
5年生が総合で取り組んでいる「跳び前転」を、見たいみたいと思っていたのですが、なかなか空き時間がなく、見に行けません。やっと時間を見つけて、授業の最後、まとめの時間から見ることができました。
平野先生と渡辺先生が、子どもたちを2グループに分けてお話をしています。平野先生は、まだ自信のない子どもたちを集めて基本について話していました。
「今日のまとめとして、何人かのお友達に跳んでもらうから、よく見てどこがいいか、どこが課題かを探してください。」
と話し、指名された子どもたちが演技します。
「どうだった?」
平野先生が見ていた子どもたちに聞きます。
「最後の子が、ふわっとしてた。」
「そうだよね。どの子も手が前に伸びるようになったから頑張ったね。その中でも、最後のA君の体はふわっとしたよね。」
「うん、ふわっとした。」
「その違いが分かるってことが大事なんだ。」
「先生が、ふわっとする見本と、ふわっとしない見本をやってみるね。」
「わ~すごい。おなじ『ふわっと』でも、やっぱり平野先生のふわっとはまた一段とふわっとだね。」
目を見張ります。
放課後、平野先生と渡辺先生が
「体育館へ、跳び前転の研究に行ってきま~す。」
今日の授業を受けて、明日からどのように指導するか、何を指導するか、どんなステップがあるのかを、実践しながら確かめるためです。
おもしろそうなので、ついて行ってみました。
二人で話し合いながら、
「踏切の場所は?」
「ゴムの位置は?」
「踏み切るときの手は、どういう手だろう。」
「手をつく位置は、どう支援したらわかるかなあ。」
とあれこれ試しています。
先ほど撮った写真をプリントしてきてお二人に見せると、具体的に指導する観点が見つかるかなと考え、床に並べてみました。
「このふわっとしている子は、やっぱり足がのびているよね。」
「足がのびているかどうかが、やっぱり大事なんだ。」
「どうしたら、足がのびるかやってみよう。」
「きちんと踏み切っていない子は、手が遠くへつけないし、足がまがってるよね。」
「腰も上がってないから、これじゃあ着地しても回転できないよね。」
「カエルの逆立ちみたいな体型から上へジャンプして、空中で足を打つ練習をしたらどうかなあ」
「ここでこうして足が伸びていると、手も遠くへつけるね。」
「腰も、自然と肩より上へ上がっていますよ。」
「視線をコントロールしたら、もっと足がきれいにのびるんじゃないのかなあ?」
「やってみようか?」
「視線をコントロールしたら、二人とも同じタイミングで、足をきれいに伸ばすことができたね。」
「やっぱり、視線を意識するのは大事なんだね。」
「ここまできたら、もっとぎりぎりまで足を伸ばせるようにした方がきれいだよね。」
「やっぱり視線を気にすると、回転するぎりぎりまでのばせるんじゃないかなあ?」
「やっぱり、こうして意識するとぜんぜんちがいますね。」
「これ以上我慢すると回転できなくなるよね。」
「そうそう、伸膝の飛び込み前転になっちゃう。」
「じゃあ、どのタイミングでまげたらいいの?」
「見ている人が、『はい』ってそのタイミングを言ってあげるのはどう??」
「やってみようか??」
「う~ん、むずかしいなあ?」
「言おうとすると、もうこっちまで行ってるよね。」
「そんなにしっかり聞く余裕もないしねえ、、」
「かけ声を掛け合うのは、ちょっと無理だね。」
「助走はどうするの?」
「最終的にはつけるよ。」
「ペンギンの手で助走を始めて、踏み切る瞬間の手は、こうかなあ?それともこうかなあ?」
「これも、両方で何回かやってみようか?」
「やっぱり、手はこうだよね。」
「けっこううまくいってるけど、まだ低いよね。」
「ふわっと言う感じが、まだ足りないよね。」
「あの、斎藤 喜博の写真集の、あのこういう角度に体が上がらないよね。」
「どうしたら、いいと思う?」
「やっぱり視線かなあ。視線をもっと遠くへ持って行ったらどうかなあ?」
「ここに視線を持って行って、とんでみようか?」
「ちょっと恐いですねえ。だって、着地地点から一度目を離すことになるでしょ?」
「でも、まずどんなもんかやってみようよ。」
「うぉ~。すごい。なんかいい角度であがったじゃん。」
「あの写真に近いね。」
「でもなあ、あの写真と体の角度は同じだけど、ここからさらに腕が上にこう上がってるんだよね。おれもやってみよう!」
「これは、いいね。でもさあ、やっぱり恐いわ。」
「怪我も気になるしなあ。」
「だって、遠くを見てから、着地を見るわけだから、間に合わないと首の骨を折るよね。」
「やっぱり、ここまでは今年はやめとこうよ。さっきの、着地点をみる飛び方でよしとしよう。」
「この子達が、さらにもっと上を目指したいと言ったら、6年生でそこは目指してもらおう。」
「今、やってみて、踏切の手ははっきししたね。」
「やっぱり、こうしないと、体は上へ上がらないね。」
「そうですね。この手ですね。」
「助走してきて、最後に手をここでペンギンの手に持っていく。」
「跳び箱とは、タイミングが違うね。」
「それで、踏切の時の足は、こう曲げるんだよね。」
「踏み切り板は使わないのですか?」
「使いたくないんだ。足の中に入っている本人の力で、上へ持ち上げたいんだ。」
「こうすると、曲げてのばすときに体を持ち上げられるでしょ。」
「それが、こうのびきって踏み切ると、それ以上ばねを使えないから、力がでないよね。」
「自分の体を、いかに考えて使うかという勉強をさせたいね。」
こうして、二人の時間が延々と続きます。
冷たく、寒い体育館が、そこだけ熱く熱く燃えています。
視線の位置で大きな技になるかどうかが決まりますね。しかし、ここにも書かれているように、視線が遠くになると、手で体を支える力や頭を曲げていくタイミング、背中を丸めて安全に回ることなど大変難しくなります。だから着手が遠くになればなるほど怖さが伴います。
この5年生の場合、低学年から、前回りで自分の体を支える体験、逆さ感覚、体を折りたたむタイミング、柔軟性が等が養われていれば、大きな跳び前転にしていくのには、あまり困難ではないでしょう。しかし、その経験が不足していますから、5年生でも一度基本に戻って一つ一つの技を丁寧に習得していくしかないように思います。
それにしても、このように放課後、寒い体育館で教材を研究する姿には感動します。やっぱり教師が子どもの先にいかなければ教えることはできませんね。凄い!よい「跳び前転」ができることを祈ります。