内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

大学の世界ランキング・アップに何が必要か? (再掲)

2022-10-17 | Weblog

シリーズー大学の世界ランキング・アップに何が必要か? (再掲)

(はじめに)

 英国の教育専門誌「Times Higher Education」がアジア各国の大学の2016年度版ランキングを発表した。シンガポールの大学がトップとなり、シンガポールや中国の大学が躍進したのに反し、3年連続で1位だった東京大学は7位に順位を下げた。

 しかし、これは東大だけの問題ではない。京都大学が前年の9位から11位に、東北大学も19位から23位に下がり、上位100位以内に入った日本の大学は前年より5校減って14校となった。他方、シンガポールの大学が上位2位を占め、中国の大学は上位100校以内に22校が入っている。

 この理由の一つとして、同誌は、「この20年間日本の大学が資金の制約を受けており世界の大学との競争や国際化のための支援が少ない」旨指摘していると報じられている。 ランキングの内訳を見ると、東京大学は’教育の質’では上位だったが、’学生と教員の国際性’では70位と低く、国際性の欠如が全体の順位を下げた形になっている。

 要するに、大学への資金の量の問題ではなく、配分の問題のようだ。’学生と教員の国際性’の問題では、入試試験制度の問題だけでなく、企業・団体の新卒優先、大学院教育の軽視の採用試験などと共に、教育行政や大学教育の在り方などが問題なのであろう。このような点については、「シリーズー大学の世界ランキング・アップに何が必要か?」(初稿2013年9月28日)と同様であるので、本稿を再掲する。

 なお、英国の教育専門誌「Times Higher Education」は、毎年世界の大学での研究内容や論文の引用回数、それに国際化の度合いなど、研究分野と教育分野の双方の基準を元に大学の格付けを公表しているが、3月12日に2015年度世界の大学ランキングを発表したのに続き、6月10日、アジアの大学のランキングを発表した。

 世界の大学トップ100では、東大が2014年度の21位から12位に順位を上げ、京大が26位から27位へとほぼ同レベルを維持したが、これまで日本の大学は2校しか入っておらず、私学はトップ100に1校も入っていない。

 アジアの大学のランキングでは、東大が前年度同様1位を維持したが、その他の大学が順位を落としている。アジアの大学トップ100では、日本の大学が2014年度より1校減の19校、中国が3校増の21校と逆転され、中国の大学の伸張が顕著となっている。日本の私学がほとんど顔を出していないことも、国公立大学と私学の格差や私学の在り方として懸念される。

 同英国専門誌は、中国の大学の伸張を受けて、「日本が研究への投資を増やすべきであり、迅速に行動する必要がある」と指摘しているが、教育投資だけでは十分ではない。教育環境というソフト面、即ち、教育の在り方や教員組織の在り方、及び学生の受け入れ手となる企業や行政組織、団体が大学に何を求めるか、更に新卒優先の採用と終身雇用という閉鎖性が強い就職制度や日教組他の労働組合の在り方など多くの課題を提示している。

  

(本文) 

 2014年度予算の各省庁要求を政府概算要求を査定する時期になったが、文部科学省は、世界大学ランキング100校入りを支援するために、国公私立の10大学に対し毎年100億円の助成を予算要求すると伝えられている。

 現在、世界大学ランキング100校には日本の国立大学が2校入っているだけであり、一人当たりのGDPを加味すると実質的に世界第2位の経済大国である日本にとっては少し寂しいところだ。ランキング・アップには指導環境など色々な要素が必要だが、各大学の学者、研究者が“独創的な研究を行い、研究論文が内外の研究者などから引用されること”が決定的な要素となる。要するに、各大学に所属する教授ほか研究者の「独創的な研究実績」と「語学力など、対外的な発信能力」が問われていることになる。

 文科省は、10校を選定し、海外の大学との共同研究や著名な研究者の招聘を支援するなどしている。これのような研究交流や人的交流自体は良いことではあるが、新たに毎年100億円もの予算を投入して相当長期を掛けてもどの程度の効果が出るか疑問である。そもそも教育のあり方の転換や教師、研究者の資質や姿勢など、大学院の普及などの制度面、人材面の改善、即ち教育ソフト面の転換がより重要に思える。

 また2014年12月22日、文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会(中教審)は、大学入試の改革について答申を行った。現在の‘大学入試センター試験’をこれまで重視されて来た‘暗記した知識の量’ではなく、‘思考や判断など知識の活用力’に重点を置いた「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に転換するよう求め、現在の小学6年生が高校3年になる2020年度実施分から変更するよう答申している。入試制度、従って評価内容や方法が変われば、高校での教育内容や教師に求められる授業方法だけでなく、大学レベルでの教える側の姿勢や教育方法も変わって行かなければならない。また就職試験においても、公務員はもとより、企業、団体の求人側の姿勢もそれに対応しなければ実効性は限定的なものになる可能性もある。また制度作りをする行政側も、そのために規則や指導要領などを細部まで決めて教育現場に実施を求めたり、試験漬けにすることなく、学生の多様な能力が発揮出来、また再チャレンジが可能となるよう、寛容性と多様な選択が可能となる制度作りが望まれる。

 1、 外国大学との共同研究や研究者招聘の効果は局部的、限界的

 外国の共同研究や著名研究者の日本への招聘については、各大学の判断で実施することは大いに良いことであるが、今更という印象を受ける上、その効果は長期を要し、例えば10年間としても1,000億円の予算負担となり、費用対効果の面で疑問が残る。

 外国大学との共同研究でも、iPS細胞分野など日本側に何らかの比較優位のある分野でなければ、各分野で先端を行っているような外国人研究者は日本との共同研究は希望しないであろう。著名な外国人研究者の招聘にしても高額の招聘費が必要となるだろうし、日本での研究にメリットを感じなければ希望しないであろう。いずれの場合も、日本側に相当高度な研究水準と語学力がなければ得るものは少ないと判断されるであろう。

 招聘事業で一つの例を挙げよう。日本は、1985年9月のプラザ合意で急速な円高を容認し、それにより日本企業の海外進出が急増した。それに伴い海外で活動できる人材や知識等が必要となり、日本の「国際化」が必要とされた。その対策の1つとして90年代初頭より、政府は「語学指導等を行う外国青年招致事業」(JETプログラム)を開始し、当初は米国を中心とする英語圏から青年を招聘し、地方公共団体と共同して各地の学校等に英語教師として配属し、英語教育の普及を行った。その後英語圏以外も加えたほか、役割も地方公共団体の国際交流促進のための助言等の分野に広げ、当初の4カ国から40カ国ほどに拡大し招聘している。この事業は既に20年以上実施しているので、日本各地において外国語を習得し、或いは地方レベルでの国際交流を担える人材が可なり育っていることが期待される。確かに一定の効果はあったが、最大の効果は、日本に招聘された外国人の日本語能力が顕著に向上している上、各地の伝統文化だけでなく、アニメを含む若者文化や日本食、工芸品、匠の技などへの理解と評価も向上し、それが世界各地に伝えられ、日本の伝統文化、技術の水準の高さと共に、現代の庶民文化、若者文化への興味が世界に広がったことであろう。知日派、好日派外国人が増え、日本各地の草の根文化や工芸技術への評価が顕著に高まったが、本事業の本来の目的である日本での英語の普及や能力向上については、20年以上継続しているにも拘らず、それ程の効果は得られていない面がある。逆にこの制度が恒常化したことにより、地域の国際交流や外国人との関係についてはJETで招聘された外国人に実体上任され、JETへの依存性が高まり、地域住民自体の語学力向上や国際化には余り寄与していないとの弊害も見られる。

 外国大学との共同研究や研究者の日本への招聘事業が長期化することになると、JETプログラムと類似の結果となり、日本の学術研究のレベルや創造性、独創性を高め、それが世界に評価、引用されることにどれだけ貢献することになるのか疑問なしとしない。

 また新たな事業予算の追加も良いが、中・長期的な少子化の趨勢に対応し、教育姿勢と共に、国・公立学校を地域別に統廃合し、また国・公立と私立との学費格差や研究助成格差等を縮小することなど、高等教育制度自体を再点検する必要がありそうだ。また暗記重視の教育方針、試験制度から発想力や創造性、独創性を重視した教育姿勢や試験(評価)制度に優先度と資源の再配分を行い、その中で新たなニーズ、事業を加えて行くなどの工夫と先見性が必要と言えよう。中・長期的な少子化、人口減の中での長寿化社会において、新規事業や学校・学部を増加し続け、教育予算を更に拡大することは現実的に困難と見られる。

 2、 最も必要とされる研究成果の英語等による発表能力

 知的活動の分野において、日本の研究成果や論文等が世界の多くの学者、研究者によって評価、引用されるようになるためには、創造性、独創性を重視した教育姿勢、試験(評価)制度と入学試験や公務員を含む就職試験のあり方(新卒者偏重、出身大学主義の採用試験制度など)と大学院レベルへの高等教育の普及と修了者への処遇の改善など、教育姿勢や教育・採用試験制度という教育ソフト面の改善が不可欠と言えよう。

 しかし現実論として学者、研究者による研究成果が国際的に評価されるためには、研究成果が国際的な外国語(英語で可)による成果の発表が不可欠である。どんなに良い研究成果や作品でも日本語だけでは国際的に評価されない。外国と国境を接していない日本では外国語に接する機会は少ないので、当面英語での研究成果の発表を日常化することが望まれる。理工系や医学分野等では研究成果の英語等による発表はある程度行われているが、社会科学や人文科学分野では余り行われてない。

 そのためには、学生や学者、研究者等の2年以上の主要国への留学を飛躍的に増加させることが最も効果的であろう。学生、研究者等の海外留学を促進するため、例えば海外留学(高校・専門レベルで1年、大学・大学院レベルで2年など)での取得単位を国内単位としての認定を促進することと、海外留学奨学金(原則無利子、成績優秀者等には無償など)を新設、拡充することが望まれる。その上で海外からの留学生、研究者の受け入れを促進することが、日本の研究成果の海外への発信力を高める早道と言えよう。

 もっとも日本の英語教育は、中学、高校の6年間に必修科目として行われているが、海外に行って、日本で6年間英語を習っていて英語がしゃべれないと言うと、信じられないというような顔をされる。英語を「語学」という学問の範疇で教え、試験科目にしていることが、コミュニケーション手段としての言葉なることを妨げているようだ。子供が言葉を反復しながら覚えるように、まず英語を耳で聞き、口でしゃべるようにして行き、必要に応じ高学年になってスペリングや文法などへと高めて行けば良いことであろう。外国語を世界とのコミュニケーション手段として行く上では、試験なども「語学」試験としての必須科目とはせず、生きたコミュニケーション手段として選択科目にするなどの改善が必要のようだ。

 3、創造性、独創性を重視した教育・入試制度など、意識と制度の転換が不可欠

 海外への外国語での研究成果の発信力向上に加え、研究成果の創造性、独創性が求められることは言うまでもない。日本の教育方針や制度、試験制度は、卒業後の公務員・企業の就職試験に至るまで基本的に一貫して記憶力、暗記力に重点を置いている。“応用問題”も採用されてはいるが、これも既存知識や研究の“応用”であり、発想力や創造性、独創性を涵養するものではない。

 教える側も、既存の知識や理論等を教え与えることが主眼となっている。無論基本的な知識を蓄積することは重要ではあるが、米欧等においては、研究者や学者が研究論文を可なり頻繁に出さないとポジションを維持することが困難になるので、理工系や医学系に限らず、社会科学、人文科学系においても独創的な研究論文の発表に常に努力している。日本の場合、詰め込み授業に追われることが多く、また基本的に年功序列の昇進となるので研究成果を出す必要が必ずしもない上、自発的な留学のための休暇・休職なども取り難く、また一定年数勤務後の研究休暇(サバテイカル休暇)なども普及していない。

 従って日本の大学が国際的に高い評価を得るためには、教育姿勢や教育方針・制度など、教育ソフト面の改善、転換が不可欠と言える。

 4、 発想力、創造性を加味した就職試験の拡大の必要性

 中学、高校、大学等への進学は、最終的には公務員採用試験を含め、就職への有利性が考慮されるので、就職、採用試験が暗記、記憶力に重点が置かれている限り、学校教育でも暗記、記憶力に重点が置かれることになる。確かに学生が教師と黒板に向かい合う対峙型となり、学生はそれを記録し、記憶するという教育方式が中心となっている。

 それはそれとして良いのだが、もっと小グループで学生と教師の質疑、意見交換、小論文作成等により、双方交通の授業方式を促進し、学生の個々人の個性引き出し、表現できる授業形態が増えることが望ましい。それにより現在欠けていると見られている議論する能力やコミュニケーション能力も向上するものと期待される。

 そのためには採用、就職試験でも暗記、記憶力、応用力に加え、発想力や創造力、独創性を評価することが望まれる。それを短時間で採点することは難しいので、学校側の評価を取り入れることが現実的であろう。

 5、 大学院レベルの高等教育の普及と修士・博士号取得者への公正な処遇

 日本は“学歴主義”と言われることがあるが、実際は、国家公務員等を含め採用が新規卒業者を対象に行われるので、どうしても出身校が差になると共に、いわゆる“終身雇用”形態となっているため、大学院への進学率は、欧米先進工業国等に比して非常に低いのが現状だ。

 人口千人当たりの大学院学生数では、日本の2人に対し、米国9人、英、仏の各8人、韓国が6人となっている(資料:教育指標の国際比較平成23年版)。また25歳以上の大学院入学者は、諸外国では平均2割程度に達するが、日本では2%以下であり、大学院への社会人入学者が非常に少ない。これを反映して、日本の大学院の規模は諸外国に比して小さく、“高度人材を育成する基盤が弱い”と見られている(経済産業省研究資料)。

 また日本の企業役員等(従業員500人以上)の最終学歴では、米国の上場企業管理職等に占める大学院修了者の比率は、人事部長クラスで約62%、営業、経理部長クラスで約45%であるのに対し、日本の大学院卒の比率は5.9%と極端に低い(経済産業省研究資料)。米国では、高校の校長になるためには修士号取得が必要なことが多い。また国連など、国際公務員の幹部クラスは修士号、博士号取得者が多いが、日本の国家公務員の政策職の幹部には大学院修了者はほとんどいない。日本では博士課程修了者の就職率も6割前後に留まっている。上記の通り主要諸国では大学院修了者への評価く、高いキャリアー・アップの要件になっている一方、日本における新卒採用の偏重と大学院修了者の社会的進出の低さが、大学院の規模や大学院進学率の阻害要因になっていると言える。

 日本における高度人材の育成を図るため、大学院制度のあり方が課題と言えよう。

 6、 少子化に備えた教育施設の整理・統合や教育関連予算と受け入れ手となる社会環境

(別掲)

 日本は今後少子化と人口減、長寿化社会を迎える一方、グローバリゼーションの流れの中で、物、人、資金の自由化が更に進み、日本への海外資本による直接投資も増加することになるので、高度技術における国際競争力の維持、促進のみならず、日本国内において経営レベルでも国際競争に晒されることになると予想されるので、経営レベルを含め高度人材の育成が課題となると予想される。

 このような内外の社会変化に対応して、大学・大学院での制度や教育のあり方を再点検する時期にあると言えよう。しかし上記の通り、大学・大学院での教育や研究は、企業や行政組織及び関係団体のニーズに影響を受けることになるので、社会全体の理解と協力を得つつそのレベル・アップを図って行くことが期待される。(2015.6.19.)(All Rights Reserved.)

 

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求められる「等級制」終身雇用形態の転換  (その2)(再掲)

2022-10-17 | Weblog

 求められる「等級制」終身雇用形態の転換  (その2)(再掲)
 総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
 その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及 (その1 で掲載)
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 
 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象とし、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。
 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わることを希望する国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。
 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提し、年功序列に基づく「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置く、「国民参加型」行政組織とすることが望ましい。
(1) 幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。
 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、官職の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。しかし「職階制」は、日本において旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正で職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。
(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)
(職階制の確立) 
第29条  職階制は、法律でこれを定める。 
2  人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、
分類整理しなければならない。 
3  職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に
ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者
に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ
ばならない。 
4  前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。 
5  一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定
による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であって、かつ、
この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧
告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。 
(職階制の実施) 
第30条  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。 
2  職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事
院規則でこれを定める。 
(官職の格付) 
第31条  職階制を実施するに当たっては、人事院は、人事院規則の定めるところに
より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。 
2  人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再
審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。 
(職階制によらない官職の分類の禁止) 
第32条  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること
はできない。 
 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は‘国民に開かれた公務’を遂行する上でデメリットも多い。
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうである。
 政策レベルの問題以外でも、公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、政党間の政権交代にしても、与党内での首班交代にしても、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。逆に、公務員だけが「職階制」でも、民間で職階制が普及しない場合は、公務員が辞めたくても行き場がないので、「職階制」は維持できなくなる。恐らく、過去に公務員の職階制がいつの間にか排除されたのも、民間での「職階制」導入が進まなかったからではなかろうか。また米欧からの人材が日本の労働市場に参入しにくくするとの意図もあったのかもしれない。いずれにせよ、公務員を職種・技能に基づく「職階制」とすれば、配転はより容易かつ円滑に行われるであろう。国家公務員については日本国民であることが原則になっている。
 このような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよ
う閉鎖的で硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべき時期なのであろう。
 また企業、団体も二流の就労者とも見られている「非正規雇用」形態をなくすため、また低迷する労働生産性を高め、世界の多国籍企業との競争力を回復するためにも、職階制に転換、普及することが望まれる。
(2020.1.7.)(不許無断転載)(All Rights Reserved)

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求められる「等級制」終身雇用形態の転換 (その1)(再掲)

2022-10-17 | Weblog

 求められる「等級制」終身雇用形態の転換 (その1)(再掲)

 総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
 その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及
3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」
に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。
 その解決策の1つが職種・技能・技術を基準とした職能制雇用形態への転換、普及である。
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。
 終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。
 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。欧米諸国で広く採用されている。
 現在就労者の35%以上を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般職」「職能技術職」とすれば足りることであろう。
 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職能制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般職」と「職能技術職」に移行させることが望ましい。
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になると共に、年金財源を圧迫する主要因にもなっている。
平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。長寿化を前提とすると、定年後の期間が従来よりも著しく長くなっているので、現在では「定年制度」は事実上の‘年限解雇’の制度となっているとも言える。
このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。
「正規就労者」もいずれは定年となるが、職能職階制を導入すれば、一定年齢以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となるため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっていると言えよう。
女性の社会進出の促進にしても、いろいろな問題が議論されているが、終身雇用の下での年功序列的な等級制度が続く限り、現実問題としてはなかなか進まないと見られている。多くの場合、出産や子育などで、一定期間年功序列のエスカレーターから外れてしまうからだ。女性の社会進出の促進のためにも、職種・技能に基づく職階制への転換が望まれる。
 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 (その2に掲載)
(1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
(2020.1.7.)(All Rights Reserved.)

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膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

2022-10-17 | Weblog

膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

 2021年9月1日に公表された法人企業統計(財務省)によると、企業の利益剰余金(内部留保、金融・保険業を除く)は、2020年度末時点で前年度に比べ2.%増の484兆円強となった。増加率は低下したものの、2012年度以来、9年連続で増加し、過去最高を更新している。

 利益剰余金は、総売上額から人件費や原材料費など必要経費を引き、株主への配当金や税金を差し引いたもので、企業が将来の設備投資や事務所拡大など自由に使える。業種により余剰金額は異なり、コロナ禍では、製造業やIT関連企業を中心として業績を伸ばした一方、観光関連業種や対面サービスを行う業種などは大幅減となっている。

 コロナ禍でも利益剰余金を積み上げられる企業が存在することは大変心強いところであり、その努力に敬意を払いたい。

 1、企業の利益剰余金(内部留保)の国民経済への還流が望まれる

 しかしコロナ禍で多くの企業が経営難にあえいでいる中で、日本の国民総生産(GNP)にほぼ匹敵する484兆円強もの利益剰余金を企業が抱え込んでいることが経済全体にとって適切か否かが問われる。

 一部に、内部留保積み上げはコロナ禍で設備投資を手控えたためとされるが、設備投資の手控えはそれだけで民間投資の減少、従ってそれだけ総生産(GNP)を引き下げる結果となっている。

 一定の内部留保は、将来の設備投資と安定した経営基盤を維持する上で必要である。しかし個人の貯蓄同様、好調な時期には積み上げ、停滞期には放出することが必要だろう。コロナ禍で経済停滞する現在、GNPの縮小に繋がる484兆円強にものぼる企業の内部留保のなるべく多くの額を国民経済に還流することが望まれる。

 基本的には平常時において、賃金や契約社員等への報酬、役員報酬、及び株式配当金への分配をもう少し引き上げる努力が望まれるが、今回のような緊急時においても、例えば、契約社員等の雇い止めを極力回避すると共に、報酬・賃金の引き上げ、株式配当の増加、社員研修の強化、研究開発の促進や関連下請け企業製品の価格引き上げなどの他、企業内での感染防止措置の拡充、授業員家庭支援など、企業にとっては負担となるが、内部留保を経済に還流し、経済全体の底上げ努力が望まれる。

 2、「異次元」の金融緩和は家計所得や消費増には繋がらなかった

 企業の内部留保は、阿倍自・公政権が2013年1月に発足し、「異次元」の金融緩和が開始された頃より顕著に増加している。「異次元」の金融緩和により、輸出産業や観光関連産業など一部の産業が業績を伸ばしたことを背景として、株価が上昇したため、多くの企業は株式評価益等が出たことにより、利益剰余金を積み上げて行ったと見られる。他方、このような局部的な産業の好調と内部留保の積み上げとは裏腹に、実質家計所得は減少しており、消費は低迷した。日銀は、「異次元」の金融緩和とマイナス金利を長期に継続しているが、産業への局部的効果はあるが、家計所得や個人消費の増加には繋がっていないことが明らかになった。金融政策依存の限界と言えよう。

 逆に、2008年9月のリーマンショック以来の切れ目のない恒常的な金融緩和策とゼロ金利政策が、2013年1月以来の「異次元」の更なる金融緩和とマイナス金利政策により更に助長され、金融緩和により恩恵を受ける分野とその恩恵がほとんど及ばない分野との間で著しい経済格差を生む結果となっている。

 それに追い打ちを掛けたのが、2020年1月以来の武漢発の新型コロナウイルスの国際的な感染拡大である。これが各国の航空・観光産業や飲食産業、娯楽産業とこれらを支える関連産業を直撃し、人の動きを制限し、経済社会活動を減速させた。その対策として、各国政府は、感染拡大を抑制するための検査やワクチンを含む医療体制の拡充をする一方、職や所得を失った人々などへの財政支出を拡大すると共に、無利子の融資を含む金融支援策を実施したことにより、金融緩和が加速し、経済社会の格差を更に拡大する結果となっている。

 米国のバイデン政権の下で、連邦準備理事会(FRB)が、雇用の維持促進とインフレ率を睨みながら、金利の引き上げを含め、金融緩和の抑制時期を検討しているのは、金融緩和策による副作用を除去し、金融正常化に道を開くためである。

 日本銀行も米国の金融正常化に向けての政策転換を参考にしつつ、金融緩和幅の縮小を通じた株価の沈静化を図っているようだが、それは経済の抑制に繋がる可能性がある。このような中で、企業がそれぞれの企業経営に資する形で内部留保を積極的に活用し、経済に還元することが望まれる。また政策当局としても、企業の巨額の内部留保を景気の局面に応じて誘導することが経済対策に繋がることに注目する必要があろう。(2021.9.6.)(All Rights Reserved.)

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台湾の独立実現に転換すべき時   (再掲)

2022-10-17 | Weblog

台湾の独立実現に転換すべき時   (再掲)


 1月末以来、中国武漢から世界に拡大したコロナウイルスは、既に680万人以上の感染者、40万人近くの死者を出し、世界レベルでの感染は未だに収まっていない。
 このような中、5月18日、世界保健機関(WHO)の年次総会を開かれ、焦点に1つであった非加盟の台湾のオブザーバー参加について、中国が「1つに中国」を主張して反対したため、見送りとなり、年内にも開かれる次回総会で協議されることになった。
 米国は、台湾のオブザーバー参加を支持する一方、WHOは中国寄りであり、改革を求めると共に、改革されなければ脱退も辞さないとした。
1、コロナウイルス問題は世界77億人の健康、存続に関する問題
コロナウイルス問題は、単に2,700万人の台湾の人々の健康、安全の問題ではなく、世界の77億人の健康、安全の問題であると共に、世界の健全な経済・社会・文化活動の回復、維持に影響する問題であり、いわば人類全体の健全な存続に関する問題である。
 武漢型コロナウイルスは、その発生源については別として、武漢から世界に拡散し、40万人を超える死者を出す拡散源となったことは確かである。習近平中国主席は、武漢を中心とする中国国内で感染が拡大したことを詫びたが、世界に対してはそのようなお詫びをしていない。確かに中国も新型コロナウイルスの被害者であるが、世界に拡散させた責任の一端はあり、世界に何らかの言葉があっても良いのではなかろうか。それどころか、世界が密接に協力してコロナウイルスを克服していかなくてはならない時期にWHO年次総会への台湾のオブザーバー参加を阻み、コロナウイルス克服へ向けての世界的努力から除外し、空白地帯を造っているに等しい。世界のどこかに空白地帯があれば、この問題の中・長期的な解決は難しい。
 2、台湾の独立を推進する時
 次のWHO総会でも、中国はかたくなに台湾が中国に帰属するとの原則を主張し、台湾の参加に反対するか、厳しい条件を課すであろう。台湾について中国が何かできるわけでもなく、台湾は国際的なコロナウイルス撲滅努力の外に置かれる。
 領土問題については、香港の問題がある。1997年6月に英国の99年間香港租借が終了し、50年間は香港の「高度の自治」が認められる1国2制度に移った。領土としては中国であり、香港での民主化運動の激化に対し、中国は香港に「国家安全法」を適用することを2020年5月の全人代で決めた。
米国等は香港の自由と民主主義を抑圧するものとして強く反発している。しかし中国は、香港は中国の一部であり、内政干渉として取り合う姿勢を示していない。中国は「領土」という原則は曲げないであろう。現在の国境を前提とする国家関係ではやむを得ないことだろう。そのことは香港を去った英国が一番よく知っている。
台湾については、戦後中華民国として中国共産党下の中華人民共和国とそれぞれが中国を代表するものとして対峙していたが、東西冷戦下の1971年に、アメリカ合衆国をはじめとする西側諸国と、ソビエト連邦(当時)をはじめとする東側諸国との間で政治的妥協が計られた結果、国際連合における「中国代表権」が中華人民共和国に移され、中華民国(台湾)は国連とその関連機関から脱退を余儀なくされ、「地域」として扱われてきた。
 台湾と外交関係を有する国も現在中南米、カリブ諸国を中心として15カ国に減少している。日本も外交関係を持っていない。
 台湾が国連を脱退して50年ほどになるが、中国は「1つの中国」を主張し、台湾をその1地域としている。台湾においては、台湾独立派と中国大陸派とが存在するが、自由と民主主義は根付いており、同じ中華系も多いが、高雄系などの台湾独自の人口も多いので、中国共産党とは相容れない社会経済体制となっている。双方とも、それぞれが中心となって中国統一を願っているようであり、それが双方国民の選択であれば良いが、差が縮まるどころか広がっている。
 これ以上待っても物事は動かないし、武漢型コロナウイルス問題など地球規模の問題への対応、健全な人類の存続を考えると、台湾を国連の外に置いておくことは望ましくない。今や東西冷戦はなくなっており、その時の東西両陣営の妥協の産物である中国の代表権問題はその役割を終えたと考えられるので、今や台湾の独立を推進すべき時代になっていると言えよう。台湾独立後、双方の国民が統一中国を希望するのであれば、それは双方の国民の選択に委ねれば良いことであろう。
(2020.6.8.All Rights Reserved.)

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アジア・大洋州地域包括的経済連携(RCEP)、中国への対応が鍵!

2022-10-17 | Weblog

アジア・大洋州地域包括的経済連携(RCEP)、中国への対応が鍵!

 <はじめに>アジア・大洋州地域包括的経済連携(RCEP)協定は、2020年11月にインドを除く15か国で署名され、2021年中に豪州、NZ含め10か国の国内(批准)手続きが完了することになったため、2022年1月に発効、日本はじめ中国、韓国を含むアジア・大洋州地域の10か国でRCEPが発足する。

 アジア・大洋州地域の自由な貿易、投資等を促進するものとして歓迎される。しかし、これに中国が入っている。中国が、2001年12月、多国間の貿易自由

化を目指す世界貿易機関(WTO)に加盟して以来、中国が飛躍的に成長し、い

わば中国の一人勝ちの様相を呈している。中国は、WTOに加盟する世界の全て

の国・地域において自由市場や投資活動等の自由の恩恵をほとんど制約無く享

受している。しかしWTO加盟諸国は、「社会主義自由市場」の下で中央統制が

行われている中国国内においては、経済・社会活動、表現の自由などが厳しく制

限されており、自由市場の恩恵は著しく制約され、中国の中と外で経済活動の自

由度において不平等が生じている。中国市場の外と中で経済活動の自由度の平

準化が求められる一方、中国の国内市場の制約・規制のレベルに応じ、他の加盟

国において中国の経済活動への規制や課徴金を課すことを可能にすることが必

要となって来ている。

 そのような観点から、本稿を再掲する。

 2011年11月にASEAN諸国の提唱により協議が始まったアジア地域包括的経済連携(RCEP)は、2019年11月4日、バンコクで開催され首脳会議において、インドを除く15カ国が2020年中の協定署名に向けた手続きを進めることで合意し、2020年11月15日、オンライン形式で首脳会合において、インドを除く15か国(ASEAN10カ国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)がRCEP協定に署名した。

 アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、ASEAN10カ国に加え、日本、韓国中国、インドとオーストラリア、ニュージランドの16カ国を対象として関税の自由化、サービス分野における規制緩和や投資障壁の撤廃を目的として協議が行われて来た。しかしインドは、中国の市場アクセスへの懸念につき対応されておらず、自国の農業・酪農、消費部門が影響を受けるとして参加を見送った。インドのモディ首相は、今回のRCEP合意について、関税の違いや貿易赤字、非関税障壁など、「インド国民の利益に照らし合わせ、肯定的な答えは得られなかった」との考えと伝えられている。

 中国、インドを含むRCEPが実現すれば、世界の人口の約半分に当たる34億人、世界のGDPの約3割の20兆ドル、世界の貿易総額の約3割10兆ドルを占めるメガ地域経済圏となる。

インドを除く15カ国は、インドの参加を期待しつつも、2020年中の15カ国での発足を模索しているが、基本的に次の問題が内在しており、慎重な対応が求められる。

 1、「社会主義市場経済」を標榜する中国との差は埋められるか

 中国は「社会主義市場経済」を標榜しており、自由主義市場経済と異なり、基本的に中央統制経済を維持している。従って石油ガス、銀行その他の戦略性や公共性のある多数の基幹産業が政府(国務院)か共産党管理下の「国有企業」であり、補助金を含め政府や党からの実質的な支援を受けている。政府や党が100%株式を所有する中央企業などのように、その下に中央企業が持ち株会社として管理監督する子会社が多数存在する。従って表面上‘株式会社’となっていても国が保有或いは統制している企業体が存在する。

 このように国家や共産党に補助金や直接管理で保護されている企業や産業が存在し、国内産業は保護、規制しつつ、海外市場や海外投資については自由貿易、多国間主義を求めるのは、衡平を著しく失する。このような企業、産業からの輸出については、輸入国側、投資受け入れ国が、輸出国側の補助金等の保護の度合いにより相応の関税を課す事を含め、一定の防護措置をとることを認めるべきであろう。そうでなければフェアーな競争とは言えない。スポーツに例えれば、筋肉増強剤を使用している選手と競争しているようなものだ。

 この観点からすると、米国による中国に対する関税措置や貿易交渉姿勢は‘保護主義’などではなく、公正な要請と言えよう。

 1990年代に入り急速に経済成長した中国は、2001年12月、世界貿易機関(WTO)に加入した。当時のおおよその見方は、13億人の巨大市場である中国貿易が自由化され、世界市場が拡大する一方、中国経済自体も国際経済秩序に組み込まれ、市場経済化を加速させるものと期待された。

その期待の一部は達成されたが、WTOへの加入により最も利益を得たのが中国であり、いわば独り勝ちの状況となっている。

 中国は、WTO加入に際し金融の自由化、諸法制の整備などの是正が求められ、若干の改善は見られている。しかし中国は、体制上『社会主義市場経済』を標榜しそれを堅持しているので、先進工業諸国が採用している‘自由主義経済’や‘市場経済’とは異なり、上記の通り、国営基幹産業を含め、基本的に国家統制経済であり、国家の統制や国家補助、国家管理が強い。また実体上、元の為替レートや株価への統制や管理も行われ得る体制となっている。中国は、米国の通商交渉姿勢について、国際会議や記者会見等において、‘米国は保護主義的であり、自由貿易を支持する’などとしているが、国内で中央統制経済を維持しつつ、世界では自由貿易とは身勝手と言える。ASEAN諸国も、当面は中国経済の恩恵を受けているが、RCEPが発足すると国内産業が圧迫され、不利益の方が際立つ可能性がある。現在、世界貿易機関(WTO)の改革が検討されているが、国家補助を受けている企業や産業が世界市場に参入する場合の条件、外国為替や株式市場への直接的国家介入の節度、技術や特許など知的財産の国際的保護などが課題と言えよう。

 中国は、国民総生産(GDP)において、既に米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、成長率が低下したと言っても年率6~7%の成長を維持し、2019年の世界経済成長率3.2%(OECD予測)の倍以上の成長率が予想されている。しかし中国は、国内で中央統制経済を維持する一方、世界での自由貿易を主張している。第2次世界戦争後の世界経済は、米国の経済力を軸とするものであり、70年代後半以降多極化の動きが見られるものの、基本的には米国経済が牽引力となって来た。しかしこのままでは、『社会主義市場経済』を採用している中国が、相対的に高い成長率を維持し続け、世界第1の経済大国となり、世界経済の中心となる可能性が高い。米国を中心とする国際経済秩序に、異質の経済体制を採る中国が加わり、単純化すれば、中国と米国という2つの経済圏による秩序に変容することになろう。

 トランプ政権はその変化を認識し、経済分野のみならず、‘安全保障と外交政策’上の脅威ともなるとして、目に見える短期的な利益を模索しつつも、中・長期の国際経済秩序を見据えて中国に対応し始めていると言えよう。日本を含め世界は、この流れを見逃してはならない。

 アジア地域の自由貿易地域となろうとしているRCEPを発足させるためには、本来であれば社会主義市場経済という特異な体制をとっている中国に対する参加条件を検討することが不可欠のようだ。中国を国際社会につなぎ止めて置くことは必要だが、WTOの過ちを繰り返してはならない。

 2、インド不参加のRCEPは‘閉ざされた地域グループ’を生む

インドのモディ首相は、RCEP合意について、関税の相違や貿易赤字、非関税障壁などへの対応において「肯定的な答えは得られなかった」とし、合意出来ないとの姿勢である。特に、中国の安価な製品のほか、オーストラリアやニュージランドからの安価な農産品などが国内産業を圧迫することを懸念している。

 中国への懸念は、補助金を含む産業保護という中央統制経済から発生することであるので、体制上の変化が無い限り、インドはRCEPに参加することはないであろう。RCEPがインド抜きで発足すると‘排他的な地域グループ’を生むこととなるので好ましくない。

 他方インドの参加を促すためには、中国の補助金その他の産業保護の状況に応じて関税や投資規制等と設けることを認めることとするか、それとも中国が自由主義市場経済への転換を図るかあろう。それ無くしてRCEPを発足させることは時期尚早と言えよう。(2019/12/23、2021/11/5冒頭補足)

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