国民生活を圧迫する年金・健保問題
― 将来不安の最大要因 -
1、 膨大な年金納付の記録漏れ問題自体だけでも年金制度の信頼性を揺るがすところで
あるのに、更に年金保険料着服・横領事件が数多くあったことが表面化し、横領した職員の刑事告発を巡って、国(厚労省・社保庁)と市町村など地方自治体とが対立している。
これまでに明らかになっている着服・横領は、社保庁職員によるものが52件(約1億7千万円)、市区町村職員等によるものが101件(約2億4千万円)。これらの事件に対する社保庁と自治体の対応は、国民が納付した保険料の着服・横領であったにも拘わらず、免職や退職などの懲戒処分で、刑事告発されているのは1件程度しかない。それも横領事件の時効は7年となっているので、現在告発できるのは9件しかない。舛添厚労相は、これに対し、盗人は刑事告発し、法に基づき処罰するとの当たり前といえば当たり前の姿勢を明らかにし、関係自治体に告発を要請した。
しかし、告発するのは東京都日野市のみで、大崎、池田、田村の3市は告発せず、その他は未定。その上、鳥取県倉吉市長など、着服が行われていない自治体から厚労相の言動に抗議がなされている。厚労相が就任当初、この問題で「社会保険庁は信用ならない。市町村はもっと信用ならない」と言ったのが背景にあり、その後の「小人の戯言」発言も反発を買っている。
それはそうだ。社保庁自体も52件、約1億7千万円の横領があるし、市区町村の横領事件の多くは何らかの形で同庁に報告してあったであろうし、そもそも厚労省・社保庁には監督責任があり、他人事のように地方自治体を批判する立場にはないのだろう。
増田総務相が、各自治体の対応につき、「適切かどうか最終的には住民が決める話」と述べたと伝えられているが、法治国家においては、横領その他の刑法上の犯罪は法に基づき判断されるべきであり、公務員については告発すべきことが定められているので(刑事訴訟法)、自治体や住民が判断することではないはずではないのか。住民が判断するのは、その上で自治体や政府の施策に対し下されるのであろう。
このように長期に亘り多数の年金横領・着服を許したことは、歴代内閣、政権与党の行政に対する監督能力が問われるところでもある。また、会計検査院の検査体制や不正者の処分についての人事院の役割も問われるところであり、行政の適正化のための監視制度のあり方も課題となりそうだ。
2、年金記録漏れについても、08年3月までに是正するとしているが、約5千万件(社保庁推定2兆3千億円相当)の内、524万件は「氏名なし」であり、丸々払い損となる。また、記録回復のために設けられた総務省の下での「第三者委員会」での救済作業も、約1万6千件の申し立てに対し、9月末で190人程度しか記録救済できておらず、記録回復のためのシステムが開発されても、救済率は低く、明年3月までの是正、救済が疑問視され始めている。それでも保険料を納付した国民の権利であるので1人でも多く救済されるべきであろうが、残りは払い損となる。もっとも、納付された約2兆円超の資金が年金基金に積み立てられていない場合の問題は残る。
このようにずさんな管理をしている上、厚生年金会館の建設など「福祉施設費」に約3兆5千億円、グリーンピアの建設や住宅融資などへの出資が約2兆円など、少なくても合計6兆8千億円近くが年金給付以外に流用、浪費されていることが民主党の質問で明らかになったと伝えられている。多くの施設については投売り状態であり、また、この金額にこれら施設の人件費、管理費への補填額を含めれば流用額は更に膨らむ恐れがある。
その上、ボーナスからの年金料徴収や給付年齢の引き上げ、給付額の引き下げが行なわれ、それでも足りないとして消費税などの引き上げが議論されている。それに有料高速道路の料金やタクシー料金、その他ガソリン、食料品などの値上げもある。
この年金問題は、老齢者だけでなく、若い世代にとっても将来不安の最大の要因となっており、消費抑制の背景ともなっている。
可能な限り多くの記録回復を速やかに行なうと共に、上記の「氏名なし」を含め、不明のまま残るものが可成り出ると予想されるので、時間を掛けて、給付申請時における確認はもとよりのこと、加入者全員に対し納付記録を通知し、記録の回復・是正作業を継続するなど、救済策を継続して行くべきであろう。また、特に問題の多い国民年金については、抜本的な制度改革を検討すると共に、基礎年金カード(仮称)を発給し、納付者や受給者が納付記録などを常時点検出来るよう改善を図るべきであろう。
3、健康保険についても、少子高齢化の中で制度を維持するため、自己負担を増やすことは仕方がないが(受益者負担原則)、65歳以上の年金対象者については、単に年齢に基づき一律に引き上げるのではなく、年金を含む総所得が例えば800万円以上については現役時同様30%負担、それ以下は25%負担、年収300万円以下は20%負担など、年収、支払能力の実態に沿った負担にすべきなのであろう。現在与党が検討しているのは、老齢者負担増の一定期間の猶予であるが、目先の総選挙目的と見られている上、所得機会の少なくなる75歳以上の負担を一律に30%に引き上げるのは酷だ。
更に、健康保険料の他に、いつの間にか介護保険料が付け加えられたが、実質的な健康保険料の値上げであり、年間7万円以上の追加支払いは国民年金1ヶ月分以上の場合もあり、年金生活者には負担が大きい。加えて、介護保険料が国民年金から自動的に差し引かれる仕組みとなっているようであり、実質的な年金給付額の引き下げとなり、年金生活者にとっては深刻であろう。老齢者が介護福祉のために困窮することになる。
これでは、将来への年金不安に加え、所得の低い者の負担感が高くなることになり、「国民福祉」ではなく「国民酷祉」と言われても仕方がないのではないだろうか。
― 将来不安の最大要因 -
1、 膨大な年金納付の記録漏れ問題自体だけでも年金制度の信頼性を揺るがすところで
あるのに、更に年金保険料着服・横領事件が数多くあったことが表面化し、横領した職員の刑事告発を巡って、国(厚労省・社保庁)と市町村など地方自治体とが対立している。
これまでに明らかになっている着服・横領は、社保庁職員によるものが52件(約1億7千万円)、市区町村職員等によるものが101件(約2億4千万円)。これらの事件に対する社保庁と自治体の対応は、国民が納付した保険料の着服・横領であったにも拘わらず、免職や退職などの懲戒処分で、刑事告発されているのは1件程度しかない。それも横領事件の時効は7年となっているので、現在告発できるのは9件しかない。舛添厚労相は、これに対し、盗人は刑事告発し、法に基づき処罰するとの当たり前といえば当たり前の姿勢を明らかにし、関係自治体に告発を要請した。
しかし、告発するのは東京都日野市のみで、大崎、池田、田村の3市は告発せず、その他は未定。その上、鳥取県倉吉市長など、着服が行われていない自治体から厚労相の言動に抗議がなされている。厚労相が就任当初、この問題で「社会保険庁は信用ならない。市町村はもっと信用ならない」と言ったのが背景にあり、その後の「小人の戯言」発言も反発を買っている。
それはそうだ。社保庁自体も52件、約1億7千万円の横領があるし、市区町村の横領事件の多くは何らかの形で同庁に報告してあったであろうし、そもそも厚労省・社保庁には監督責任があり、他人事のように地方自治体を批判する立場にはないのだろう。
増田総務相が、各自治体の対応につき、「適切かどうか最終的には住民が決める話」と述べたと伝えられているが、法治国家においては、横領その他の刑法上の犯罪は法に基づき判断されるべきであり、公務員については告発すべきことが定められているので(刑事訴訟法)、自治体や住民が判断することではないはずではないのか。住民が判断するのは、その上で自治体や政府の施策に対し下されるのであろう。
このように長期に亘り多数の年金横領・着服を許したことは、歴代内閣、政権与党の行政に対する監督能力が問われるところでもある。また、会計検査院の検査体制や不正者の処分についての人事院の役割も問われるところであり、行政の適正化のための監視制度のあり方も課題となりそうだ。
2、年金記録漏れについても、08年3月までに是正するとしているが、約5千万件(社保庁推定2兆3千億円相当)の内、524万件は「氏名なし」であり、丸々払い損となる。また、記録回復のために設けられた総務省の下での「第三者委員会」での救済作業も、約1万6千件の申し立てに対し、9月末で190人程度しか記録救済できておらず、記録回復のためのシステムが開発されても、救済率は低く、明年3月までの是正、救済が疑問視され始めている。それでも保険料を納付した国民の権利であるので1人でも多く救済されるべきであろうが、残りは払い損となる。もっとも、納付された約2兆円超の資金が年金基金に積み立てられていない場合の問題は残る。
このようにずさんな管理をしている上、厚生年金会館の建設など「福祉施設費」に約3兆5千億円、グリーンピアの建設や住宅融資などへの出資が約2兆円など、少なくても合計6兆8千億円近くが年金給付以外に流用、浪費されていることが民主党の質問で明らかになったと伝えられている。多くの施設については投売り状態であり、また、この金額にこれら施設の人件費、管理費への補填額を含めれば流用額は更に膨らむ恐れがある。
その上、ボーナスからの年金料徴収や給付年齢の引き上げ、給付額の引き下げが行なわれ、それでも足りないとして消費税などの引き上げが議論されている。それに有料高速道路の料金やタクシー料金、その他ガソリン、食料品などの値上げもある。
この年金問題は、老齢者だけでなく、若い世代にとっても将来不安の最大の要因となっており、消費抑制の背景ともなっている。
可能な限り多くの記録回復を速やかに行なうと共に、上記の「氏名なし」を含め、不明のまま残るものが可成り出ると予想されるので、時間を掛けて、給付申請時における確認はもとよりのこと、加入者全員に対し納付記録を通知し、記録の回復・是正作業を継続するなど、救済策を継続して行くべきであろう。また、特に問題の多い国民年金については、抜本的な制度改革を検討すると共に、基礎年金カード(仮称)を発給し、納付者や受給者が納付記録などを常時点検出来るよう改善を図るべきであろう。
3、健康保険についても、少子高齢化の中で制度を維持するため、自己負担を増やすことは仕方がないが(受益者負担原則)、65歳以上の年金対象者については、単に年齢に基づき一律に引き上げるのではなく、年金を含む総所得が例えば800万円以上については現役時同様30%負担、それ以下は25%負担、年収300万円以下は20%負担など、年収、支払能力の実態に沿った負担にすべきなのであろう。現在与党が検討しているのは、老齢者負担増の一定期間の猶予であるが、目先の総選挙目的と見られている上、所得機会の少なくなる75歳以上の負担を一律に30%に引き上げるのは酷だ。
更に、健康保険料の他に、いつの間にか介護保険料が付け加えられたが、実質的な健康保険料の値上げであり、年間7万円以上の追加支払いは国民年金1ヶ月分以上の場合もあり、年金生活者には負担が大きい。加えて、介護保険料が国民年金から自動的に差し引かれる仕組みとなっているようであり、実質的な年金給付額の引き下げとなり、年金生活者にとっては深刻であろう。老齢者が介護福祉のために困窮することになる。
これでは、将来への年金不安に加え、所得の低い者の負担感が高くなることになり、「国民福祉」ではなく「国民酷祉」と言われても仕方がないのではないだろうか。