成績はあまり良くありませんでしたが、
(良くないというよりは、ぎりぎり、先生のお情けで卒業できた次第です。)
さまざまな興味がわいてきて、私自身は充実しておりました。
貧乏学生というのも、まったく苦にしていませんでした。
正月は、実家に帰る汽車賃も惜しんで、アパートに閉じこもり、専門分野の本を読んでいました。
アルバイトも、ほんとうに食べ物がなくなるまでは、しませんでした。
大晦日の前の日ぐらいだったでしょうか、
一人の友人がわたしのボロアパートを訪れました。
Ⅰ
友人がなぜ、暮れの押しつまった日の夜に、訪ねてきたかというと、バイトの人手が足りなかったからです。
正月とか初詣に行くと、さまざまな屋台が並んでいます。
その屋台の手伝いです。
バイトはしないつもりで、アパートで読書三昧(ざんまい)をきめこんでいたのですが、誘惑に負けました。
友人は五千円の支度金(したくきん)を用意していたのです。
まえ渡しの五千円、残りのバイト代もいれると、優雅な正月が送れるという、そんな誘惑に負けてしまいました。
Ⅱ
今こうやって、思い出していると、昔見た名作劇場の「恐怖の報酬」という映画のストーリーが思い浮かびます。
ある油田(ゆでん)に火災が起こりました。
それを消すためには、一刻も早く、大量のダイナマイトが必要となります。
その大量のダイナマイトを運ぶために、トラックを使うのですが、その途中、山道、崖道、谷あり、沼ありで実はそれは命がけのものでした。
大きな報酬を目当てに、3台のトラックがダイナマイトを満載して、油田に出発するのです。
一台、また一台と、ちょっとした不注意、思わぬトラブルから爆発していきます。
そして、最後に残ったトラックは…。
少し大げさでしたね。
でも、私たちがトラックにのせられたのは同じでした。
Ⅲ
だいたいのバイト先の場所は、友人から告げられましたが、
夜の遅い時間の出発です。
幌(ほろ)のついたトラックの荷台に、私と友人たちが乗せられました。
よく知った友人ばかりなのは安心ですが、
最初に誘った友人が、冗談とも本気ともいえない表情で、
「俺たちこのまま、どこかに売られていくんじゃないよな。」
とつぶやきました。
ここ笑うとこなんだけど…、
だれの顔もひきつっていたような…。😰
だって、暗闇のなか若い男4人、たまに幌の隙間から、わずかな光が差し込むだけなので…。
Ⅳ
でも、私たちの不安は杞憂(きゆう)におわりました。
夜中ですが、無事目的の神社につき、はれやかな元旦の日を迎えることができたのです。
恐怖の一夜にしたのは、一にもニにもバイトに誘いながら、不安をあおるような発言をした、友人Tの責任です。