夜、酒を飲んでいた親父が急にタンスの引き出しをあけた。
ざっと見まわすと、タンスの開きの方も明けた。お袋のタンスだ。
お袋は例によって遊びに行っていていなかった。
親父は裁ちばさみを持ってくると、引き出しからお袋の下着やらブラウス?やら
ズボンなどを引きずり出しはさみで切りこみを入れると手で引き裂き始めた。
俺と兄貴はボーゼンと見ていた。8畳しかない部屋だから見たくなくても見なくてはならない。「こんなもんがあるから悪りいんだ!」そうぶつぶつとつぶやきながら、もの凄い力で服を引き裂いた。
怒鳴ったり、怒ったりしないから余計に怖かった。
硬直して見ていた。
引出の中のものを引き裂き終わると、開きのなかのハンガーにかかっている服を全部投げ出した。
そして「こんなもの!こんなもの!」とぶつぶつつぶやきながらもの凄い力で上着みたいな豪華な服やコートやら、とにかく全部引き裂いた。
山が2つできた。
次にみんなのパンツとかの肌着を入れてある引出ばかりのタンスの引き出しを引っ張りだし、お袋のパンツとかブラジャーとか良くわかんねえ肌着に全部ハサミを入れて手で引き裂いた。「こんなものがあるから悪りいんだ!」とぶつぶつとつぶやきながら全部引き裂いた。靴も全部ハサミで切ってしまった。
そのあとの記憶が全くないんだ。
恐らくお袋が帰ってきたら、殴る蹴るの修羅場になったはずだ。
が、そこまでの記憶がない。
夜中に殴る蹴るの修羅場になった時は寝ているふりをするしかなかった。
兄貴はどうしているんだろう?と思い、薄目を開けて見てみると寝ているようだ。しかし、大人になってから「あの修羅場のとき兄貴は寝ていられたのか?」そう聞いたことがある。
「あの殴る音と、悲鳴を上げ逃げるお袋を追いかけまた殴る蹴る。あれが数時間続いていたんだ。寝てられるはずないだろう。寝てるふりをしてたんだ。」
そうだったか。あれは数時間続いていたんだ。いつも。俺はまだ小さかったから時間はわからなかった。恐ろしくて目を閉じているのに一生懸命だったから。兄貴は俺より6歳上だから時間まで把握していたんだな。
この話は、さっきうとうとしていたら急にフラッシュバックを起こし、情景が浮かんできてしまった話だ。
だからこの文を終わりにする締めの言葉がみつからない。
この歳になってもまだフラッシュバックを起こすんだな。時々。
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