内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

問われる景気対策の中身(その1/2)

2008-12-07 | Weblog
問われる景気対策の中身(その1/2)
 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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問われる景気対策の中身(その1/2)
 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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問われる景気対策の中身(その1/2)

2008-12-07 | Weblog
問われる景気対策の中身(その1/2)
 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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問われる景気対策の中身(その1/2)
 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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問われる景気対策の中身(その1/2)

2008-12-07 | Weblog
問われる景気対策の中身(その1/2)
 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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問われる景気対策の中身(その1/2)
 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
 「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。
 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。
 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2)石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3)地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。(08.11.30.)      (Copy Right Reserved.)

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