長寿化を前提とした就業・社会モデルへの転換が必要 (その4)
厚生労働省の調査の調査によると、2014年の日本人の平均寿命は女性86.83歳、男性80.50歳となり、いずれも過去最高を更新した。男女平均でも84歳を越える。また試算によると、2014年生まれの子供では、75歳まで生きる人の割合は4分の3( 女性87.3%、男性74.1%)となっており、更に90歳でも女性でほぼ半分、男性でも4分の1にも達するという。
長寿化は喜ばしいことであるが、年金や健康維持等の社会福祉費は増加の一途であることは明らかであるので、少子化、人口減による国民の税負担能力の低下傾向を勘案すると、生産・就労モデルや年金給付・社会福祉モデルの転換は不可欠になっていると言えよう。
1、65才で‘老人扱い’は早過ぎる (その1で掲載)
2、定年年齢の弾力化―「働ける間は働ける社会」の構築 (その2で掲載)
3、定年年齢と切り離した年金制度 (その3で掲載)
4、人口減を見据えた行財政モデルと統治機構の簡素化
少子化、人口の減少傾向により、現在の‘定年制’を前提とすると、将来的に労働力人口は減少し、国民の税負担能力は低下する一方、長寿化により年金受給者や受給期間が長期になる等、福祉関連の歳出は増加する。
またこのような人口減は、全国一律に起こるのではなく、地方から人口が流出し、地方の人口減が起こる一方、首都圏等の大都市に人口が集中する傾向が民間の研究でも指摘されている。
他方、経済については、グローバル化が進み、国内市場ではなく世界市場を目標として企業の大規模化、多国籍企業化が進む一方、裾野産業がそれを支えると共に、特異な技術や製品が世界市場に向かうなど、中小企業についても国際競争力が問われるものと見られる。
このような変化の中で、2040年を一つの目標年として、中央及び地方の体制を次のように誘導して行くことが望まれる。なお、人口増について、出生率の増加や外国人労働力の受け入れなどが検討されており、それにより若干の効果はあろうが、日本人の人口減と長寿化は趨勢としては継続すると見られるので、それを前提とするべきであろう。
(1)中央、地方行政組織、議会それぞれにおける適正な定員管理
人口減、労働力人口減が予測されている以上、行政組織を適正規模に調整して行くことが不可欠であろう。それを行っておけば、経済停滞期に行政組織で景気対策としての雇用増を行う余地が出来る。そのためまず新規採用を着実に削減して行くことが望ましい。新卒者も減少していくのでその影響は限定的になると予想される。この場合、特殊法人や独立行政法人などの関連組織を含む。また、規制の原則撤廃や簡素化を進めることが望まれる。
特に相対的に急速な人口減が予想されている市区町村については、新規採用の削減などの定員管理と共に、市区町村の統廃合を進め、持続可能な自治体規模としていく必要があろう。同様に選挙区についても定期的な整理・統合が必要となる。これを怠ると将来財政破綻となり住民は大きな被害を受けることになろう。
なお全体の定員管理については、雇用機会の確保(ワークシェアリング)に重点を置き、給与・報酬を抑える方法と、優先分野を明確にし、優先度の低い部局や効率の悪い部局やムダを削減すると共に、規制の撤廃を促進して定員を縮小する一方、給与・報酬など労働環境を改善する方法がある。将来的にはより豊かな家計、生活、即ち高所得、高消費の社会に導くことが望まれるので、後者の方法が望ましいが、その選択については、中央は中央として、またそれぞれの自治体の規模や特性を踏まえ各自治体の選択に委ねられるものであろう。
また全く発想を転換し、少子化、長寿化を前提とした定員管理、人件費削減に取り組むための公務員定員・給与管理モデルを真剣に検討すべきであろう。中央、地方を問わず公務員のいわゆる定年制を撤廃し、経験も時間もある年長者が社会活動にフルに参加出来るようにする一方、人件費の削減、若手世代の待遇の改善が出来るよう、例えば当面65才以上については給与を当初3割減とし、6割減を下限として毎年漸減する。これにより年長者を社会活動に積極的に活用できると共に、一定所得以上の者については健康保険料や年金保険料を徴収することとし(但し年金は一定額を支払い、各年の所得に加える)、社会福祉コストの縮小を図ることが可能となろう。また少なくても公務員については、採用に際する年齢制限を撤廃し、年齢を問わず国民に公務への門戸を開くことが望まれる。
その上で、魅力あるコミュニテイ作りを進めることが望まれる。
(2)公共施設、社会インフラの適正な管理と魅力あるコミュニテイ作り
これまでの経済成長期、人口増を前提とした経済社会インフラ作りのための公共事業モデルは今後困難となるので、低位成長、人口減を前提とし、コミュニテイの生活インフラに重点を置いた公共事業モデルに転換して行く必要があろう。新たな公共施設や道路等は、当面の利便性を高めようが、その維持管理と修復等の後年度負担が掛かるので、人口減となる自治体にとっては将来住民への大きな負担となる可能性がある。従って、人口動態予測や適正な需要予測を実施し検討されなくてはならない。
他方、自治体生活圏のコンパクト化については、居住の自由との関係や一部地域が原野化する一方、生活圏が縮小する恐れがある上、不動産価格が局部的に高騰し、移転費の問題等が生じるので、新たなコミュニテイ作りについて住民との協議を通じ理解と協力が不可欠であろう。同時に、折角スペースが空くことになるのに、生き苦しい狭隘なコミュニテイ作りは望ましくない。可能な限り道路を拡幅すると共に、駅や公共施設はもとより、道路沿線のビルや商店などには駐車・駐輪場の設置を義務付けることなども検討することが望ましく、また移動ショップの普及なども考えられよう。
機能的ではあるが、地域の特性を活かし、人を惹きつける魅力が有り、豊かさを感じられる特色あるコミュニテイとなるよう、グランド・デザインを作ることが望まれる。
(2015.9.4.)(All Rights Reserved.)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます