ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

きものばなし 「素材」

2010-10-07 18:20:39 | きものばなし
和服の素材となるものには「絹・木綿・麻・その他の植物繊維・毛・化学繊維」…。
これ以外にも何かあるかもしれませんが、とりあえずこれでだいたいは出ていると思います。


承知の通り「お蚕さん」がへんしーんするために作る繭が原料。
絹のことはしっかり書きたいので、別仕立てで書こうと思います。


木綿
綿花だから綿の花…いえいえ、綿の花そのものは、アオイ科でして、
ムクゲとか、アオイのような感じの、美しい花です。
写真を見つけました。いろんな種類がありますので、ご覧ください。こちらです。
花がおわって結実すると、タネの表側にモコモコが育って、コットンボールと呼ばれる、
「綿の花」になります。採った状態のものは「木編」の「棉」、
モコモコを採って種子など余分なものを取ったのが「糸編」の方の「綿」です。
この綿から糸を引くわけです。



これが一番ややこしいのですが、繊維をとるものとしては、
とても広いくくりで「麻」と呼ばれているのです。
マリファナを採る「麻」は、「大麻」で、これも繊維もとってきましたが、
元々麻は葉も茎も実も…と、食用と繊維用の両方に役に立つ植物だったわけです。
「麻薬」として使われる部分は葉と花ですが、
日本では「特別それだけをとるため」に大麻が栽培されていたわけではありません。
日本での栽培は紀元前といわれるくらい古く「繊維」としての使用が主で、
神聖なものとして、今でも神前に供えられたりしています。

非常に丈夫で一年でよく育つため、木綿が一般的に出回る江戸時代になるまでは、
日本の衣服といえば「麻」が主流でした。
この場合の一番上質な麻は「苧(からむし)」で「苧麻(ちょま)」と呼ばれ、
今の越後上布など「上布」とよばれるものです。
大麻の方の麻は、現在はは紐素材とか、そういった日用品などに使われています。
戦後になって大麻からは「マリファナ」が作られることから、
アメリカの要請で規制がきびしくかかり、今、国内で「大麻」の栽培には許可がいり、
栽培は限られます。
今日本で許可されて栽培されている大麻は、品種改良されたもので、
麻薬成分はほとんどありません。麻薬を作る大麻とは別のものなわけです。
それなのに「許可制」なんですよ。これはほんとにおかしいです。

みんなひとくくりで「麻」と呼んでますが、
植物の分類でわけるとそれぞれにアサ科とかイラクサ科など違いがあります。
成育や採集、加工など、特徴が似ているのでまとめられているんですねぇ。
総じて麻系の植物は「丈夫でたくさんとれる」ものです。
また麻は土を浄化する、とも言われていまして、
荒れた土地を良い土地にするには麻を植えるとよいといわれています。
麻については、また別仕立てで書きますが、
糸の取り方は大雑把に言うと、茎の外皮と芯にわけて、
その外皮から余分なものを取りのぞいたものを細く裂く…です。

その他の繊維の取れる植物は、葛(クズ)、芭蕉、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)など。
それぞれ煮たり発酵させたりとたいへん手間のかかる作業から作られます。
こうぞ・みつまた・がんぴは「和紙」の材料として有名です。
なぜこの三つを衣服の繊維に入れたかと言いますと、和紙の着物もあったから、です。
和紙は当然紙として使われましたが、
こんにゃく糊で繊維の方向を変えたもの二枚を貼り合わせ、これをよくもんで、
布と同じように裁断し、縫って着物にしました。「紙子・紙衣」と言います。
柿渋を塗ったものは、防水具として今で言う雨コートとして着られました。



葛布になる葛の茎、と言いますか実は葛は「木」です。
ほかの木に巻きついて育つので、自分で立っているエネルギーが要らない分、
育ちがいいわけで、効率のいい育ち方ですよね。
葛の場合の繊維の取り方も麻と同じで、こちらは枝葉をおとしたものを
室に入れて発酵させ、外皮と芯を分けます。
葛は、根にでんぷんを多く含みますから、これを「くず粉」として使いますし、
根を乾燥させたものは、あの「葛根湯」になります。
葉もでんぷん質が多いので、飼料として最適とされています。
つる状のままでも丈夫ですから籠にあまれたり、四国祖谷では「橋」ができていますね。
何から何まで役に立つ植物です。


芭蕉
「芭蕉」はあの大きな葉の真ん中の芯だけ取って、これは煮ます。
あとは麻と同じように、外皮と芯を分けて…です。
ちなみに芭蕉の中で「実芭蕉」がバナナです。繊維をとる「芭蕉」は「糸芭蕉」。



科は草ではなく葛と同じ「木」で「シナノキ」と呼ばれています。
しっかり立っている普通の木で、20メートル以上の大木にも育つ木です。
科の繊維をとるためには、まだ直径が10センチ程度の細いうちのものを切り倒し、
皮と芯を分けるのは同じですが、こちらは木ですから、たいへんですね。
更にこの内皮部分を日に干して乾かし、樹脂成分除去のため「灰汁」で煮ます。
これを一枚ずつはぐ…なんたって木ですから薄い紙みたいにはがすわけです。
これを漂白しますが、使われるのはぬか、と物の本に書いてあったと思います。(たぶん)
そののち洗って、あとは麻と同じように裂いて裂いて糸にしていきます。

科布、芭蕉布などは元々は庶民の一般的な日常着として使われましたが、
いまや「貴重品」です。麻もそうですよね。
いずれの布も、今は産地が限られます。葛なんて全国に自生するんですから、
もっとたくさんできたらいいのになと思っています。



ウール。いわずと知れた羊さんの毛…です。
これはもうよく存知のように、刈り取った毛を精製して油分や汚れをとり、
綿状態にしたものから糸を紡ぎます。
洋服ですと、動物の毛から作られる糸としてはアンゴラとかアルパカとか、
そりゃぁもういろいろありますが、着物として使われる「毛」の素材はウールが主で、
アンゴラやカシミヤなどは和装でもコートなどに使われますね。
ウールそのものの伝来はものすごーく古くて、卑弥呼の時代にあったといわれています。
ただし、羊毛としてではなく布としての伝来。
その後、信長の時代ごろに南蛮貿易が盛んになってから、
「羅紗」と呼ばれる素材として入り、戦国武将の陣羽織などによく使われました。
とても高価なものでしたから、当然庶民などは一生目にすることもないようなものでした。
ウール、という「素材」として入るようになったのは明治以降。
洋装が入ってきてからですね。素材として入りましたから、今度は厚地薄地と、
いろいろなものが作り出されました。袴などに使われたセルもウールです。
夏物はポーラーと呼ばれる薄いウールが人気でした。
あのざらっとした感触が、肌にべたつかなかったからですね。


化学繊維
今はポリが多いですが、元々最初の「化繊」はナイロンです。
一昔前は、ウールとあわせてアセテートとかナイロンも混紡として使われました。
ナイロンが出てきて、女性のストッキングの革命がおきたわけで…。
この「ストッキングの歴史」については過去記事のこちらをどうぞ。
羊毛に似せて作られた化繊は「アクリル」ですが、
着物には使われず、もっぱら毛糸系ですね。


レーヨン
これは化繊ではありません。「再生繊維」で、人絹とよばれたものです。
石油から作られるのではなく、パルプを原料として作られています。
元々第一次大戦後、絹の生産や流通がうまくいかなくなって作り出されたもの。
日本は元々「絹」が貿易を支えていましたから、その技術で「人絹」もうまく市場に載せ、
順調にやっていたのですが、第二次大戦によってその隆盛も下火になりました。
結局、戦時中に作り出されたものは、質の悪いものでした。

材料として使われる「繊維」についての説明はこんなもんでしょうか。

今、身近で養蚕や麻の栽培を見ることはまずありませんが、
たまにリポートなどがあってその製造過程を見ると、
気が遠くなるほど、手間と時間がかかります。

いつもコメントを下さるゆん様が、実際に蚕を育てておられました。
養蚕はすっかり廃れてしまった日本ですが、なんとか復活しないものかと思っています。
そりゃもぉぉぉ、たいへんな手間なんですけどねぇ。
ちなみに私は長い虫系がダメなので、見てるだけしかできません。

さて、和服の素材となるもののまぁだいたいのところを書いてみました。
次回からは、それぞれの素材についてもう少し詳しく…の予定です。

こんな感じで書いていこうと思っています。
ご意見ありましたら、お聞かせください。


写真は手持ちの「昔ちりめん着物」、秋草の両褄柄。
裏は少し透けて見えていますが「紅絹」です。

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (陽花)
2010-10-07 09:14:30
トップの着物、光沢があって柄もすてきで
見ているだけで優雅な気持ちになりますね。

芭蕉布は真ん中の芯を使うんですね。
葉っぱ全部を使うのだと思っていました。

通り一遍じゃなく、ひとつひとつの奥が深くて
本当に勉強になります。
久しぶりに羅紗という言葉も聞きました。
返信する
Unknown (古布遊び)
2010-10-07 19:40:36
ここで一つ質問をさせていただいてよろしいでしょうか?
実は上布について疑問に思っていたのですが、
上布というときは要するに素材で他の麻のものと区別をすると考えてよいのでしょうか?
苧や苧麻を材料として作られたものを上布と考えてよいですか?
上等な麻布と聞いた事はあるのですが上布とは
どういったものをいうのかなあと疑問に思っていました。

バナナのお話とても面白かったです。
びっくりです!
返信する
ひさしぶり・・・ (maymayman)
2010-10-08 12:28:26
イッヤー、久し振りに・・・
両褄の引き着を見ました!
こんなのを作りたくても・・・
今は需要が無い、残念です。

序に、お久し振り、とんぼさん!
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-10-08 13:07:56
陽花様

着られるものなら着てみたい着物ですね。
こういう紫が今ありません。

知らなくてもすむようなことなんですが、
面白いな、くらいで読んでいただけたら…。
母も「ラシャ」と言う言葉を使っていました。
そのころはまさか「陣羽織」があったなんて
思いもよりませんでした。
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Unknown (とんぼ)
2010-10-08 13:12:44
古布遊び様

世の中の変遷につれて、呼び方や内容なども
変わってきているのだろうと思いますが、
現在「上布」と名前がついた呉服物は、
ほとんどが「苧麻」です。
ただ、今の時代「輸入」という手立てがあるので、
「ラミー」と言う名前で外国の苧麻を入れて、
それで織るものも「高級麻」にはいると思います。
有名な上布の産地で「ラミー」を入れたりして
「証紙」をつけるのに問題が起きたりしています。
麻については、素材3で書く予定です。
そこでまたいろいろ書かせていただきますね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-10-08 13:14:31
maymayman様

お久しぶりです。
日々、悶々と悩めることが多いかと思いますが
お元気そうでなによりです。
このテの引き着、黒、紫、青など持っています。
着られないけど大切にしたいです。
返信する
一張羅 (うまこ)
2010-10-08 19:10:34
羅紗は羅紗鋏でおなじみですが
改めて字を見ると羅と紗?
なんで薄物?
きっと外国語の当て字ですね。

一張羅も羅なんか持っててもしょうがないとは思うのですが・・・
どこにも羅紗のことだとは書いてないから、
やっぱりすけすけの一枚着物が一番上等なんでしょうか・・・
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Unknown (とんぼ)
2010-10-08 20:16:22
うまこ様

記憶が定かでないのですが、
たしか当時の貿易相手ポルトガルの
「ラクシャ」だったか「ラクサ」だったか、
そんな言葉への当て字です。

一張羅ってのもおもしろい言葉ですよね。
羅は薄物のなかでも、ややこしい捩り織りなので、
作るのがたいへんで珍重されたらしいです。
薄さじゃなくて手間から来る価値なのかもですね。
でも私も一張羅じゃなくて「一張ちりめん」とか
そっちのほうがいいですー。
返信する
一番イイ (うまこ)
2010-10-09 18:55:59
なるほど、一張羅は一番良い着る物
だから、一番高価な羅を例えに出したというわけですね。
(語源的には一丁蝋燭だったとか・・・
言葉の意味の変遷にも、色々あるようですね
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-10-10 05:06:34
うまこ様

「一丁蝋燭」も、同じような意味です。
蝋燭はたいへんぜいたくな品で、江戸時代でも
庶民はみんな「菜種油」に灯心の行灯でした。
長屋暮らしのビンボーさんは「魚油」です。
「一丁蝋燭」は、その貴重な蝋燭も、
買い置きがなくてもうこれしかない一本、
という意味ですね。
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