待った無しの地球温暖化対策 -どこまで踏み込めるかG-8サミットー(その1)
7月7日より洞爺湖で主要先進8か国首脳会議が開催される。イラク、アフガン支援や国際的な影響を与えている原油、食料価格の高騰のほか、地球温暖化問題が緊急の課題となっている。世界各地での異常気象や北極圏での氷海、南極での雪原等の縮小など、地球環境は予想以上の速さで進んでおり、京都議定書後の環境対策が国際的な課題となっている。
サミットの議長国として福田総理は、6月9日、日本記者クラブで地球温暖化対策に関するビジョンを発表した。その中で「低炭素社会」を目指すとして、温室効果ガスの削減目標を「2050年までに現状比60~80%削減する」とした。また中期目標では、産業別に削減可能量を積み上げる「セクター別」の有効性を強調し、温室効果ガスの排出枠を国や企業間で取引する「排出量取引」について本年秋に国内統合市場を試験的に導入することなどを明らかにした。
「低炭素社会」の実現は1月の施政方針演説で言及されたもので、ネーミングが無機質であるが、取り組み姿勢は評価される。しかし問題は、これを実際に速やかに具体化出来るか、そして代替エネルギーを含めどのような方法で実現して行くかであろう。
1、萎縮するビジョン
これを受けて、総理の諮問機関である「地球温暖化問題に関する懇談会」(座長奥田碩内閣特別顧問、前トヨタ自動車会長)がサミットに向けた提言を福田総理に提出した。「提言」は、温室効果ガスの長期目標を総理のビジョンに合わせているが、中期目標については「志の高いもの」との表現で具体性に掛ける。国内排出権取引制度についても「日本の実情を踏まえたもの」との表現で実施時期なども提言されておらず、6月9日の総理の「ビジョン」より後退している。エネルギーの大口需要者である電力や鉄鋼産業を代表する委員の慎重論や、環境省、経済産業省、外務省などの関係省庁の立場の相違などが反映された形だ。今後の具体化に向けての調整の困難さと総理のリーダシップ発揮の必要性を暗示している。
2、温室効果ガス削減に向けての原子力発電促進論の危うさ
サミットで打ち出す温暖化対策の一つとして、新興国などで原子力発電所を導入する場合、国際原子力機関(IAEA)を中心として各国が協力体制を作り、平和利用への限定や安全の確保を促すことが盛り込まれる方向で検討されていると伝えられている。1月9日、外務省の助成機関である国際問題研究所は、サミットで主要テーマとなることを前提として同研究所関係の専門家グループに検討を委託し、「温暖化対策として原子力を促進する政策メカニズムの創設」を求める提言をまとめている。
確かに原子力は炭酸ガス削減については効果が期待出来るエネルギー源であり、その推進は政府の基本政策の一つでもある。
しかし原子力発電の普及については、環境上その他で大きな課題がある。直接的な問題は、大量に発生する放射性廃棄物の処理方法である。日本でも、短期的には原発施設内に保管しているものの、中・長期的には漏れ出さないような容器に入れ、地中に埋めたり、深海に投棄するなどが検討されている。それを引き受ける地方には国より交付金や補助金が出されているが、住民の環境問題への懸念は強い。 また操業中の放射能漏れなども厳重に管理されなくてはならない。要するに、原子力発電は、炭酸ガス削減には効果的であっても、その他の「環境問題」を抱えているということである。従ってその普及については国民的な理解が不可欠であろう。更に、日本や中国、インド北部、インドネシアなどの地震多発国・地域については耐震上の問題があろう。また、米国スリーマイル島(1989年3月)や露チェルノブイリ(86年4月)の原発事故などを勘案すると、新興国などについては、一定の技術協力を行っても、事故発生の場合を含めて中・長期の管理・統治能力が課題となろうし、国際テロ等からの攻撃への対策や核不拡散に対する担保も不可欠であろう。
このような諸点を勘案すると、新興国などへの原発の普及は限定的なものとすることが望ましい。途上国へのエネルギー支援としては、むしろ水力、太陽電池、風力、或いは地熱という自然エネルギ・ミックスの普及に重点を置き、支援して行く体制を整えることが望ましい。また、今後、温暖化ガス排出目標の設定など、国際的な環境改善努力において協力しない途上国については、援助についても緊急な人道的なもの以外は行わないなどの援助規律を検討すべきなのであろう。(08.07.) (Copy Right Reserved.)
7月7日より洞爺湖で主要先進8か国首脳会議が開催される。イラク、アフガン支援や国際的な影響を与えている原油、食料価格の高騰のほか、地球温暖化問題が緊急の課題となっている。世界各地での異常気象や北極圏での氷海、南極での雪原等の縮小など、地球環境は予想以上の速さで進んでおり、京都議定書後の環境対策が国際的な課題となっている。
サミットの議長国として福田総理は、6月9日、日本記者クラブで地球温暖化対策に関するビジョンを発表した。その中で「低炭素社会」を目指すとして、温室効果ガスの削減目標を「2050年までに現状比60~80%削減する」とした。また中期目標では、産業別に削減可能量を積み上げる「セクター別」の有効性を強調し、温室効果ガスの排出枠を国や企業間で取引する「排出量取引」について本年秋に国内統合市場を試験的に導入することなどを明らかにした。
「低炭素社会」の実現は1月の施政方針演説で言及されたもので、ネーミングが無機質であるが、取り組み姿勢は評価される。しかし問題は、これを実際に速やかに具体化出来るか、そして代替エネルギーを含めどのような方法で実現して行くかであろう。
1、萎縮するビジョン
これを受けて、総理の諮問機関である「地球温暖化問題に関する懇談会」(座長奥田碩内閣特別顧問、前トヨタ自動車会長)がサミットに向けた提言を福田総理に提出した。「提言」は、温室効果ガスの長期目標を総理のビジョンに合わせているが、中期目標については「志の高いもの」との表現で具体性に掛ける。国内排出権取引制度についても「日本の実情を踏まえたもの」との表現で実施時期なども提言されておらず、6月9日の総理の「ビジョン」より後退している。エネルギーの大口需要者である電力や鉄鋼産業を代表する委員の慎重論や、環境省、経済産業省、外務省などの関係省庁の立場の相違などが反映された形だ。今後の具体化に向けての調整の困難さと総理のリーダシップ発揮の必要性を暗示している。
2、温室効果ガス削減に向けての原子力発電促進論の危うさ
サミットで打ち出す温暖化対策の一つとして、新興国などで原子力発電所を導入する場合、国際原子力機関(IAEA)を中心として各国が協力体制を作り、平和利用への限定や安全の確保を促すことが盛り込まれる方向で検討されていると伝えられている。1月9日、外務省の助成機関である国際問題研究所は、サミットで主要テーマとなることを前提として同研究所関係の専門家グループに検討を委託し、「温暖化対策として原子力を促進する政策メカニズムの創設」を求める提言をまとめている。
確かに原子力は炭酸ガス削減については効果が期待出来るエネルギー源であり、その推進は政府の基本政策の一つでもある。
しかし原子力発電の普及については、環境上その他で大きな課題がある。直接的な問題は、大量に発生する放射性廃棄物の処理方法である。日本でも、短期的には原発施設内に保管しているものの、中・長期的には漏れ出さないような容器に入れ、地中に埋めたり、深海に投棄するなどが検討されている。それを引き受ける地方には国より交付金や補助金が出されているが、住民の環境問題への懸念は強い。 また操業中の放射能漏れなども厳重に管理されなくてはならない。要するに、原子力発電は、炭酸ガス削減には効果的であっても、その他の「環境問題」を抱えているということである。従ってその普及については国民的な理解が不可欠であろう。更に、日本や中国、インド北部、インドネシアなどの地震多発国・地域については耐震上の問題があろう。また、米国スリーマイル島(1989年3月)や露チェルノブイリ(86年4月)の原発事故などを勘案すると、新興国などについては、一定の技術協力を行っても、事故発生の場合を含めて中・長期の管理・統治能力が課題となろうし、国際テロ等からの攻撃への対策や核不拡散に対する担保も不可欠であろう。
このような諸点を勘案すると、新興国などへの原発の普及は限定的なものとすることが望ましい。途上国へのエネルギー支援としては、むしろ水力、太陽電池、風力、或いは地熱という自然エネルギ・ミックスの普及に重点を置き、支援して行く体制を整えることが望ましい。また、今後、温暖化ガス排出目標の設定など、国際的な環境改善努力において協力しない途上国については、援助についても緊急な人道的なもの以外は行わないなどの援助規律を検討すべきなのであろう。(08.07.) (Copy Right Reserved.)