公共放送NHKのあり方と受信料問題
11月15日、民間テレビ放送キー局5社の2007年中間決算が発表された。テレビ放送事業を中心とする売上高は、フジテレビ2,816億円、日本テレビ1,655億円、TBS1,588億円、テレビ朝日1,246億円、テレビ東京591億円で、民放5社全体では7,896億円に達する。後半期は若干業績が下がる見通しとされているが、年間では約1兆5千億円規模となる。
他方、視聴料を徴収しているNHKの07年度事業予算は、6,350億円規模となっており、前年度より若干削減されてはいるが、事業規模でどの民放よりも大きく、民放5社の年間売上高の4割程度にも達する。受信料徴収に要する費用は約760億円であるが、これだけでもテレビ東京の年間売上高の7割近くにも達する。
NHKは、テレビ放送が未だ普及せず、娯楽等も少なかった時代から、その普及、発展を目的とする公共放送事業を展開し、この分野の発展に大きな貢献をして来ている。しかし、今日では、各種の民放テレビ・ラジオは日本全国に顕著に普及すると共に、核家族化と相まって、受信料支払い対象者も飛躍的に増加し、受信料も増加の一途を辿って来た。同時に、情報通信手段や番組等も、国際衛星放送やインターネットによるものなど視聴者が自由に選択出来る時代になっており、NHKがこれまで公共放送として担ってきた役割の多くは達成されていると言える。
日本放送協会(NHK)は、1950年に設立され、58年にテレビ放送が開始されてからは、ラジオとテレビの受信契約がそれぞれ行われていたが、ラジオの一般化とテレビ事業が軌道に乗った1968年には、ラジオ受信料は廃止されている。そしてテレビ受信契約件数は、オリンピックなどを契機としてテレビが普及していた68年の2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。他方、テレビ放送等の開発・普及のための全国的な基盤投資はほぼ完了していると言ってもよいであろう。本来であれば、68年以降にNHKの役割を再検討し、受信料を引き下げて行くと共に、公共放送としてふさわしい報道、教育、地域情報など、情報提供型の放送事業に特化して行くべきであったのであろう。
そもそも公共放送に、6,000億円を越える事業費が必要なのであろうか。ましてや支払いを「義務化」して事業費を更に増やす必要があるのであろうか。2割程度の値下げでは不十分で、その程度で「義務化」すれば、テレビ受信者は現在の契約件数の2~2.5倍に達すると見込まれているので、実際の徴収額は増える可能性もありそうだ。法律により国民の受信料支払いを「義務化」し、他方でNHK側の「報道の自由」を認めよとの主張は、どうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして始めて生ずるものである。NHKとの契約・支払いを一般的、包括的に義務化すると言うのであれば、国家事業とし、国家予算により行なわれることになるが、「報道の自由」との問題がある上、国民の望むところではないであろう。
戦後直後には客観的な情報だけではなく、娯楽、音楽・演芸、スポーツ、演芸その他の芸能、趣味などについても、選択が限られていた。しかし、今日では、視聴者がこれらを「選ぶ」時代であり、「与えられる」時代ではなくなっている。
このような考え方から、NHKは新たな時代に沿った「公共放送」として、次のように改善、改編することを提案したい。
1.視聴希望者との「有料個別契約化」、「有線放送契約化」
NHK放送は、放送事業の普及・振興という本来の役割を概ね果たした今日、BS放送を含め、視聴を希望する者に対する「有料個別契約」とすることが最も望ましい。BS放送を別料金とし、また何故3チャンネルも必要かなども疑問だ。テレビ放送のデジタル化に伴い、視聴希望者には受像解読装置を提供するか有線放送契約とすることが望ましい。
「有料個別契約」とすることが当面困難な場合には、芸能・娯楽、スポーツ部門等を切り離すと共に、テレビ放送については、総合放送、教育放送、及びBS放送の3つのチャンネルにするなど、ラジオ放送等を含め簡素な形に再編・統合する。「公共放送」の対象とすべき事業・番組を情報提供型の内容に特化し、事業予算も大幅に削減する。
切り離した芸能・娯楽、スポーツ部門は、コマーシャル等を認め、民放化するか、時間帯を売却出来ることとする。それにより、文化、芸能、スポーツなどの分野で新たな事業が生まれ、また、各地方それぞれの特色や創造性が出て来る可能性があり、この分野が活性化される可能性がある。情報通信分野の参入も可能になろう。重要なことは、NHKの番組・事業を単に縮小するということではなく、「公共放送」として残すべきは残し、それ以外は、民営化を含め、それぞれ適当な形態で発展させて行くということであり、また、残すべき「公共放送」につき国民の理解を得て置くということであろう。
2.報道、教育、地域情報など、情報提供型事業への特化
NHKの「公共放送」事業については、そもそもの原点に立ち返り、コマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)を中心として、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきであろう。
特にニュース番組については、日本の各地方の産業、地方議会、の動きなど、地域に密着したニュースも充実させると共に、在留邦人や旅行者の多い各国など、世界各地の情報
も充実させる。
地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割ではあるが、放送事業やインターネットなどが多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送を見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっているので、緊急情報についての民放・プロバイダー各社の協力に関し、現実的な改善も必要になって来ている。
3.海外への発信事業の促進―海外向け「日本情報発信基地局」(仮称)の新設-
海外放送については、在留邦人向けの日本語の他、英語(当面英語に特化し、字幕表示や吹き替え放送を必要に応じ実施)による報道中心の海外放送事業(原則24時間放送)とし、NHKの他、民放各社及び情報関連各社の参加も得て、世界に向けての日本の発信事業を新設することが強く望まれる。特に、日本を含むアジアの情勢を中心としつつ、日本の情報力を結集し、米欧やロシアの報道についても充実させて行くなど、民営の「日本情報発信基地局」を構築して行く。
4.受信料の引き下げ
「公共放送」部分の受信料(有料個別契約)については、大幅に引き下げ、年1回の徴収(分割払い可)とし、振込み制を原則にするなど、集金体制を簡素化する。いずれにしても、別料金となっているBS受信料金については、速やかに任意の個別契約とし、希望者は、受像機購入段階で暗号電波読取装置の取り付け、有線放送等の契約を行えるようにするなど改善が望まれる。
11月15日、民間テレビ放送キー局5社の2007年中間決算が発表された。テレビ放送事業を中心とする売上高は、フジテレビ2,816億円、日本テレビ1,655億円、TBS1,588億円、テレビ朝日1,246億円、テレビ東京591億円で、民放5社全体では7,896億円に達する。後半期は若干業績が下がる見通しとされているが、年間では約1兆5千億円規模となる。
他方、視聴料を徴収しているNHKの07年度事業予算は、6,350億円規模となっており、前年度より若干削減されてはいるが、事業規模でどの民放よりも大きく、民放5社の年間売上高の4割程度にも達する。受信料徴収に要する費用は約760億円であるが、これだけでもテレビ東京の年間売上高の7割近くにも達する。
NHKは、テレビ放送が未だ普及せず、娯楽等も少なかった時代から、その普及、発展を目的とする公共放送事業を展開し、この分野の発展に大きな貢献をして来ている。しかし、今日では、各種の民放テレビ・ラジオは日本全国に顕著に普及すると共に、核家族化と相まって、受信料支払い対象者も飛躍的に増加し、受信料も増加の一途を辿って来た。同時に、情報通信手段や番組等も、国際衛星放送やインターネットによるものなど視聴者が自由に選択出来る時代になっており、NHKがこれまで公共放送として担ってきた役割の多くは達成されていると言える。
日本放送協会(NHK)は、1950年に設立され、58年にテレビ放送が開始されてからは、ラジオとテレビの受信契約がそれぞれ行われていたが、ラジオの一般化とテレビ事業が軌道に乗った1968年には、ラジオ受信料は廃止されている。そしてテレビ受信契約件数は、オリンピックなどを契機としてテレビが普及していた68年の2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。他方、テレビ放送等の開発・普及のための全国的な基盤投資はほぼ完了していると言ってもよいであろう。本来であれば、68年以降にNHKの役割を再検討し、受信料を引き下げて行くと共に、公共放送としてふさわしい報道、教育、地域情報など、情報提供型の放送事業に特化して行くべきであったのであろう。
そもそも公共放送に、6,000億円を越える事業費が必要なのであろうか。ましてや支払いを「義務化」して事業費を更に増やす必要があるのであろうか。2割程度の値下げでは不十分で、その程度で「義務化」すれば、テレビ受信者は現在の契約件数の2~2.5倍に達すると見込まれているので、実際の徴収額は増える可能性もありそうだ。法律により国民の受信料支払いを「義務化」し、他方でNHK側の「報道の自由」を認めよとの主張は、どうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして始めて生ずるものである。NHKとの契約・支払いを一般的、包括的に義務化すると言うのであれば、国家事業とし、国家予算により行なわれることになるが、「報道の自由」との問題がある上、国民の望むところではないであろう。
戦後直後には客観的な情報だけではなく、娯楽、音楽・演芸、スポーツ、演芸その他の芸能、趣味などについても、選択が限られていた。しかし、今日では、視聴者がこれらを「選ぶ」時代であり、「与えられる」時代ではなくなっている。
このような考え方から、NHKは新たな時代に沿った「公共放送」として、次のように改善、改編することを提案したい。
1.視聴希望者との「有料個別契約化」、「有線放送契約化」
NHK放送は、放送事業の普及・振興という本来の役割を概ね果たした今日、BS放送を含め、視聴を希望する者に対する「有料個別契約」とすることが最も望ましい。BS放送を別料金とし、また何故3チャンネルも必要かなども疑問だ。テレビ放送のデジタル化に伴い、視聴希望者には受像解読装置を提供するか有線放送契約とすることが望ましい。
「有料個別契約」とすることが当面困難な場合には、芸能・娯楽、スポーツ部門等を切り離すと共に、テレビ放送については、総合放送、教育放送、及びBS放送の3つのチャンネルにするなど、ラジオ放送等を含め簡素な形に再編・統合する。「公共放送」の対象とすべき事業・番組を情報提供型の内容に特化し、事業予算も大幅に削減する。
切り離した芸能・娯楽、スポーツ部門は、コマーシャル等を認め、民放化するか、時間帯を売却出来ることとする。それにより、文化、芸能、スポーツなどの分野で新たな事業が生まれ、また、各地方それぞれの特色や創造性が出て来る可能性があり、この分野が活性化される可能性がある。情報通信分野の参入も可能になろう。重要なことは、NHKの番組・事業を単に縮小するということではなく、「公共放送」として残すべきは残し、それ以外は、民営化を含め、それぞれ適当な形態で発展させて行くということであり、また、残すべき「公共放送」につき国民の理解を得て置くということであろう。
2.報道、教育、地域情報など、情報提供型事業への特化
NHKの「公共放送」事業については、そもそもの原点に立ち返り、コマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)を中心として、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきであろう。
特にニュース番組については、日本の各地方の産業、地方議会、の動きなど、地域に密着したニュースも充実させると共に、在留邦人や旅行者の多い各国など、世界各地の情報
も充実させる。
地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割ではあるが、放送事業やインターネットなどが多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送を見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっているので、緊急情報についての民放・プロバイダー各社の協力に関し、現実的な改善も必要になって来ている。
3.海外への発信事業の促進―海外向け「日本情報発信基地局」(仮称)の新設-
海外放送については、在留邦人向けの日本語の他、英語(当面英語に特化し、字幕表示や吹き替え放送を必要に応じ実施)による報道中心の海外放送事業(原則24時間放送)とし、NHKの他、民放各社及び情報関連各社の参加も得て、世界に向けての日本の発信事業を新設することが強く望まれる。特に、日本を含むアジアの情勢を中心としつつ、日本の情報力を結集し、米欧やロシアの報道についても充実させて行くなど、民営の「日本情報発信基地局」を構築して行く。
4.受信料の引き下げ
「公共放送」部分の受信料(有料個別契約)については、大幅に引き下げ、年1回の徴収(分割払い可)とし、振込み制を原則にするなど、集金体制を簡素化する。いずれにしても、別料金となっているBS受信料金については、速やかに任意の個別契約とし、希望者は、受像機購入段階で暗号電波読取装置の取り付け、有線放送等の契約を行えるようにするなど改善が望まれる。