内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

オリンピック・パラリンピック、アスリートファーストか国民の健康ファーストか! (再掲)

2021-07-24 | Weblog

オリンピック・パラリンピック、アスリートファーストか国民の健康ファーストか! (再掲)

 東京オリンピック開催まで3ヶ月ほどに迫った2021年2月17日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子前オリンピック・パラリンピック担当大臣(参議院議員)が就任した。

 橋本新会長はスピードスケートや自転車で3回オリンピックに参加し、オリンピックの精神、規則を理解しており、また参議院議員活動やオリンピック・パラリンピック担当大臣として東京での開催準備を手掛けており、新会長の手腕に期待したい。

 他方、実際問題としてコロナウイルスを抱えての開催準備であるので厳しい選択を迫られることも予想される。

(1)アスリートファーストか国民の健康・命ファーストか

 橋本新会長は、就任に当たり、安全・安心な大会開催を最優先課題としつつ、アスリートファーストの大会としたいと述べている。通常のオリンピック・パラリンピックであればその通りであり、練習に練習を重ねて来たアスリートの皆さんの活躍を心から期待したい。また日本のみならず、参加予定国・地域の全てのアスリートに公平な競争条件を確保することもアスリートファーストと言える。しかしコロナウイルス問題はまだ克服の見通しはまだ立っていない。

 コロナウイルスの拡大は、日本を含め世界全体でややおさまりつつあると見られ、またワクチンが開発、実施され始め、収束に向けた活動が各国で加速するものと思われる。だが日本を含め世界全体で感染者1億1千万人 、死亡245万人強にも及んでおり、収束にはまだ相当の期間を要すると見られる。ワクチンについては、生産能力に加え、接種に膨大且つ慎重な作業が必要で隅々まで実施には相当の期間を要すると予想されている。

 更に、変異種が英国、南ア、カナダ、ブラジルなどで発生し、日本にも事例が見られ始めており、伝染力が強く、抗体を弱めるなどと伝えられているものの、未知の部分も多く、国際的な拡大を抑制する必要性が新たに出てきている。

 そのような中での東京でのオリンピック・パラリンピックの開催で、2020年の時点で206の国・地域の参加が予定されており、2021年7月にこれらの国・地域が出席すると仮定すると、各国から多数の選手、関係者、更に海外よりの観客を認めるといろいろの地域から多数の人が訪日する。

 選手その他の外国人に3日以内の陰性証明またはワクチン接種証明を求めるのか、変異種発生国の入国を認めるか否かの他、空港でのチェックと検査体制、機内に感染者が出た場合には搭乗者の一定期間の隔離、陽性反応が出た場合の隔離と治療など、入国時に相当な作業と時間を要するだろう。更に国内に入ってからの行動制限などの徹底が求められる可能性が残っている。

 206の国・地域からのこれら外国人への対応を、国内でのワクチン接種という膨大な作業に加えて実施しなくてはならない。現在医療関係者(約370万~470万人)のワクチン接種が行われており、4月からは一般国民を対象に65歳以上の年長者から順次始まるようだが、市区町村や医療関係者はこれに忙殺されると予想される。

 現実問題として、そのような中で206の国・地域からのこれら外国人への対応のために要員と施設を確保出来るのだろうか。それを怠ると、変異種を含む感染拡大のリスクがあり、その影響は来年の冬以降まで残るであろう。

 国民の健康と命を守るため、アスリートファーストとは必ずしも行かなくなるかもしれないが、アスリートを含めた感染拡大のリスクを少なくする形での対応が望ましいのではなかろうか。

(2)感染拡大リスク対経済的効果

 東京オリンピック・パラリンピック開催中止の場合、その経済損失は4.5兆円、無観客の場合でも2.4兆円とも伝えられている(関西大学宮本勝浩名誉教授の試算)。中止の場合は国民総生産の1%近くになる。

 2020年度の実質経済成長率については、2020年12月段階での政府見通しは前年度比マイナス5.2%となるので、GDP1%に相当する経済損失は小さくない。一方、もし7月の東京オリンピックが従来通りの形で開催され、感染拡大となった場合の経済全体へのリスクはそれよりも遙かに大きいことは2020年の経済成長率減退から明らかな上、国民の健康と命に与えるリスクも大きい。

 2021年1月9、10日に共同通信社が全国に電話調査した結果によると、「中止すべきだ」が35.3%、「再延期すべきだ」が44.8%と報じており、予定通りの開催に反対の意見は80%強に及ぶ。観光業、航空運輸業、飲食を含むサービス業、イベント産業を中心とする経済的打撃は大きく、大会による経済的効果を望む声は大きいし、誰しも開催に期待したいが、解雇・倒産や雇い止め等で職を失った多数の人々、そして大学、高校から小中学校まで自由な学校生活を抑制されている多くの生徒・学生の不安、更に全国的な感染への懸念や不安が強いことを物語っている。

(3)国際的なアスリートの公平な競争条件は確保出来るのか

 東京オリンピックでは、33競技が実施される予定だが、世界各国、地域で2020年2月より国境を越えた競技はほとんど抑制され、国内の競技、練習なども国によって状況が異なる。十分練習できない国、地域もあるだろう。コロナウイルス対策で参加選手に各種の条件が課される可能性もあり、選手のコンデイションが国・地域により異なる場合が出ることも予想される。

 2月中旬にメルボルンで全豪オープンテニスが開催され、オリンピック開催の1つの例となると言われており、参考にはなる。この試合に、錦織圭選手が参加したが、同じ航空機の搭乗者に陽性者がいたため濃厚接触者として2週間狭い個室に隔離され、その間練習にも外出できず、1回戦で敗退した。同選手は公には不満等を述べてはおらず、また7月までには状況はある程度改善しているものと期待したいところだが、オリンピック大会で錦織選手と同じような状況に置かれる選手が出た場合、公平でないとの批判が出ることも予想される。更にオリンピックはチーム競技を含め33競技で206の国・地域からの参加となり、毎日複数の競技が行われる。従って競技規模が圧倒的に大きく複雑になるので、世界全体としてアスリートそれぞれに公平な競争、競技条件を確保出来るのか明かではない。なお全豪女子オープンテニスでは、大坂なおみ選手が、準々決勝でセリーナ・ウイリアムズ選手、決勝でブレイデイ選手を抑え優勝した。この困難な状況での優勝は多くのアスリートに希望を与えるもので、心から祝福したい。

 國際オリンピック委員会(IOC)は、世界の何か国・地域が最終的に参加し、それぞれの競技で選手が何人参加する予定か、またそれぞれの競技で世界レベルの公平な競技条件が確保出来ているか否かを把握していなくてはならない。そのような情報が速やかに世界に提供されることが望まれる。(2021.2.21.)

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国際オリンピック委(IOC)に望まれる中止の決断

2021-07-24 | Weblog

 国際オリンピック委(IOC)に望まれる中止の決断

 6月1日より6月20日まで、日本においてコロナウイルス拡大防止のため、東京など9道府県に一部対象地域を拡大して緊急事態宣言が延長されることになった。2021年1月より第3波の感染拡大が起こり、社会経済活動の自粛、抑制を要請する緊急事態宣言が実施されたが、顕著な減少はみられず、宣言は短期間解除されたものの、半年以上に及ぶ緊急事態宣言となる。

 緊急事態宣言等が予定通り6月20日で解除されても、東京オリンピック開催まで約1か月しか残されていない。新規感染の顕著な減少が期待される。しかし大型商業施設や映画館、スポーツ施設等については制限が緩和されたこと、及び、イギリス変異種に次いで新たにインド変異種への転換、拡大が見られることを考慮すると、ワクチン接種が進んではいるものの、1日100万回の接種が実現したとしても、8月には新たなピークが来るとの予想もある。

 更に感染拡大が収まらない状況の中、6月21日より、一部緩和されたものの首都東京については8月22日まで緊急事態宣言が行われた。しかし7月14日、東京の新規感染者は1,149人にまで跳ね上がり、周辺3県も増加傾向に転じている。人流が止まらない。1つは飲食業等や職を奪われた就労世代で我慢の限界で死活問題になっているからだが、7月23日からオリンピックが開催され、海外からの選手等や準備が進んでおり、響いて来ない。

 米国等一部諸国では状況は改善しているが、インドネシアでは感染が拡大し、医療崩壊の状況であり、イラクでも治療用の酸素ボンベの倉庫が爆発しそれだけで90人以上が死亡している。東京はもとよりアジア他の多くの諸国で感染が終息する状況でない今、何故オリンピックを開催しなくてはならないのか、多くの人は強い不安と疑問を持っている。人類の英知と努力を結集すべきは、オリンピックか人類の健康と命かが問われているかのようだ。この状況でオリンピックを強行する意義は何なのだろうか。

 

 1、国際オリンピック委員会(IOC)が行える開催中止の決断

 世界に目を転じると、米、英などワクチン接種が進み制限解除の動きが見られるが、世界全体として未だに感染拡大は止まっていない。

 特に3月、4月頃よりインドにおける爆発的な感染拡大によりインド変異種が国外に飛び火し、ネパールやマレイシアなどで感染が拡大し、5月にロックダウンが実施、決定されている。更にベトナムでは、イギリス変異種とインド変異種が結合し、感染力が更に強いウイルスに変異しており、空気感染の恐れもあると伝えられている。

 武漢発の新型コロナウイルスで注意を要するのは、全世界の諸国・地域に感染が拡大することに加え、感染力や重症化率を強めながら次々と変異していることだ。今後、一定地域、諸国で沈静化しても、また世界のどこから新たな変異種が広がるか分からない。グローバリゼーションは、世界の運輸・交通や物流、人流などに大きな恩恵をもたらしたが、新型コロナウイルスというパンデミックの出現により、今後国境を越えた人の往来には特別の注意を要することになった。

 日本だけでなく、世界がこのような状況の時に、世界200か国・地域からオリンピック選手約1.5万人、及び競技関係者、IOC関係者及び報道関係者7万人前後が7月23日の開会式に向けて訪日する。未だ具体的な参加国・地域数、参加者数が公表されておらず、また入国管理措置、国内での行動制限や監視体制などの「安全、安心な開催」に向けての全容は明らかにされていないが、どのような措置をとっても漏れが出る可能性がある。また措置を厳しくすればするほど、参加選手や来日者の不満、批判もつのるだろう。

 このような状態でオリンピックを開催することについては、各国で警鐘が鳴らされ初めている。

 オリンピックの実施や中止についての決定権決はIOCにある。開催都市である東京都も、その下部組織ではあるが政府の影響が大きい組織委員会も全体を支援する政府も、中止を求めれば違約金等の問題があるので言い出しにくい。

 現在日本を含め世界が直面しているのは、世界70億人の健康と命にかかわるパンデミックという例外的な事態である。国際オリンピック委員会(IOC)としても、例外的な対応として、違約金等を求めることなく中止を決定しても良いのではなかろうか。またIOC側も、米国のテレビ局等との関係で違約金や補償金の問題が生ずるだろうが、互に求めないことで調整すべきであろう。

 IOCは、開催国に実施を求める以上、各国の選手、競技関係者だけではなく、開催国日本を含め世界の全ての人々の健康と命を守る義務がある。

 

 2、日本の世論を理解していないのだろうか、IOC

 東京オリンピック7月開催についての世論調査では、2021年1月以来、一貫して70%以上が「中止、又は延期」であり、6月の時点でもその状態に変化はない。3年後にはパリ・オリンピックがあるので、再延期の可能性はないとすると、

70%以上が本年7月の開催に反対していることになる。その背景には、若い世代についても、2020年4月に大学等に進学してもキャンパス生活を送ることも出来ず、アルバイト先もなく、また解雇や雇い止めなども一般化し、学校を卒業しても就職機会は限られており、将来不安や孤独感が募っている状況がある。産業面でも、飲食業から娯楽・イベント、観光などが大打撃を受けており、1日も早い感染収束を願っている。誰しもオリンピック・パラリンピックが開催できれば良いと思っているが、今はそれどころではなく、行動制限の解除であり、日常の生活や日常の健康を取り戻したいという意識が反映されていると言えよう。世論の70%以上が1月以来一貫してオリンピック7月開催に不安を抱いている事実を理解して欲しいものだ。

 各国選手の事前合宿を受け入れ予定であった地方自治体も、ワクチン接種促進のための業務に忙殺され、また地元住民の懸念などを配慮して、既に105の自治体が辞退(6月1日現在)している。

 地方自治体が各国選手の事前合宿受け入れを辞退している理由が一つある。それは受け入れても、宿舎と競技場の間以外は行動が制限され、選手にストレスを与えるおそれがある上、地方を見たり食事を楽しんで頂くことも出来ないからだ。受け入れても、地方との交流も「お・も・て・な・し」も出来ない。

 この状況は、オリンピック本番にも当てはまる。海外からの選手他来訪者は、マスコミを含め、原則として宿舎と競技場の間のみに行動制限され、交通手段も専用バス等に限定され、市中には出られない。「お・も・て・な・し」も宿舎内だけに限定される。オリンピック参加者と開催国との交流がなくなれば、それだけオリンピックの意義は薄れてしまう。

 その上心配は尽きない。来日する選手、競技関係者はワクチンを受けてくるとしているが、マスコミ関係者を含め、一部は受けていないであろう。入国に際し厳格な検査を受け、またその後も頻繁に検査を受けることになろうが、検査が最大のおもてなしになってしまいそうだ。

 その上、行動制限を完全に実施することは難しい。世界の200近い国や地域から7万~8万人内外の来訪者があるので、言葉や慣習、価値観等の差もあり、ルールブックに従って行動制限することは難しいのではないか。そうなると相互に感染が発生し、コロナウイルス・パンデミックの大実験場となる恐れがある。それが杞憂に終われば良いが、そうなった場合に誰が責任を取るのだろうか。(2012.6.2. ,'21.7.14. 一部追加)

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