内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <その2 再掲 >

2021-07-19 | Weblog

地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <その2 再掲 >
 2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
 国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
1、意見が分かれる地球温暖化の原因       <その1で掲載>
2、荒れる世界の気候 <その1で掲載>
3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸 <その1で掲載>
4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換
それ以上に、地球温暖化の進行や気候変動の激化を食い止め、地球環境を保護、改善する必要性に今一度目を向けることが緊要ではないだろうか。それはこの地球自体を人類共通の遺産として保全することを意味する。
地球環境は、政府に委ねておけば良いというものではなく、家庭や産業自体が工夫、努力しなくては改善できない。比喩的に言うと、家庭で使用する電球を10個から7個にすれば日常生活にそれほど不自由することなく節電できる。企業やオフィスビルなどについても同様で、節電を図ればコスト削減にもなり、企業利益にもプラスとなる。レジ袋や必要以上の過剰な食物などを少なくして行けば生産に要するエネルギーの節約となる。また日本が環境技術先進国と言うのであれば、自然エネルギーの組織的な開発、活用や節エネ技術の更なる開発などで温室効果ガスの削減にそれぞれの立場から努力、貢献することが出来るのではないだろうか。またそのような努力から、地球環境にもプラスとなる生活スタイルやビジネスチャンスが生まれることが期待される。
しかし、政府や産業レベルでの対応は不可欠であろう。経済成長についても、温室効果ガスの減少を目標とし、再生可能エネルギーに重点を当てた成長モデルを構築する事が望まれる。原子力発電については、段階的に廃止することを明確にすると共に、再稼働に関しては、施設の安全性を確保する一方、各種の膨大な原子力廃棄物の最終的な処理方法を確立することがまず必要であろう。
 その上でリーダーシップが期待されるのは、環境問題に関心が強い欧州諸国であるが、温暖化ガス排出量が世界の1位、2位を占める中国と米国の積極的な姿勢と取り組みが不可欠である。特に2期目を目指すトランプ米大統領が、地球環境問題について具体的な取り組み姿勢を示すべきと言えよう。
5、途上国開発援助の在り方の抜本的見直しの必要性
また途上国援助においても、従来型の重厚長大なインフラ開発・整備ではなく、再生可能エネルギーを使用するなど、温室効果ガスの排出が少ない経済社会の構築を目標とする開発モデルや政府開発援助(ODA)モデルとして行くことが望まれる。
国連自体も、経済社会理事会を中心として、アフリカ諸国の安定を含め必ずしも成功とは言えない「開発の10年」の見直しなど、途上国援助の在り方を抜本的に見直すと共の、世界食糧計画や難民高等弁務官など各種の専門機関を通じて相対的に潤沢に行われて来た人道援助や食糧援助についても、人口抑制の側面を含め抜本的、総合的に再検討する必要がありそうだ。そもそも援助する側もこれまでの高成長の維持は困難であり、経済的体力が低下しているので、これまでのような援助を継続して行くことは困難であろう。それに加え、温暖化問題への対応が必要となるので、国際的な調整が必要になっている。
各国ごとの援助姿勢についても、現在中国が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立され、中国主導の「一帯一路」政策が推進される体制が整った。それが途上国における従来型の長大重工型、大量のエネルギー消費型のインフラ建設に投資されていくとすると地球環境の悪化に繋がることになるので、温室効果ガスの減少につながる環境改善インフラへの投資促進となることが望ましい。「一帯一路」政策もその在り方が再検討される必要があろう。中国自体も、これまでのような高成長、高エネルギー消費の経済成長を継続すれば、いずれ住めない大陸となる恐れもある。(2014.3.31./15.4.3.改定/19. 6.12.再改定)(All Rights Reserved.)

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地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <その1 再掲>

2021-07-19 | Weblog

地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <その1 再掲>
 2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
 国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
1、意見が分かれる地球温暖化の原因
温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が出した07年の第4次評価報告書でも、“ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が強い”と指摘している。同グループはゴア米元副大統領と共にノーベル賞を受賞したが、氷河学者からは300mもの厚さの氷河がそんなに早くは融けないとの疑問が呈され、同グループがそれを認めるなど、信憑性が疑われている。地球がミニ氷河期に入っているとの説もある。
 
 2、荒れる世界の気候
どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。衛星写真でも、08年においては6月末頃までは陸地まで氷海で覆われていたが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能となる。その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。6、7年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。また南極大陸などでは氷原がとけ、南極海に流れ出し海洋の水位を上げている。
これは今起きている現実である。短期的には夏の一定期間航行が可能になり、商業航路や観光、北極圏開発のビジネスチャンスが広がる。
 他方それは温暖化への警告でもある。北極の氷海縮小は、気流や海流による冷却効果を失わせ、地球温暖化を早め、海流や気流が激変し気候変動を激化させる恐れがある。氷海が融ければ白熊や微生物などの希少生物も死滅して行く。取り戻すことは出来ない。北極圏の環境悪化は、米、露など沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
 現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。それが世界各地で今起こっている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。
 
3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸
同時に忘れてはならないのは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。またヒマラヤやアルプス、キリマンジェロ等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 北極圏も南極同様、人類の共通の資産と位置付け、大陸棚の領有権や「線引き」の凍結や北極圏の一定の範囲を世界遺産に指定するなど、国際的な保護が必要だ。
 
4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換  <その2 に掲載>
 
5、途上国開発援助の在り方の抜本的見直しの必要性    <その2 に掲載>

(2014.3.31./15.4.3.改定/19. 6.12.再改定)(All Rights Reserved.)

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地球環境保護、日本の真価が問われる

2021-07-19 | Weblog

地球環境保護、日本の真価が問われる

‎ 10月26日開催された臨時国会において、菅義偉首相は就任後初めての所信表明を行い、「温室効果ガスの排出量を2050年までに全体としてゼロにする」との目標を表明した。 そして「グリーン社会の実現」を成長戦略の柱と位置付けた。‎

 「温室効果ガス排出量の2050年までの実質ゼロ」目標は、前政権当時の「50年までに80%削減」を一歩進めたもので、管政権の温室効果ガス削減の促進を期待したい。

 しかし、その目標は30年も先のものである上、EUな主要各国が2030年までの目標を設定しており、これに比して削減速度が遅い。

 1、温室効果ガス実質ゼロ目標に向け2030年、2040年の中間目標設定が必要

(1)不可欠な温室効果ガス削減と激甚化する気候変動への対応

‎ 地球温暖化により、北極圏の氷海や南極を覆う氷原・氷河、ヒマラヤやアルプスなどの氷河が融け、海温と共に大気温が上がり、大量の水蒸気を空中に巻き上げ、地球温暖化が進み、世界各地で今までにはないような荒々しい気候変動に見舞われている。 更にこのまま温暖化が進み臨界点に達すれば、止めることの出来ない極限的な激しい気候に見舞われる恐れがある。 これは理論でも学説でもなく、現実に体験している現実なのである。‎

 それを止めるためには、産業革命以来増え続けている温室効果ガスを削減し、地球温暖化を止めなくてはならない。

‎ 30年先は長すぎる。 加速努力が必要のようだ。 地球が壊れてからでは遅い。‎

 (2)具体的な中間目標設定とそれぞれの指針が不可欠

‎ 温暖化効果ガスについては、世界の主要国が2030年までの削減目標を設定している。 EUは40%削減(1990年比)、インド33~35%削減(GDP当たりのCo2排出、2005年比)、中国60~65%削減(同、2005年比)と具体的な目標を設定している。 特にEUは1990年比での削減目標であり、今日に比べて炭酸ガスなどの排出量の少ない時代との比較であり、問題意識の高さを示している。 中国についても目標達成を期待したい。‎

‎ これに対し日本は、これまで2030年までの削減目標を26%としており、その上2013年比と問題が深刻化し始めてからの基準で、基準年自体を甘くしており、2005年比では25.4%削減となる。 この目標も断念されている。 因みに、米国はオバマ政権時代に2025年までに26~28%削減(2005年比)として行政府の目標を設定しており、バイデン候補が新大統領となり民主党政権となれば、このラインで推進されるであろう。 またロシアは同年までに70~75%抑制(25~30%削減、1990年比)としている。‎

 日本は2050年までの実質ゼロが表明され、その実現に期待したいが、2030年、2040年の中間目標が具体的に示されると共に、どの分野でどのように進めるかの指針が示されることが期待される。

 2、福島原発解体処理による放射能汚染水の海洋放流は望ましくない

‎ 2011年3月に発生した東北大地震の津波により炉心融解を含む爆発事故を起こした福島原発の解体処理が長期化する中、放射能汚染水が貯水槽に大量に貯蔵され、限界を迎えていることから、その放出が検討されている。 放射能はほぼ取り除かれ、濃度の薄いトリウム残っているものの放射線レベルは低いので、海洋への放水が検討されている。 放射能は「飲んでも健康に影響はない」とされているが、福島の漁業関係者は風評被害などを懸念し、海洋投棄反対を表明している。‎

‎ これに対し行政当局は、賠償等を検討するなどとしているが、この問題は賠償や風評被害だけの問題ではない。 国際的信頼、国家としての信用の問題となろう。‎

‎ 日本は、国際環境グループに毎年のように「化石賞」を受けている。 発電等に石炭、石油などの化石燃料が使われているからだ。 失礼な話ではあるが、不名誉なことだ。 韓国が、福島産の野菜や魚類を放射能汚染の恐れありとの風評を流し続けたが、今回は国全体に関わることになる。‎

 もしこの放射線汚染水が処理をされ「飲んでも大丈夫」なレベルとなっているのであれば、日本国内で処理できるし、そうすべきであろう。

‎ 確かに海洋は広い。 だから海洋投棄も良いということにはならない。 領海内でも海は続いており外洋に広がる。 現在、海洋のプラステイックごみの問題が深刻化している。 世界中で投棄されてきたプラステイックごみは、毎年増えると共に、風化し微粒子化し世界の海洋を漂い、海底に蓄積し続けており、それを魚類が食べ、人間の口にも入るようになる。 十分希釈されたとしても放射線汚染水が放流され、これが世界で常態化する恐れもあり、その悪影響は計り知れない。‎

‎ 放射線汚染水の処分は、日本国内で行うことを前提として真剣に検討されるべきであろう。 例えば、国立公園内の人里離れた場所や硫黄島などの離島に貯水池を作り、適正に管理するなどを検討してはどうだろうか。 それが国家としての責任ではなかろうか。 (2020. 11. 4. )‎

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オリンピック・パラリンピック、アスリートファーストか国民の健康ファーストか! (再掲)

2021-07-19 | Weblog

オリンピック・パラリンピック、アスリートファーストか国民の健康ファーストか! (再掲)

 東京オリンピック開催まで3ヶ月ほどに迫った2021年2月17日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子前オリンピック・パラリンピック担当大臣(参議院議員)が就任した。

 橋本新会長はスピードスケートや自転車で3回オリンピックに参加し、オリンピックの精神、規則を理解しており、また参議院議員活動やオリンピック・パラリンピック担当大臣として東京での開催準備を手掛けており、新会長の手腕に期待したい。

 他方、実際問題としてコロナウイルスを抱えての開催準備であるので厳しい選択を迫られることも予想される。

(1)アスリートファーストか国民の健康・命ファーストか

 橋本新会長は、就任に当たり、安全・安心な大会開催を最優先課題としつつ、アスリートファーストの大会としたいと述べている。通常のオリンピック・パラリンピックであればその通りであり、練習に練習を重ねて来たアスリートの皆さんの活躍を心から期待したい。また日本のみならず、参加予定国・地域の全てのアスリートに公平な競争条件を確保することもアスリートファーストと言える。しかしコロナウイルス問題はまだ克服の見通しはまだ立っていない。

 コロナウイルスの拡大は、日本を含め世界全体でややおさまりつつあると見られ、またワクチンが開発、実施され始め、収束に向けた活動が各国で加速するものと思われる。だが日本を含め世界全体で感染者1億1千万人 、死亡245万人強にも及んでおり、収束にはまだ相当の期間を要すると見られる。ワクチンについては、生産能力に加え、接種に膨大且つ慎重な作業が必要で隅々まで実施には相当の期間を要すると予想されている。

 更に、変異種が英国、南ア、カナダ、ブラジルなどで発生し、日本にも事例が見られ始めており、伝染力が強く、抗体を弱めるなどと伝えられているものの、未知の部分も多く、国際的な拡大を抑制する必要性が新たに出てきている。

 そのような中での東京でのオリンピック・パラリンピックの開催で、2020年の時点で206の国・地域の参加が予定されており、2021年7月にこれらの国・地域が出席すると仮定すると、各国から多数の選手、関係者、更に海外よりの観客を認めるといろいろの地域から多数の人が訪日する。

 選手その他の外国人に3日以内の陰性証明またはワクチン接種証明を求めるのか、変異種発生国の入国を認めるか否かの他、空港でのチェックと検査体制、機内に感染者が出た場合には搭乗者の一定期間の隔離、陽性反応が出た場合の隔離と治療など、入国時に相当な作業と時間を要するだろう。更に国内に入ってからの行動制限などの徹底が求められる可能性が残っている。

 206の国・地域からのこれら外国人への対応を、国内でのワクチン接種という膨大な作業に加えて実施しなくてはならない。現在医療関係者(約370万~470万人)のワクチン接種が行われており、4月からは一般国民を対象に65歳以上の年長者から順次始まるようだが、市区町村や医療関係者はこれに忙殺されると予想される。

 現実問題として、そのような中で206の国・地域からのこれら外国人への対応のために要員と施設を確保出来るのだろうか。それを怠ると、変異種を含む感染拡大のリスクがあり、その影響は来年の冬以降まで残るであろう。

 国民の健康と命を守るため、アスリートファーストとは必ずしも行かなくなるかもしれないが、アスリートを含めた感染拡大のリスクを少なくする形での対応が望ましいのではなかろうか。

(2)感染拡大リスク対経済的効果

 東京オリンピック・パラリンピック開催中止の場合、その経済損失は4.5兆円、無観客の場合でも2.4兆円とも伝えられている(関西大学宮本勝浩名誉教授の試算)。中止の場合は国民総生産の1%近くになる。

 2020年度の実質経済成長率については、2020年12月段階での政府見通しは前年度比マイナス5.2%となるので、GDP1%に相当する経済損失は小さくない。一方、もし7月の東京オリンピックが従来通りの形で開催され、感染拡大となった場合の経済全体へのリスクはそれよりも遙かに大きいことは2020年の経済成長率減退から明らかな上、国民の健康と命に与えるリスクも大きい。

 2021年1月9、10日に共同通信社が全国に電話調査した結果によると、「中止すべきだ」が35.3%、「再延期すべきだ」が44.8%と報じており、予定通りの開催に反対の意見は80%強に及ぶ。観光業、航空運輸業、飲食を含むサービス業、イベント産業を中心とする経済的打撃は大きく、大会による経済的効果を望む声は大きいし、誰しも開催に期待したいが、解雇・倒産や雇い止め等で職を失った多数の人々、そして大学、高校から小中学校まで自由な学校生活を抑制されている多くの生徒・学生の不安、更に全国的な感染への懸念や不安が強いことを物語っている。

(3)国際的なアスリートの公平な競争条件は確保出来るのか

 東京オリンピックでは、33競技が実施される予定だが、世界各国、地域で2020年2月より国境を越えた競技はほとんど抑制され、国内の競技、練習なども国によって状況が異なる。十分練習できない国、地域もあるだろう。コロナウイルス対策で参加選手に各種の条件が課される可能性もあり、選手のコンデイションが国・地域により異なる場合が出ることも予想される。

 2月中旬にメルボルンで全豪オープンテニスが開催され、オリンピック開催の1つの例となると言われており、参考にはなる。この試合に、錦織圭選手が参加したが、同じ航空機の搭乗者に陽性者がいたため濃厚接触者として2週間狭い個室に隔離され、その間練習にも外出できず、1回戦で敗退した。同選手は公には不満等を述べてはおらず、また7月までには状況はある程度改善しているものと期待したいところだが、オリンピック大会で錦織選手と同じような状況に置かれる選手が出た場合、公平でないとの批判が出ることも予想される。更にオリンピックはチーム競技を含め33競技で206の国・地域からの参加となり、毎日複数の競技が行われる。従って競技規模が圧倒的に大きく複雑になるので、世界全体としてアスリートそれぞれに公平な競争、競技条件を確保出来るのか明かではない。なお全豪女子オープンテニスでは、大坂なおみ選手が、準々決勝でセリーナ・ウイリアムズ選手、決勝でブレイデイ選手を抑え優勝した。この困難な状況での優勝は多くのアスリートに希望を与えるもので、心から祝福したい。

 國際オリンピック委員会(IOC)は、世界の何か国・地域が最終的に参加し、それぞれの競技で選手が何人参加する予定か、またそれぞれの競技で世界レベルの公平な競技条件が確保出来ているか否かを把握していなくてはならない。そのような情報が速やかに世界に提供されることが望まれる。(2021.2.21.)

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国際オリンピック委(IOC)に望まれる中止の決断

2021-07-19 | Weblog

 国際オリンピック委(IOC)に望まれる中止の決断

 6月1日より6月20日まで、日本においてコロナウイルス拡大防止のため、東京など9道府県に一部対象地域を拡大して緊急事態宣言が延長されることになった。2021年1月より第3波の感染拡大が起こり、社会経済活動の自粛、抑制を要請する緊急事態宣言が実施されたが、顕著な減少はみられず、宣言は短期間解除されたものの、半年以上に及ぶ緊急事態宣言となる。

 緊急事態宣言等が予定通り6月20日で解除されても、東京オリンピック開催まで約1か月しか残されていない。新規感染の顕著な減少が期待される。しかし大型商業施設や映画館、スポーツ施設等については制限が緩和されたこと、及び、イギリス変異種に次いで新たにインド変異種への転換、拡大が見られることを考慮すると、ワクチン接種が進んではいるものの、1日100万回の接種が実現したとしても、8月には新たなピークが来るとの予想もある。

 更に感染拡大が収まらない状況の中、6月21日より、一部緩和されたものの首都東京については8月22日まで緊急事態宣言が行われた。しかし7月14日、東京の新規感染者は1,149人にまで跳ね上がり、周辺3県も増加傾向に転じている。人流が止まらない。1つは飲食業等や職を奪われた就労世代で我慢の限界で死活問題になっているからだが、7月23日からオリンピックが開催され、海外からの選手等や準備が進んでおり、響いて来ない。

 米国等一部諸国では状況は改善しているが、インドネシアでは感染が拡大し、医療崩壊の状況であり、イラクでも治療用の酸素ボンベの倉庫が爆発しそれだけで90人以上が死亡している。東京はもとよりアジア他の多くの諸国で感染が終息する状況でない今、何故オリンピックを開催しなくてはならないのか、多くの人は強い不安と疑問を持っている。人類の英知と努力を結集すべきは、オリンピックか人類の健康と命かが問われているかのようだ。この状況でオリンピックを強行する意義は何なのだろうか。

 

 1、国際オリンピック委員会(IOC)が行える開催中止の決断

 世界に目を転じると、米、英などワクチン接種が進み制限解除の動きが見られるが、世界全体として未だに感染拡大は止まっていない。

 特に3月、4月頃よりインドにおける爆発的な感染拡大によりインド変異種が国外に飛び火し、ネパールやマレイシアなどで感染が拡大し、5月にロックダウンが実施、決定されている。更にベトナムでは、イギリス変異種とインド変異種が結合し、感染力が更に強いウイルスに変異しており、空気感染の恐れもあると伝えられている。

 武漢発の新型コロナウイルスで注意を要するのは、全世界の諸国・地域に感染が拡大することに加え、感染力や重症化率を強めながら次々と変異していることだ。今後、一定地域、諸国で沈静化しても、また世界のどこから新たな変異種が広がるか分からない。グローバリゼーションは、世界の運輸・交通や物流、人流などに大きな恩恵をもたらしたが、新型コロナウイルスというパンデミックの出現により、今後国境を越えた人の往来には特別の注意を要することになった。

 日本だけでなく、世界がこのような状況の時に、世界200か国・地域からオリンピック選手約1.5万人、及び競技関係者、IOC関係者及び報道関係者7万人前後が7月23日の開会式に向けて訪日する。未だ具体的な参加国・地域数、参加者数が公表されておらず、また入国管理措置、国内での行動制限や監視体制などの「安全、安心な開催」に向けての全容は明らかにされていないが、どのような措置をとっても漏れが出る可能性がある。また措置を厳しくすればするほど、参加選手や来日者の不満、批判もつのるだろう。

 このような状態でオリンピックを開催することについては、各国で警鐘が鳴らされ初めている。

 オリンピックの実施や中止についての決定権決はIOCにある。開催都市である東京都も、その下部組織ではあるが政府の影響が大きい組織委員会も全体を支援する政府も、中止を求めれば違約金等の問題があるので言い出しにくい。

 現在日本を含め世界が直面しているのは、世界70億人の健康と命にかかわるパンデミックという例外的な事態である。国際オリンピック委員会(IOC)としても、例外的な対応として、違約金等を求めることなく中止を決定しても良いのではなかろうか。またIOC側も、米国のテレビ局等との関係で違約金や補償金の問題が生ずるだろうが、互に求めないことで調整すべきであろう。

 IOCは、開催国に実施を求める以上、各国の選手、競技関係者だけではなく、開催国日本を含め世界の全ての人々の健康と命を守る義務がある。

 

 2、日本の世論を理解していないのだろうか、IOC

 東京オリンピック7月開催についての世論調査では、2021年1月以来、一貫して70%以上が「中止、又は延期」であり、6月の時点でもその状態に変化はない。3年後にはパリ・オリンピックがあるので、再延期の可能性はないとすると、

70%以上が本年7月の開催に反対していることになる。その背景には、若い世代についても、2020年4月に大学等に進学してもキャンパス生活を送ることも出来ず、アルバイト先もなく、また解雇や雇い止めなども一般化し、学校を卒業しても就職機会は限られており、将来不安や孤独感が募っている状況がある。産業面でも、飲食業から娯楽・イベント、観光などが大打撃を受けており、1日も早い感染収束を願っている。誰しもオリンピック・パラリンピックが開催できれば良いと思っているが、今はそれどころではなく、行動制限の解除であり、日常の生活や日常の健康を取り戻したいという意識が反映されていると言えよう。世論の70%以上が1月以来一貫してオリンピック7月開催に不安を抱いている事実を理解して欲しいものだ。

 各国選手の事前合宿を受け入れ予定であった地方自治体も、ワクチン接種促進のための業務に忙殺され、また地元住民の懸念などを配慮して、既に105の自治体が辞退(6月1日現在)している。

 地方自治体が各国選手の事前合宿受け入れを辞退している理由が一つある。それは受け入れても、宿舎と競技場の間以外は行動が制限され、選手にストレスを与えるおそれがある上、地方を見たり食事を楽しんで頂くことも出来ないからだ。受け入れても、地方との交流も「お・も・て・な・し」も出来ない。

 この状況は、オリンピック本番にも当てはまる。海外からの選手他来訪者は、マスコミを含め、原則として宿舎と競技場の間のみに行動制限され、交通手段も専用バス等に限定され、市中には出られない。「お・も・て・な・し」も宿舎内だけに限定される。オリンピック参加者と開催国との交流がなくなれば、それだけオリンピックの意義は薄れてしまう。

 その上心配は尽きない。来日する選手、競技関係者はワクチンを受けてくるとしているが、マスコミ関係者を含め、一部は受けていないであろう。入国に際し厳格な検査を受け、またその後も頻繁に検査を受けることになろうが、検査が最大のおもてなしになってしまいそうだ。

 その上、行動制限を完全に実施することは難しい。世界の200近い国や地域から7万~8万人内外の来訪者があるので、言葉や慣習、価値観等の差もあり、ルールブックに従って行動制限することは難しいのではないか。そうなると相互に感染が発生し、コロナウイルス・パンデミックの大実験場となる恐れがある。それが杞憂に終われば良いが、そうなった場合に誰が責任を取るのだろうか。(2012.6.2. ,'21.7.14. 一部追加)

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