見出し画像

時の関守

芹沢光治良先生のこと (4)

先生の口からでたのは、私には思ってもみなかった言葉でした。
「君は(君の隣にいる)この女性と結婚するつもりなのかね?」
と尋ねられました。
私はすこし面食(めんく)らいましたが、とっさに、
「はい。そうです。」
と答えました。

妻とは紆余曲折(うよきょくせつ)ありましたが、当時は、結婚もほぼ決まっていて、その点は自信をもって答えることができました。
すると、先生は次に、
「君は信仰しているのかね。」
と、聞きますので、
「はい、信仰しております。」
と、答えました。

「その信仰は人が助かることが目的なのだから、まず、一番最初に、この(あなたの妻になる)女性を真っ先にたすけなさい。」
と、おっしゃったのです

瞬間、わたしの頭のなかは、こんなでした。
「なんて俺はばかなのだろうか。
わざわざ先生にお会いするために、東京にまできて、
先生の貴重な時間を使って、
なんてばかな質問をしていたのだろうか。

神さまは当然、
そんなつまらない質問など無視(スルー)して、
お前が今しなければならないのは、そんな空虚(くうきょ)な神学論議ではないだろう、といっているのです。
お前にとって今大切なのは、
たましいのパートナーとのことなのだよ。
妻には子供のころからの持病もありましたので、
そう言われていることが、瞬時に理解できました。
私は恥ずかしさでいっぱいになりました。

そのあとも、すこしのあいだ、お話しいただいたのですが、
ほとんど記憶にありません。
ただ、今書きましたことは脳裏(のうり)に焼きついています。

妻は終始黙ったままで、
しかし、私に妻を気づかう余裕はありませんでした。
帰りの車のなかで、妻は
「わたし、ずっと先生の手を見ていたの。
先生の手がとてもきれいで、
高齢のかたで、あんなきれいな手、はじめて見たわ。」
そう言っていました。
私は、そんなところを見る余裕など、
ありませんでしたので、
よくそんなところを見ていたものと、感心しました。







コメント一覧

tokinosekimori-kitaiwahara
コメントありがとうございます。
私は先生の宗教的の部分に興味があったのですが、それにしても、晩年の創作には、たいへん驚かされました。
そのことを、「地上に神が降りるとき」というテーマで、次から書くつもりです。
よかったら、のぞいていただけるとうれしいです。
Izumi
偶然に拝読しました。
芹沢光治良さんは1970年のころ良く読みました。「巴里に死す」「愛と死の書」、バイトで揃えた「人間の運命」14巻、そして一番影響を受けた「結婚」、この本は結婚への指針とも言える本でした。
懐かしいです。芹沢さんはあの時代に本物のフェミニストでした。
tokinosekimori-kitaiwahara
@storyteller さんへ
ありがとうございます。
今は亡き芹沢先生からいただいた、忘れ得ぬ言葉の一つ一つが私の宝物だったことが、ブログを書くことによりわかりました。
その先生の言葉の力が、storytellerさんの心に響いたのですね。
Unknown
たましいのパートナー
とても心に響きました。この言葉を噛みしめて生きていきたいと思います。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日記」カテゴリーもっと見る