
島根県 益田市
岡山県 備前市、瀬戸内市、吉備中央町
高知県 四万十町、いの町、仁淀川町、土佐清水市
福岡県 田川市、小竹町、みやこ町、大刀洗町、豊前市
長崎県 五島市
熊本県 益城町、五木村、長州町
宮崎県 三股町、新富町、諸塚村
鹿児島県 曽於市
沖縄県 那覇市、南風原町、恩納村、西原町、読谷村、豊見城市、金武町、北中城村
※障害者総合支援法による国の助成、18歳未満の軽度・中等度の難聴児のみが対象の制度は含まない。現物支給含む。並びは、制度の開始年順
※猪名川町では、昨年度の予算においての考えは
このようなものでした。
本年度、進展はあるでしょうか?