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時の関守

恐怖のアルバイト

私の学生生活というものは、
成績はあまり良くありませんでしたが、
(良くないというよりは、ぎりぎり、先生のお情けで卒業できた次第です。)
さまざまな興味がわいてきて、私自身は充実しておりました。
貧乏学生というのも、まったく苦にしていませんでした。
正月は、実家に帰る汽車賃も惜しんで、アパートに閉じこもり、専門分野の本を読んでいました。

アルバイトも、ほんとうに食べ物がなくなるまでは、しませんでした。
大晦日の前の日ぐらいだったでしょうか、
一人の友人がわたしのボロアパートを訪れました。

友人がなぜ、暮れの押しつまった日の夜に、訪ねてきたかというと、バイトの人手が足りなかったからです。
正月とか初詣に行くと、さまざまな屋台が並んでいます。
その屋台の手伝いです。
バイトはしないつもりで、アパートで読書三昧(ざんまい)をきめこんでいたのですが、誘惑に負けました。
友人は五千円の支度金(したくきん)を用意していたのです。
まえ渡しの五千円、残りのバイト代もいれると、優雅な正月が送れるという、そんな誘惑に負けてしまいました。

今こうやって、思い出していると、昔見た名作劇場の「恐怖の報酬」という映画のストーリーが思い浮かびます。
ある油田(ゆでん)に火災が起こりました。
それを消すためには、一刻も早く、大量のダイナマイトが必要となります。
その大量のダイナマイトを運ぶために、トラックを使うのですが、その途中、山道、崖道、谷あり、沼ありで実はそれは命がけのものでした。
大きな報酬を目当てに、3台のトラックがダイナマイトを満載して、油田に出発するのです。
一台、また一台と、ちょっとした不注意、思わぬトラブルから爆発していきます。
そして、最後に残ったトラックは…。

少し大げさでしたね。
でも、私たちがトラックにのせられたのは同じでした。

だいたいのバイト先の場所は、友人から告げられましたが、
夜の遅い時間の出発です。
幌(ほろ)のついたトラックの荷台に、私と友人たちが乗せられました。
よく知った友人ばかりなのは安心ですが、
最初に誘った友人が、冗談とも本気ともいえない表情で、
「俺たちこのまま、どこかに売られていくんじゃないよな。」
とつぶやきました。
ここ笑うとこなんだけど…、
だれの顔もひきつっていたような…。😰
だって、暗闇のなか若い男4人、たまに幌の隙間から、わずかな光が差し込むだけなので…。

でも、私たちの不安は杞憂(きゆう)におわりました。
夜中ですが、無事目的の神社につき、はれやかな元旦の日を迎えることができたのです。
恐怖の一夜にしたのは、一にもニにもバイトに誘いながら、不安をあおるような発言をした、友人Tの責任です。


コメント一覧

水仙
私もドキドキしながら読ませてもらいました。

疑心が生じると恐怖を感じるのが普通の反応ですね。
tokinosekimori-kitaiwahara
@storyteller さんへ
いつも、私のブログ読んでいただいてありがとうございます。
皆さんには、興味をもっていただくものではないと思いますが、
これしか書けないので、しかたありません。
たまに、今回みたいなことも、すこし書けたらいいですね。
いつもstorytellerさんのブログ、読ませていただいています。
私も楽しみにしています。
Unknown
初めてコメントします。どんなホラーストーリーか、とドキドキしながら読んだら、ユーモラスな落ちにくすっとしました。
若い頃のちょっとした冒険談は貴重ですね。これからもいろんなお話を聞かせていただけるのを楽しみにしています。
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