内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

安倍総理の辞任表明 ―不可避となった衆院総選挙―

2007-09-12 | Weblog
安倍総理の辞任表明
―不可避となった衆院総選挙―
 9月12日午後2時、安倍総理は官邸における緊急記者会見において、辞任の意向を表明すると共に、与党自民党において速やかに党総裁を選ぶよう要請した。辞任の理由は、7月の参院選での大敗を受けて、8月27日に内閣改造したものの、その後の閣僚等の政治資金を巡る不祥事などとも相俟って、国民の信頼を得れず、政権運営上新しい局面が必要と判断してのものだ。相応の要素が加わった苦渋の決断であったのであろう。
 しかし、直接の原因は、テロ特措法の「延長」問題だ。安倍総理は、先のAPEC首脳会議後の記者会見において、米豪との首脳会議やブッシュ大統領との会談結果を引用しつつ、国際社会への貢献の観点から「テロとの戦いを継続する意思」を表明し、インド洋による自衛隊の補給活動が「国際約束」になったと述べ、その継続を「職を賭して取り組む」とし、10日の所信表明演説においても補給活動の継続の重要性を強調した。「職責にしがみつくことはない」とも述べた。だが、参議院の第一党となった民主党がテロ特措法の延長に反対してる上、与党自民党首脳を中心として、給油と水の補給活動に絞った新法の提出、参議院で否決された場合の衆議院での再採決(3分の2の多数)などの案が出されていた。他方、総理としては、あくまで「国際約束」した「給油活動の継続」を希望しており、新法採択となれば時間が掛かり、現行のテロ特措法は、11月1日で期限切れとなり、給油活動は一旦中断され、活動の「継続」にはならない状況となるなど、党内外において局面打開が困難になったとの判断が働いたものと見られる。民主党との党首会談も、同党側から国会での審議を優先するとされ、実現出来なかった。
 8月27日、安倍総理・総裁は、内閣の人事を刷新し、3人の派閥会長を含むベテラン議員を外務、防衛、財務などの主要閣僚に配するなど手堅い陣容とした。党3役についても、幹事長、総務会長に麻生派、二階派の会長を当て、「派閥均衡」に配慮した「挙党体制」とした。良く言えば集団指導型、責任分散型と言えるが、実力のある船頭が多く、「安倍色」が薄れ、求心力を失っていたとも言える。
また、政治資金の不適正記載や不適正な献金・寄付の受領など、「政治とカネ」の問題が閣内や閣僚経験者等から次から次へと明らかにされている。「身体検査」の問題や総理の任命責任の問題以前に、政権与党、議員の自己管理能力や政治倫理の緩みの問題ではないのだろうか。これだけ広範に「政治とカネ」の問題が表面化すると、総理・党総裁として、誰を信じて良いのだろうか。もっとも、ある週刊誌が総理自身の相続税の脱税疑惑を掲載するとの報道もある。無論、野党にも同種の問題はあろう。しかし、長期に政権を担い、意志さえあれば問題を解決出来る立場にあった政権与党の責任は重い。更に、参院選大敗の要因の一つになった年金記録の記載漏れに加え、年金横領・詐取問題まで明らかとなり、行政組織が政権を支える体制になっていなかったことも、国民の信頼を失った背景としてある。内閣の行政への指導・監督能力が問われる問題ではあるが、長期の間に蓄積された問題であり、一内閣の責任を問うのも酷な面がある。
 いずれにしても、総理・党総裁が辞任の意向を表明した以上、自民党の総裁選びとなり、その時点で内閣総辞職、国会での首班指名の段取りとなろう。しかし、自民党の新総裁が衆議院で指名を受けられても、与野党が逆転した参議院で首相に指名される可能性はまずない。となれば、衆議院を解散し、民意を問う以外に選択肢はなくなろう。同時に、新しい政権がどのような政策を進めるかについて、速やかに国民の信を問うべきなのであろう。

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