問われる景気対策の中身 (その2/2)
2、日本の「景気対策」として何が必要か
現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1)予防的な金融強化改正法案
大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
(2)望まれる中小企業への経営健全化融資
日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。
従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4) 強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5) 地球温暖化時代に即応した公共事業
地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.) (Copy Right Reserved.)
2、日本の「景気対策」として何が必要か
現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1)予防的な金融強化改正法案
大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
(2)望まれる中小企業への経営健全化融資
日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。
従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4) 強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5) 地球温暖化時代に即応した公共事業
地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.) (Copy Right Reserved.)