ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

ふのり

2010-05-01 14:13:50 | 着物・古布
母にもらった「ふのり」がかなり古くなったので、大丈夫とはおもうんですけど
新しく買いました。例によって「田中直染料店」さんです。
ふのりって高いんですよぉ…。これで50グラム、1袋税込み756円です。
幅15㎝、ちょっと折り返してありまして、長さはだいたい30㎝。


     


乾燥したままとっておけば、すぐに腐るようなものでもなし、
まとめ買いしておこうかと思って、値段をみたとたんに「ちょっとにしとこ…」。
母は、普段しょっちゅうザカザカと洗うような着物は、ごはん糊、
つまりでんぷんを絞った糊を使っていました。
残りご飯をぐちゃぐちゃと大まかにつぶして手ぬぐいで縫った袋に入れ、ぬるま湯につけて
もみもみしながらぎゅぅっと絞ると、水が白く濁りはじめます。
あぁにおいまで思い出しました。いいにおいではありませんよ。
たまに傷んだご飯なんてのもありましたからねぇ。
そういう時は最初にざっと熱湯に入れてた気がします。
木綿なんかは、ずっとコレでした。私の浴衣も…。硬いんですよこれで糊付けすると。
そういえば、障子の破れの繕いで、小さいのをちょっと貼るときなんかは、
かまぼこ板の上でごはん粒をヘラで練って使ってましたね。

今でも「でんぷん糊」は洗濯糊として販売されています。
市販品の「でんぷん」は、ご飯、つまり「米」ではなく、だいたいコーンスターチです。
防腐剤が入っているものもあります。
この糊の注意点は「でんぷん」であるため虫がつくことがありますし、
シミにもなりやすいので、季節が終わったとか、しばらく着ない、などのときは
必ず一度洗って「糊気」を完全に落としてからしまうことです。

さて「ふのり」ですが、漢字では「布海苔」と書きます。
海藻ですからもちろん食べられます。何種類かあるのですが、
どれがどれに使われる、と細かくきまってはいないようです。
ダイエット食品とか、ガン予防食品など、現代はそちらのほうの食用に使われることが多く
食用ではない使われ方の方が専門的で知られていないかもしれません。
ふのりは、その粘性を利用して、漆喰などの中にも入れて使われます。
ふのりの粘着力は、それほど強くありません。「糊」とよばれても、
実際になにかを貼り付けるためよりも、つなぎのような使われ方とか、
染物だとにじみ止めなどに使われます。

また江戸時代は、シャンプーとしても使われました。
かの時代は、今のように毎日シャンプーなどしませんし、
逆に毎日ビンつけ油などをつけますから、きっとベタベタしていたでしょうね。
洗剤は押しなべて「界面活性剤」ですが、ふのりも同じように、
油や汚れにくっついて、汚れを包み込んだわけですね。
漁村のお年寄りなどでは、今でもふのりで洗髪するヒトがいて、
テレビで実践していました。リンスもいらず、しっとりするそうですよ。
あっこれも今販売されているようです。

またよく目にしているものとして「お相撲さんのさがり」があります。
まわしの前に下がっている、まばらな縄のれん(おすもーさんごめんなさい)みたいなの。
あれは絹糸の細い束にふのりをつけて乾かしたものです。
乾くとピーンとするけれど、勝負で折れ曲がったり崩れたりします。
当然、直すんですよ、糊付けしなおして…。怪我をするほど硬すぎず、
形が揃わないほどやわらかすぎない…ちょうどいいんでしょうね。
ちなみに幕下以下の「さがり」は糊をつけませんから、
ふにゃふにゃしてほんとにのれんみたいです。

そのほか染物や絵画のマスキングなど、用途は多岐にわたります。
知らずに使っている場合もあるのでしょうね。

ふのりは紅藻類、つまり元々赤っぽい系の海藻です。
あのお刺身のツマとしてついてる「赤紫色」のあれですね。
そのままでももちろん食べられますが、味噌汁などにも使われるわけです。
そのときは、さっと火を通すだけ程度ですから、色も鮮やかですが、
「糊」として使う場合、もしくは蕎麦などのつなぎにも使われるのですが、
そういう場合には色がないほうがいいわけですから、まず何度も洗って塩気を抜いて、
ゴミをとって、ぐつぐつ煮て天日干しして漂白します。
手間も時間もがかかりますから、毎日大量にできるわけではありません。
時期的に一気に…というような方法です。だから高いのもうなづけるんですけどねぇ。

さて、そうやって乾燥したふのりは「板ふのり」と呼ばれますが、
これを使うときはまた水につけ、やわらかくなったら鍋にかけて煮ます。
とろとろに溶けたら冷まして、これをさらしや手ぬぐいで漉して使います。
どれくらい…といわれるとこれが困る…「目分量」ってヤツです。

今回ふのりが届いたとき使用についてのメモが入っているだろうと思っていました。
しかし何にもナシ…なんだよぉ~と思ってから「あ、文明に毒されてる…」と思いました。
今はなんでも懇切丁寧に使い方や容量が書かれています。
ものによって賞味(費)期限も…。
逆に何もないと「何コレ、なんにも書いてないじゃない」って思いません?
食料品なんて、冷蔵庫もあるのにねぇ。昔は「目と鼻と手」が頼り。
「目で見て」「クンクン嗅いで」「指でつついて」…「まだ大丈夫」…でした。
親はなんでも目分量「そんくらいでええょ」とか「もうちょっと足しとき」とか、
そんな風にいろんなことを教えました。こっちもわからないまま「こんなもんかな」と…。

「安全」とか「責任」とか、そういうことがかまびすしくなり、
それはそれで人が暮らしていくためにはある種必要なことだとは思いますが、
なんでも「書かれている通り」だと、自分で考えることが減りますね。
「やってみる」「ためしてみる」も、必要なのだと思います。
私の場合はあらゆることが「テキトー」で「ま、こんなもんかな」ですから、
縫ったバッグがゆがんでみたり、料理の味が薄かったり…あららぁ~。

今回、一緒に買ったものがこちら「繊維鑑別染料」。
ずっと布を触ってきていますから、あらかたはわかるのですが、交織ってのが苦手です。
また、戦前戦中アタリの質のよくないものになると「これ絹?」なんてのもあったり。
これは「交織」の時はどうなるのかわからないのですが、
とりあえず1本504円でしたから、買っておきました。


         


ふのりに限らずですが…何か自然のものたとえば植物繊維もそうですけれど、
同じ繊維がとれる植物でも、みつまたやこうぞなどは「和紙」になり、
麻や葛などは糸になりました。繊維の性質をよくよんだわけですね。
長い時間の中で、繊維の質や長さによって使い分ける…
そういう知恵の積み重ねには、すごいものがあると思います。
また同じ和紙でも、紙として字を書く用途に使われたものを、
その繊維の絡み具合による強さを利用して、まず和紙をよく揉み、
破れる方向(紙は裂きやすい方向がありますね)を90度に重ねて、
これまた防水性のある「こんにゃく糊」で貼り合わせたものは、
衣類用の布代わりとして使われました。「紙子」といいます。
見たこともありますが、とても「紙」とは思えませんし丈夫です。
「経験の積み重ねと、それによって培われた知恵」は、本当にすごいと思います。
今はなんでも化学原料です。確かに何倍もの耐久性とか、すばらしい発色とか、
虫がつかないとか、耐水性とか…数値であげればはるかにしのぐものばかり。
でも、処分がたいへんだったり、害が残ったり…。
どっちもうまく使い分ければいいのになぁと思います。

さて、ふのりが届きましたから、今までは何かと材料用ばかりやっていましたが、
自分のものも解いて伸子張りを致しますかね。
新しい刷毛を買ったきり、ずっとしまいっぱなしです。
あそび毛を出してしまわないと…です。

ん~いいお天気だけど、風が5月の風じゃないなぁ…。
でもま、こんな年もあるのでしょう。大きな災害がなければそれが一番、
多少のことはしんぼうしなきゃいけませんね。













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4 コメント

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Unknown (陽花)
2010-05-01 21:45:55
母もよくごはんの糊を使っていました。
何となく酸っぱいようなにおいがして
いたように思います。

今日も娘に賞味期限の事を言われた所です。
私たちは目で見て匂って・・でも見ますが、
娘は賞味期限厳守、すぐ捨てられてしまいます。今の子はそういう融通がつかないのでしょうか、それとも私が大雑把過ぎるのかしら。
返信する
ふのり (きてぃ。)
2010-05-02 11:38:53
こんにちは。ごぶさたしております。
私はふのりを織る前の糸の糊付けで使いますが、1反分でだいたい、15gを2Lの水に入れて湯せんにかけます。
それをこして半分に分けて、経糸は同量、緯糸は2倍の水で薄めます。
つけたあとでがっつり絞るので、半分くらい残るかも、、、ですが。

GW期間中はお天気も良さそうで、洗い張り日和ですね♪
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-05-02 14:26:39
陽花様

そうそうすっぱいにおいでしたね。

賞味期限って、もうだめではなくて、
風味が落ちるとか、もとよりおいしくないとか
そういうことも多いわけですけれど、
なんかがんじがらめな気がしますね。
冷蔵庫でつい期限切れさせてしまっても、
大丈夫ならいただいちゃってますが、
そういうのは、今はダメなんでしょうねぇ。
オバサンは生きていきにくいなぁ?!
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-05-02 14:30:00
きてぃ。様

こちらこそお久しぶりです。
織るときは糸につけるのですね。
母のやっていたことを、はるかな記憶から
手繰り寄せていますが、
まぁネがいい加減なので、毎度濃さが違ったりして。
どこで損してるかわかりませんわ。とほほです。

あれだけおかしかったお天気が、
GWにあわせるようによくなりましたね。
遊びに行かれる方にも、いいお休みになりました。
私もチマチマ動きます。
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