写真がなかったので、昨夜のうちに咲いた「アマリリス」です。今年もおおきいですわー。
あと三つは咲きそうです。
今日は昨日のご質問から、記事にしようと思いまして…。
撥水加工について…。
着物を作ると、それが高価であるほど「パールトーン」したほうがいいですよ、といわれると思います。
要するに撥水加工ですね。ところでパールトーンって、一つの会社の名称だとご存知ですか?
着物業界に進出したのは、たぶん私が子供のころだと思います。えーと昭和30年代後半くらい?
元々、海軍の制服についているあれこれ、肩章だとか襟章?、そういったものが潮風で腐食するのに、
何か方法はないかといわれて、創立者が開発されたもの…だったと思います。
それをいわゆる「着物用」にした撥水剤ということだと思うのですが、
糸一本ずつに浸透するので、反物時点でも、仕立てあがってでも大丈夫です。
他にも旭硝子でしたか「アサヒガード」などがありますが、いずれも独自で溶剤をあわせて
作っているわけです。パールトーンは、会社が独自開発したものを使用しているわけですが、
いずれも私たちって、その成分を知りませんよね。
元々撥水のために使われるのは、昔はフッ素系と、石油系のナンタラいうややこしい名前の化学物質です。
環境問題がうるさく言われるようになって、シリコン系などもでてきました。
住友3Mという会社から出ている「スコッチガード」という、撥水スプレーがあります。
着物は「パールトーンする」、靴などは「スコッチかけて」といいますが、実はどちらも「商品名」なわけです。
さて、この撥水加工ですが、着物の戦後というものをまのあたりにしてしまう、悲しい現実があります。
よくパールトーンのお勧め理由に、パーティーなどで料理をこぼしても、泥が跳ねても、
さっと一拭き、汚れません、シミになりません…というのがあります。
ウソはありませんね。ほんとに見事にはじきます。
これが着物にとっていいことか悪いことか…昔ながらの呉服屋さんや、着物を着なれた人は、
「風合いは変わらないというけど、くらべてみりゃやっぱりかわる」…と言います。
もちろん、こういう商品は、ずっと研究開発されていますから、昔のものと比べれば、
ずっとよくなっているのでしょうから、これは実際にはわからないことですが…。
私たちって、実は何にも知らない…のではないかと、つい思います。
あ、じれったいですね、結論を言いましょう。撥水加工したものは洗い張りできますがしづらいです。
例えば普通の悉皆やさんで、撥水加工した着物の洗い張りをお願いすると、
たいへんな手間をかけることになります。
探しましたら、ありました。だるまやさんです。ご苦労なさっているところ。
洗い張りは、水で洗って糊付けするわけですが、水をはじいて糊が入っていかないし…。
これはプロのお話なんですが、パールトーンを洗い張りすると、7割がたそれは落ちるそうです。
もうひとつ、パールトーン加工したものは、染め替えでムラがでる確率は高いです。
呉服屋さん、他で撥水加工したものを知らずに染め替えを請負い、
ものすごいムラ染になってしまって、弁償したことがあるそうです。
加工を取り除く加工、というのもあるのですが、それをやっても、
繊維が完全にもとの「素(す)」の状態に戻るわけではないので、染ムラが出やすいのです。
着物は、洗いはだいたいそれを買った呉服屋さんで頼みますね。
そのへんはですねぇ、実は反物に「パールトーン加工」と書いてあったり、呉服屋さんでお勧めしたり、
そういう場合は例えば「クリーニング○回までは無料」とか、「5年間は無料クリーニング」とか
そんな感じでサービスが付くことが多いです。
裏の事情は知りませんが、通常の「洗い」つまりクリーニングしてください、だと、
パールトーンしてもしてなくても、たいした差はありません。ドライですから。
撥水してあれば元々泥はねや、しょうゆのシミは付かないわけですから、通常の丸洗いでいいわけです。
パールトーンも永久不滅ではありませんから、何年か経てば弱くなりますし、やがて効果はなくなります。
だから呉服屋さんでの「○回サービス」とか「5年は無料」というのは、
消えたらまたかけましょうね、の時期的な期待もあるわけですよ。
私はパールトーンはほとんどしません。帯にはすることもあります。帯は基本洗わないもの、ですから。
じゃぁしないほうがいいの?といわれたら、そうですよ、ともいえないのです。
コレが「着物の戦後」の悲劇です。
着物離れが進んで、たまに着物を作るとしたら、それはだいたい礼装用の振袖、留袖、訪問着などです。
そういうものはめったに着ません。そして着るにあたっては「成人式に雨だったらどうしよう」とか
「結婚式に出るのに台風だったら(そりゃあまりにも読みすぎ…)」とか、とりあえず、
万一天気が悪かったら、料理をこぼしたら…と考えると「雨でも、料理がこぼれても大丈夫」と、
そりゃそっちがいいですよね。そう思うのは当たり前です。
これが「今の着物事情」、つまり、これから先誰かに譲るとか、何かに作り変えるとか、
今の着物はそういう目的はあまり言われません。とりあえず自分が着るときのことだけです。
昔のように誰かに譲る場合、ただクリーニングして「ハイ」とあげられればいいですけどね、
例えばサイズが違うので縫い直してから譲る、或いは着物を羽織に作り直すなんてときは
どうしても「洗い張り」をしなきゃなりません。
また色無地をハデだからと染め替えようとか、小紋を別の柄に染め替えるとか、
そういうこともあるわけです。
「繰り回し」や「おさがり着まわし」があたりまえだった昔の場合、それができないものは不経済なんですね。
じゃ汚れたらどうするのよ…まずは汚れないようにする…あらら。
若い友人「着物で出かけたら急に雨がふってきた…なんてときはどうすればいいの?」
「喫茶店でコーヒーでも飲んで、雨がやむの待ちなさい」「えぇぇ?時間とかあるときはできなーい」
「じゃ、大きなポリのゴミぶくろかぶって、裾はお尻まではしょって走りなさい」「やっだぁぁぁ」
と、まぁこんな感じで大笑いになったのですが…そのとき言いました。
まず礼装などのとき、お天気があやしかったら必ず「雨コート」を持つこと。
ありがたいことに、今は雨コートとして作らなくても、撥水素材の携帯できるものも売っています。
万一降られたら、着物は裾をあげて帯締めにはさみ、裾は長襦袢だけ出るようにしてコートを着る…。
紬や小紋でも同じですが、雨にあたると傘をさしていても肩先と裾、おたいこがぬれます。
だから帯にはガード加工したほうがいいのです。雨はいろんなものを含んでいますから、
ただの水とちがってシミになります。古いものはとれなくなります。
これは本来訪問着でも小紋でも同じで、シミが付いたらすぐ悉皆やさんにもって行くことだったわけです。
撥水加工してあると「しょうゆがしみになりません」というのは、
しょうゆは水分だから、はじくので染み抜きをしなくていい、というそれだけのことです。
雨にはコート、料理や化粧品、泥はねはとにかく付けたらすぐシミ抜きに出す…
これが昔ながらのやり方なわけです。普段着物の簡単なシミなら、家で落としましたしね。
その「シミ」の元がつかないから、あとはドライクリーニングでいいんですよ、になるわけです。
どちらを選ぶかは、その着物を誰がいつ着るのか、着られなくなったらどうするのか…
そういう「着物の将来」を考えて決めればいいわけです。
今はスーツやコート(洋服の)をクリーニングに出すのと同じ感覚で「着物をクリーニング」と考えますが、
以前にも書きましたけれど「ドライクリーニングは石油系溶剤」です。
油脂系の汚れは落ちても、水溶性の汚れは落ちません。
だから着物は丸洗いではなく「生き洗い」、つまりシミや汚れをひとつずつ調べて落としてからドライ、
という丁寧な洗濯をお願いするのが、一番いいのです。
撥水加工は、今の着物事情にはあっているものだと思いますが、
永久ではないこと、染め替えはやめたほうがいいこと、などのリスクもあるということです。
いつも「消費者は賢くないと」というのは、着物に限っていえば、余りにも情報が少なくて、
自分がそれを知らないのだということも「知らない」というのがネックなのです。
いつもの呉服屋さんでは「振袖お買い上げ」のお客様には、一回クリーニングサービス、というのをつけて、
成人式でお召しになったら、早いうちに必ずお持ちください、と言っているのだそうです。
これは、知らない人はまず「よごしちゃいけない」とばかりに、脱いだら風も通さずにしまっちゃったり、
よく見もしないで「シミはない」と判断してしまっちゃったり。
そして当然のように何年もそのまま置いて、ある日「シミが出た」「カビがはえた」と持ってくる…。
華やかな色柄の振袖だと、ちょっとしたケチャップのシミのようなものは、ついていてもわかりにくいし、
「胸元ばかりきにするけど、袖(袂)の底をどこかで擦って、薄黒く汚れていることも多いのよ…」と。
私はその「成人式直後のお店」にいたことがありますが、もって来る方の中には、
ごしょっと丸めただけで、ものすごい大きな風呂敷包みで持ってくる…
呉服屋さんの奥さんは「今は着物をたためないお客様もいらっしゃるから」と、言ってましたが、
なんだかなー、です。
着物離れしてわからなくなったことは、着方だけではないんですよね。
またそんなことも、書いていきたいと思っています。
久しぶりの着物話題でした。
していません。
洗い張りや染め替えが大変だとは知りませんでした。
私も以前、撥水加工した訪問着だったかを、
触らせてもらったのですが、
なんとなくべたつきみたいなものを感じました。
硬くなってる気もしましたし…。
といっても、思い込みによる錯覚かもですけれど。
自然が一番ですね。
若い頃に、友人の披露宴出席のために仕立てた訪問着には加工をしましたが(お酒の席は危険がいっぱいかと考えまして)実際にはそんなに汚れるようなこともなく、不要だったかと思っています。
それと、疑問というか、どうなんでしょう?と思うのは、生地に加工をしても、縫い糸には加工されていないので、完全に予防したいならば、仕立て上げてから加工するか、加工済みの糸を用意する必要があるのでは?ということです。そうでないと、糸には汚れがしみこんでしまいますから。
ますます仕立てにくくなりそうですが・・・
撥水加工で風合いが変るのは普通なんですが、パールトーン加工が一番変化が少ないみたいです。
生地を液に浸けるのではなく真空蒸着する様です。
染め替えの際にパールトーン社に持ち込むとその加工を抜いてくれますが、ちょっと不安です。
事故責任を確認してから抜いてもらい、染め替えしましたが、染めムラでパールトーン社に買い取りしてもらました。
撥水加工は冷水には効果がありますが、水温が高くなるに連れ効果が無くなります。
アイスコーヒーは弾いても、ホットコーヒーはすっと透過してしまうのです。
汚れは落ち易いので地直し屋さんでは好評の様ですが。
染め替えを考えるとNO!です。
この記事を読ませていただいて疑問に思っていたことが解消ーなるほどそういうことなのですね。
色々な意味でプラス、マイナスをよく考えてからするべきですね。とても参考になりました。ありがとうございました。
わたしはキモノの着かたを自己流で覚えて、
たいていのことは本で見た目は確認できるのですが、
唯一といっていいほど頭でイメージできないのが
>万一降られたら、着物は裾をあげて帯締めにはさみ、裾は長襦袢だけ出るようにしてコートを着る…。
の部分なのです。
言われていることは わかるのですが、どうしても
最終的に コートの下は どんな姿が正しい(?)のか
想像が できないのです。
もし よろしければ(と遠慮がちに、じつは懇願ですが)
画像で見せていただけないでしょうか。
お福ちゃんには恥ずかしい思いをさせて
申し訳ないのですが。
紬、襦袢、帯以外は全てで、呉服屋さんのサービスらしいです。
リーフレットが付いていて「正しいお手入れ方法」が書かれているのですが。。。
冷たい水分はティッシュなどで素早く吸い取る=これはいいとして、
熱い水分は少量の水を含ませた布でぼかすように軽く拭き取る=これを信じてエラい目にあってその後の染み抜き代が1万5千円かかったそうです。
色無地や訪問着もサービスでしてくれるし、仕立て直したり、染め変えたりしないからいいらしいです。
私は今のところ全くガード加工という物をしていないのですが
とんぼ様のおっしゃるように帯くらい、、、白い塩瀬の帯くらいはしておこうかと、、、思ったり思わなかったり、、、
やはり手触りはなんか違いますよね。
それに「縫いにくい」というのも、なんとなくわかります。
撥水素材のスキー用、登山用のヤッケをつくるところは、
縫った上からというようなことも、やっているみたいですね。
正直、ミシンより緩みのある縫い目なのですから、
そこもですよねぇ。
とりあえず「過信」しないことですよね。
繰り回ししょっちゅうの私は「必要性」をあまり感じません。
ほんとに、いいんだか悪いんだか…と思っています。
呉服屋さんは、まさかの事故だったので、
聞かずに出したこちらの責任、と、同じ色無地を
弁償したのだといってました。呉服屋泣かせですね。
それぞれの立場の人で「いいね」「困るね」が違うのだとは
思うのですが、元々昔はなかったもの。
なければないなりの工夫できたのですから、
特別ゼッタイ必要とは思えないんですけどねぇ。
お役に立ちましたでしょうか。
便利なものは、どこでどう使うか、で、
そのものの価値も発揮されたりされなかったり…。
そんなことになるのだと思いますねぇ。