ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

「裏」話しじゃなくて・・

2005-12-18 19:58:07 | 着物・古布

と言いましても、羽織」のお話しです。
いつも「羽裏」のお話しばかりですので、今日は「表」のお話しを・・。
そういいつつ、写真は、相も変わらず「羽裏」です。すみません。
これは、先日手に入れた「無双」の羽織。
以前「鷺の柄で絽なのにリバーシブル」という羽織のお話しを致しました。
これも言ってみれば「裏も一枚」なのですが、リバーシブルではありません。

無双の羽織と言うのは、最初から裏地分も一反の反物に続けて染めているもの、
本来なら羽織の裏地と言うのは、折り返した裾の上に別布の羽裏がつくので、
当然そこには、横に一箇所縫い目がでるわけです。
無双の場合は「ここが裾で、ここで折ってこの先からが全部裏ですよ」、と
場所を決めて染めてしまうので、着物地と羽裏地の縫い目がないのです。
写真でいうと、下の黒くなっているところが羽織の下の方の裏側。
通常はここに横一本縫い目があって、大きく折り返した表地と羽裏が
縫い合わせてあるわけです。ややこしいですが、おわかりでしょうか。
そういうわけで、当然裏地も全部表地と同じものです。
これは、紬風に見えるようにわざとフシっぽくポコポコと柄を織り出した
凝った変わり織りです。袖裏も柄が続いています。
こんなに凝っているのに、リバーシブルではありませんからひつくり返しては
着られません。かなり着物道楽、裕福な粋人のものと思われます。

では、表話・・いや羽織のお話。
そもそも羽織は「男の着るもの」で、女性は着てはいけないものでした。
前に月代のところでお話ししたと思いますが、江戸の役者で女形をやる人は
普段から女性っぽいしぐさや、着るものも女のような華やかな振袖でしたが
ご贔屓様へのご挨拶のときは、その上にちゃんと羽織を着た・・というのは
「男」であることの証しだ・・と書きましたが、そういうことだったのです。
元々江戸時代に入って、ようやく世情が落ち着いてきた頃に
裕福な階層の人達が、いろいろと柄にこったりして着たのが流行ったもの。
確かに防寒やちりよけなどには最適ですし、脱ぎ着もカンタンですから、
いいものは流行るし、やがて定着して「流行」ではなくなるものです。
では、羽織を着られない女性は何をきていたかというと「半てん」とか
今で言う「道中着」のようなものとか、武家の身分高きお方は「被布」でした。
半てんと言うと、今だとつい「綿入れ」のモコモコを思い浮かべますが、
あれは半てんを「防寒用」にしたもので「綿入ればんてん」ですね。
半てんはマチがなく、衿に黒繻子をかけます。

では、いつから女性が羽織を着るようになったのでしょうか。
時は江戸後期、そうとう幕末に近い頃のようです。当時の深川の
辰巳芸者と呼ばれるお姐さんたちが、お座敷着の上から男物の黒羽織をきたところ
これが粋でかっこいい・・ということから流行りだした・・というのが通説。
細かいことを言いますと、当時幕府から「芸者を置く許可」をもらえなかった
深川では、芸者をそのままおくことができない、そこでマゲも男マゲに結い
黒羽織りを着て「芸者みたいだけど、芸者じゃないよー」とごまかした・・
ということらしいのですが、すみません確認してません。
ともあれ、初めて女性が羽織を着たわけですが、実用的だしカッコいい・・
というわけで「女性も羽織」になっていったわけです。
当時は「羽織は男子のみ着用」と決められていたので、幕府は
「そーゆーの作っちゃダメ」とお達しを出しました。でもね、庶民の方が強い!
結局なくなることなく、そのまま女性の羽織当たり前、になっていったんですね。

ただし、着るについての「着物ルール」というのは残っております。
男にとって羽織は着て当たり前のものですから、正装のときは「紋付羽織」
つまり羽織を着ることが正装になります。女性の場合は正装のときは
羽織は着ません。留袖、振袖、訪問着・・・全て。
但し、例えば江戸小紋にひとつ紋の黒羽織りを着ると「準礼装」になります。
つまり、女性の場合は、これを着ることで正装に近く装えるよという
便利アイテムになったわけです。
現代では「お通夜」でも喪服やブラックフォーマルで出かけますが、
少し前までは、お通夜に喪服は失礼にあたりました。そういうときに
例えば地味目の柄の細かい江戸小紋など着て、黒い帯に黒紋付の羽織を着て
お通夜のお焼香に行ったのです。

また脱線なのですが、いつ頃から「お通夜に黒服」になったのか・・。
お通夜には喪服を着ないというのは、来ていくといかにも準備していたかのようで
失礼にあたる・・ということです。昔は訃報があちこちに届くのに
時間がかかりました。訃報を聞いてあわてて駆けつける・・というのも
当たり前のことだったわけです。とるものもとりあえず来たので普段着で、とか
遠くから行くのにちゃんと葬式支度だと「そろそろだと思って待ってたのか」と
そんな風に思わせたら失礼だ・・とか、それがまた「哀悼の意」をあらわす、
ということとしても、通用したわけです。
時代はかわって、いまや外国にいたって訃報は瞬時に伝えられます。
そういうご時世に、そんな気遣いはしなくても、ということなのでしょうし、
友人の一人は「お通夜告別式の両方にでることが少なくなったから、
告別式こられませんのでって意味よ」と言ってました。
確かに、時代の流れでそうなっても別に誰もモンクは言わないとは思うのですが、
「とるものもとりあえず飛んできました。なんてことでしょう!」という思いを
喪服ではないものであらわす方が、遠いとか近いとか連絡がすぐとれるとかより、
大切なことじゃないかと思うんですけどねぇ。そういいつつ目だちたくない私は
ちゃんとブラックフォーマルだったりします。あぁ~~流されるワタシ・・。
もうひとつ気になるのは「口紅」、葬儀では親族も参列客も「片化粧」といって
本来紅だけはつけないものなのですが、最近は親族がしっかりつけているので、
これもすたれつつある「常識」なのかなぁ・・と、そう思っています。

はい、羽織に戻ります。
羽織は紋付や色無地にひとつ紋、華やかな絵羽柄などは「本羽織」と言います。
そのほかに、皆さんがよく着る羽織、小紋や紬のもの、
あれは「中羽織」と言います。長さは流行があって、最近長い羽織が
流行ってます。ワタシも長羽織派です。
うちの中で着るようなマチがないもの、よく昔おばあちゃんなんかが着てました、
あれが茶羽織です。そのほか袖なし羽織とかいろいろあるのですが
もともと上に着るもので工夫がいろいろ効くものですから、
地方地域でいろいろ考え出されたり名前もちがったりするようです。
着物というのは、洋装では考えられないような「柄と柄」を
組み合わせて着ることができます。羽織のおしゃれ、楽しんでください。

おまけ・・羽織の紐を通す小さなループ、あれは「乳(ち)」と言います。
大阪の古着屋さんに聞いたところでは「ちち」というとやはりいろいろと・・
まぁ不都合アリ・・ということなのでしょう、それで「ち」と言うそうです。
たとえば「おっちゃんこの羽織、ちぃはあるけど紐はついたらへんなぁ」
「その分負けとくしこぉていきー」ってなとこです。
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8 コメント

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キハチ!ほしいっ! (とんぼ)
2005-12-21 00:16:42
黄八丈は肌触りよくていいですよね。

私一枚「紺八」を持っているのですが、

もう、ちっとばかしハデ・・かな。

キハチほしいですー。
返信する
こんばんは。 (harumaki)
2005-12-19 22:27:43
とんぼさんの博学に、へ~~とうなりながら読んでおります。

羽織といえば、黄八丈のアンサンブルの羽織しか持っていませんので、マチって?乳って? あとで確認してみよう^^;

洋服では考えられない柄と柄を合わせる、これってセンスと知識がないとなかなか出来ませんよね。精進しなくちゃ(笑)
返信する
初めまして! (とんぼ)
2005-12-19 11:25:23
ようこそ、ちょうちょ様



さきほど、私もおじゃまさせていただきました。

さすがにすごい雪ですねぇ。

横浜は、たま~にちょっと積もるくらいの雪は

ふりますが、それだけで電車が止まるの

転んでケガするのと大騒ぎです。



リンクの件、書き込みしましたので・・。

よろしくお願い致します。
返信する
はじめまして (ちょうちょ)
2005-12-19 09:47:57
北海道の東に住む、古い着物が好き、骨董やさんがすきなオバサンです。

好きな羽裏のお話など、色々楽しく拝見させていただいてます。



リンクをはらせて頂きたいのですが、よろしくお願いします
返信する
やっぱり ()
2005-12-19 00:37:59
やっぱり 良いお値段だったのですね。

カネに糸目はつけねぇと購入したかったのですが、がんじがらめの状態なので無理。

良いものでしたよ。

あれは売り出しに出たのかな?



喪服を作るタイミングも大変ですよね。

結婚する時に持って行くのが一番といっても相手の家に病気の方や高齢の方がいると実家預けになったり・・・



私の友人で結婚1年目にしてご主人を亡くされて、お通夜に伺ったら明るい色の色無地に喪の帯をしていました。

23の頃でしたが、ちょっと違和感ありました。

私は当日そのまま旅行に出かける為に、持っていった赤っぽい旅行鞄を人目につかない様にする為、右往左往していました。

(その時はその旅行鞄しか持ってなく、黒い鞄を買う事も考えた)

昔からいろいろですね。
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高かったっすー (とんぼ)
2005-12-19 00:08:26
5万までいきませんでしたが、

シゴトなればこそのお買物、自分のなら・・

また来るねーです。めったにでませんもんね。



以前近所で、会社の管理職の方がなくなったとき、

7時からのお通夜に会社の人がぞくぞくきたんです。

当然地味だけど黒じゃなくて、女性もグレーのスーツ

ブルーのワンピースなんかでした。

そしたらそばにいた人が「会社帰りじゃ黒着なくても

しょうがないけど、やつぱへんよね」だって。

アンタの方がヘン・・って内心思ってました。

これまた「なんだかなー」です。

返信する
通夜の喪服 ()
2005-12-19 00:01:18
そうそう

いつの頃かお通夜でも、喪服姿になっていましたね。

確かに小さい頃に聞いたのは、「用意していた様に思われるから着ない」という事の様でした。



地味色の無地に喪の帯が素敵だと思うのですが、近親者以外が喪服、半喪服を着ると好機な目で見られそう。

って考え過ぎ?
返信する
無双羽織 ()
2005-12-18 23:54:04
先日リサイクルショップで、男物の無双羽織を見つけました。

とても素敵な絵柄で気に入ったのですが、高い。

5万円ですって。

状態も良かったのですが、買えない。

裄が短いわ・・・という事で見るだけにしました。

買えるはずないわね~。

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