【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
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赤字のときの税金対策(消費税は増える場合も)

2021-09-23 18:01:00 | 起業(会社設立など)と経営
「赤字に転落すれば税金のことを考える必要がない」というのが長らく「経営の常識」とされてきました。しかし、消費税率が10%となり消費税が会社の納税する税金の大部分となった今、この常識は通用しなくなっています。また、2023年10月から実施される「インボイス制度」は赤字会社にも厳格な対応を迫っています。

◆赤字に転落した年度は消費税が減ることが多い

赤字に転落する理由のほとんどが売上(仕入のある業種の場合は粗利)の激減です。売上の減少にコスト構造の見直しが追いついていないから赤字に転落するのです。

会社が税務署に納税する消費税は、販売の際に受け取った消費税から仕入や諸経費の支払いの際に支払った消費税を差し引いた額です。赤字になった年度は前者の減少が後者の変動を上回ることが多いですので、納税する消費税が減ります。

しかし、赤字に転落した翌年以降は消費税が増えることがあります。

◆いわゆる内製化

赤字を放置しておくわけにはいきませんので、会社はあらゆる手段で黒字化を目指します。

「内製化」は黒字化(コスト削減)ための典型的な手法です。赤字になると余剰人員が生じることから、従来は外部に依頼していた作業を内部で消化するように方向転換します。このコスト構造の見直しが、会社が納税する消費税を増加させます。

外部に依頼するコスト(勘定科目は外注費)は消費税の対象で支払の際に消費税を上乗せします。一方、内製化した場合のコスト(勘定科目は給料手当)は消費税の対象ではありません。内製化は支払った消費税を減少させるのです。

◆設備投資の凍結

設備投資は会社が納税する消費税を大きく減少させます。場合によっては、黒字であっても消費税が還付されることもあります。設備投資に際しては設備代金についての多額の消費税を支払うことから、支払った消費税を大幅に増加させます。

赤字に転落をすれば設備投資を抑えることが常です。そこで、受け取った消費税の減少よりも、支払った消費税の減少のほうが多くなるという現象も起こるのです。

◆在庫処分(圧縮)

在庫処分(圧縮)も赤字に転落した会社がよく行うことです。とにかく在庫を現金化しなければならないからです。また、在庫の置場所や店舗の縮小にもつながります。

在庫を販売する際には消費税を受け取ります。一方、その在庫に関する消費税はすでに支払っていますので(仕入を処分年度より前の年度にしているとして)、支払った消費税はゼロになります。それで、「あんなに安売りをしているのに消費税は・・・」ということになるのです。

◆遊休設備の売却

遊休設備の売却も黒字化のための手段です。受け取った消費税といえば売上だけからと思いがちですが、設備を売却した際にも消費税を受け取ります。これが思いのほか多額になることもあるのです。

◆原則課税と簡易課税の選択

基準期間における課税売上高が5000万円未満の場合には簡易課税を選択することができますが、赤字転落によって支払った消費税のみなし計算である簡易課税が不利になることもあります。もちろん、その逆もあります。

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★インボイス制度(2023年10月から実施)

インボイス制度とは、従来は取引の性質のみで課税の可否と取引ごとの消費税額を決定していたのを、法定のインボイス(適格請求書)で決定するというものです。インボイスを発行しなければ消費税は受け取れません、インボイスの発行を受けてそれを保存しておかなければ、消費税を支払ったとは認められません。

赤字に転落し黒字化を目指す途上の会社にとって、この大改正は大変過酷なものです。

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