頭はどこまでも迷走しそうになる時、雄吉は白髪に険しく波をつくっている。後頭部を、音のせぬように叩いた。叱咤したかった。廊下、胸中五メートルの感傷をやっと踏み越える。軒端に戻った雀に送られる。ダイニングキッチンへと何かふわりとドアに導かれながら入れば、雄吉をまず迎えるのは英次だ。
「ああ、パパ、おはようございます」
後のない英次の声はお椀から飛んだ。そうして今朝もそれは三十五の子供のものだった。決して雄吉は逃避するつもりではなく、視線が明彩色のダイニング・キッチンに彷徨。一見煩わしげにした表情の癖を、妙子は見て取るのに決まっているのだ。
(つづく)
「ああ、パパ、おはようございます」
後のない英次の声はお椀から飛んだ。そうして今朝もそれは三十五の子供のものだった。決して雄吉は逃避するつもりではなく、視線が明彩色のダイニング・キッチンに彷徨。一見煩わしげにした表情の癖を、妙子は見て取るのに決まっているのだ。
(つづく)
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