ある牧師から

ハンドルネームは「司祭」です。

令和6年(ネ) 第2683号 損害賠償請求控訴事件、同第38号 同附帯控訴事件 (原審・東京地方裁判所和3年(ワ)第33995号) 1

2024年12月03日 | 法律

令和6年11月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和6年(ネ) 第2683号 損害賠償請求控訴事件、同第38号 同附帯控訴事件

(原審・東京地方裁判所和3年(ワ)第33995号)

口頭弁論終結の日 令和6年9月4日

判 決

東京都
控訴人兼附帯被控訴人 株式会社
          (以下「控訴人」という。)
同代表者代表取締役 
同訴訟代理人弁護士 
同 
同 
同 

 

東京都
被控訴人兼附帶控訴人 
           (以下「被控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 
同 

主 文

1 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

(1)被控訴人は、 控訴人に対し、 66万円及びこれに対する令和元年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。

2 本件附帯控訴を棄却する。 

3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを3分し、その2を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

4 この判決は、第1項(1) に限り、 仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 申立て

1 控訴の趣旨

(1)原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)被控訴人は、 控訴人に対し、更に60万円及びこれに対する令和元年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2附帯控訴の趣旨

(1)原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)上記敗訴部分に係る控訴人の請求を棄却する。

第2 事案の概要(以下、略語は、特に定めない限り、原判決の表記に従う。)

1 本件は、キリスト教関連の情報発信等の事業を営む控訴人が、被控訴人がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で行った投稿(本件各投稿)によって名誉等を損なわれたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、110万円及びこれに対する令和元年8月7日 (最後の不法行為が行われた日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 原審は、1投稿2 原審は、 1 投稿2 (侵害部分2) 2投稿3の一部(侵害部分3 (1)及び(2)の各一部並びに (4)) 3 投稿5の一部(侵害部分5 (1) (2) 及び (3))については、控訴人の社会的評価の低下を肯定し、真実性の証明及び相当性も認められないとして、それぞれ不法行為の成立を肯定し、被控訴人に対して、 50万円 ((a)投稿 2、投稿3及び投稿5の各不法行為に係る損害として各15万円、

(b) 弁護士費用5万円の合計額) 及びこれに対する上記同日から支払済みまで

上記同割合の遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

 他方、原審は、 (a) 投稿1 (侵害部分1) 投稿3の一部(侵害部分3 (1) 及び (2) の各一部)、投稿4(侵害部分4 (1) 及び (2)) 及び投稿5の一部(侵害部分5 (4))については、控訴人の社会的評価の低下を肯定しつつ、真実性の証明があったとし、 また、 (b) 投稿3の一部(侵害部分3 (3))については、控訴人の社会的評価の低下を否定し、それぞれ不法行為の成立を否定した。

 これに対し、控訴人・被控訴人の双方が、 それぞれの敗訴部分を不服として控訴・附帯控訴した。

2 前提事実

 原判決の 「第2事案の概要」 の1記載のとおりであるから、これを引用する。

3 争点及び争点に関する当事者双方の主張

 原判決の「第2事案の概要」の2及び3記載のとおりであるから、これを引用する。

4 当審における当事者双方の補充主張の要旨

(1)控訴人の補充主張

ア 投稿1について

 侵害部分1については、真実性が認められず、被控訴人が侵害部分1の摘示事実を真実と信じたことにつき相当な理由もない。

イ 投稿3について

 侵害部分3 (1) のうち 「法的なことはどうでもよい」との表現、侵害部分3(2)のうち「困れば借金をすればよい」との感覚であったとの表現については、いずれも真実性が認められず、被控訴人がこれらを真実と信じたことにつき相当な理由もない。

侵害部分3 (3) は、宣教師個人に関する事実の摘示ではなく、その所属する組織である「共同体」 ないしその一つに属するとされた控訴人に関する事実の摘示であるから、控訴人の社会的評価を低下させる。

ウ 投稿について

 侵害部分4については、真実性が認められず、被控訴人が侵害部分4の摘示事実を真実と信じたことにつき相当な理由もない。

エ 投稿5について

 侵害部分5 (4) については、真実性が認められず、 被控訴人が侵害部分5(4)の摘示事実を真実と信じたことにつき相当な理由もない。

(2) 被控訴人の補充主張

ア 投稿2について

 侵害部分2は、侵害部分2の前の記述で摘示された体験に基づく事実を前提とした上で、控訴人が無軌道な思考の持ち主によって運営され、まともな事業を営めないこと、社会性を逸脱する傾向を有するとの意見、論評を述べたものである。このことを前提とすれば、 侵害部分2は控訴人の社会的評価を低下させない。

 また、原記事2の一般読者は、 クリスチャンであり、当該読者は日本基督教団が出した議長声明等の内容を把握した上で原記事2を読むから、侵害部分2は控訴人の社会的評価を低下させない(なお、本件各投稿の一般読者を上記のように限定すべきことは、いずれの記事においても同様である。)。

 侵害部分2については真実性が認められ、かつ、被控訴人が侵害部分2の摘示事実を真実と信じたことにつき相当な理由もあるというべきである。

イ 投稿3について

 侵害部分3 (1) のうち「詐欺師顔負けの劇場型詐欺」、「法を犯して警察が介入」との表現、侵害部分3 (2)のうち 「詐欺的方法」 との表現は、いずれも意見、論評であり、このことを前提とすれば、上記各部分は、控訴人に対する社会的評価を低下させない

 侵害部分3 (1) のうち 「詐欺師顔負けの劇場型詐欺がスタートしていきました」、「法を犯して警察が介入したとしても (中略) 信者個人がやったことにすれば逃げきれます」 との表現、 侵害部分3 (2) のうち「詐欺的な方法で1円でも多く金を得ればよい」との表現についての真実性の立証対象は、いずれも、「法を軽視し、 違法行為の責任を関係者たる個人に転嫁し、借金や詐欺的な手法等での金銭獲得を容認する組織感覚を有していた」かどうかであり、このことを前提とすれば、真実性は認められるというべきである。

 侵害部分3 (1)、(2)(4) 真実性が認められなかったとしても、被控訴人がこれらを真実と信じたことについては相当な理由があるというべきである。

ウ 投稿5について

 侵害部分 5. (1) は、 控訴人がビジネスとして成り立っておらず、法令遵守もされていない会社であるという意見、論評をしたものであり、このことを前提とすると、 当該部分は控訴人の社会的評価を低下させない。

 侵害部分5 (2) 及び (3) については、日本基督教団が出した議長声明等により、控訴人を含む共同体において、 異端とされる教義が教えられていることや、その構成員が虚偽の説明をするためにほかの教会に所属していたことなどは既に明らかになっているから、 控訴人の社会的評価を低下させない。

 侵害部分5 (1) ないし (3)については真実性が認められ、かつ、被控訴人がこれらを真実と信じたことにつき相当な理由もあるというべきである。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は、原審と異なり、控訴人の請求のうち、投稿1 投稿3の一部(侵害部分3 (1) 及び3 (2) の各一部並びに3(3)) 及び投稿5の一部 (侵害部分5 (4) の一部)を除き、本件各投稿については不法行為が成立し、被控訴人に対しては、損害賠償金66万円及びこれに対する令和元年8月7日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。 その理由は、次のとおりである。

2 判断枠組み

 原判決の 「第3 当裁判所の判断」 の1記載のとおりであるから、これを引用する。

3 認定事実

 次のとおり補正するほか、原判決の 「第3 当裁判所の判断」の2(ただし、令和6年5月7日付け更正決定後のもの) 記載のとおりであるから、これを引用する(以下、補正後の原判決 「第3.当裁判所の判断」の2の記載を「認定事実」という。)。

(1)7頁11行目の「原告が設立された当時の従業員には」 を 「高柳のほか、原告が設立した当時の従業員には」に改める。

(2)8頁1、2行目の「罰金刑を受け、その後、 設置州の当局から閉鎖を命じられた」を「罰金刑を受けた」に改める。

(3)8頁6行目冒頭から15行目末尾までを次のように改める。

「 (3) ア 〇〇は、平成14年頃から東京ソフィア教会に通うようになり、平成16年春頃から数か月間と平成17年8月頃、控訴人の活動に無償で従事したことがあったが、平成21年頃、張牧師の関連組織での活動をやめた(以下「脱会」という。)。 なお、〇〇は、この間、北村宗範(以下「北村」という。)と婚姻した。

 ○○は、平成14年9月頃、 北村と共に、 同教会の宣教師から聖書講義を受けたところ、その講義においては、 清められた者、従順な者が共同体(第3のイスラエル、 新しいイスラエル) を作り、キリストの体となること、その共同体の完成はキリストの再臨であることが説かれ、その共同体の創始者がダビデ牧師と呼ばれていた張牧師であることが暗に示唆されていた。 なお、 北村は、上記の聖書講義等に関して、2002 年9月付けノート (乙40) 及び 2004年8月付けノート (乙41) を作成していた。これらのノートには、「イスラエルの国=神の国」「新しいキリストの来臨」「神の国の再興」「新しいイスラエル」「第3のイスラエル」などの記載(乙4.0の2、乙40の3)のほか、張牧師の誕生日に言及する部分(乙41の25頁)がある (乙163)。

 他方、□□は、平成15年頃、張牧師の関連組織である大阪府所在の教会を訪ね、伝道師等から、張牧師が再臨のキリストであることを示唆する講義を受けた。 □□は、 その後、 東京に転居し、平成17年3月頃から平成18年8月頃までの間、控訴人の活動に無償で従事したが、同月頃、脱会した。なお、□□は、この間、張牧師を信奉する男性と婚姻したが、同人は、張牧師は特別の存在であるものの再臨のキリストであるとは認識していなかった。

 〇〇や□□は、張牧師本人又は宣教師から、旧約聖書のエピソードを基にするなどして、うそも 「知恵」 である旨を説かれたことがあった。(以上につき36 40~42, 98、 105、 131~133、139、 証人〇〇15~9、 10頁、 証人□□1~2、 5、 10頁)

(事実認定に関する補足説明)

 控訴人は、上記のノート(乙4041)には、張牧師が再臨のキリストであることを示唆するような記載がなく、これらの点に関する□□証言や〇〇証言は、約20年前の出来事についてのもので信用できないことを指摘して、 東京ソフィア教会等において、 異端的な教義が教え込まれていたことはない旨主張する。

 しかしながら、 上記で認定したノートの記載からうかがわれるとおり、東京ソフィア教会等の宣教師等は、正統派のキリスト教の教義から外れる内容を講義し、張牧師に関する言及もあったことを勘案すると、平成14年頃から平成15年頃にかけて、東京ソフィア教会等において宣教師等から講義を聞いた証人〇〇や証人□□が、 張牧師が再臨のキリストであることが示唆されたとする供述は、信用できるというべきである。この点に関する控訴人の主張は採用することができない。」

(4) 8頁21行目の「信奉者が」の次に「前述した〇〇や□□以外にも」を加える。

(5) 9頁7行目冒頭から16行目末尾までを次のように改める。

 「 エ 控訴人の代表取締役であった高柳は、東京ソフィア教会において伝道師等を務めていたが、控訴人の設立後、峯野龍弘牧師(以下「峯野牧師」という。)が主管牧師を務めるウェスレアンホーリネス教団淀橋教会(以下「淀橋教会」という。)に通うことがあった (甲27、4、9、50 乙14、15)。もっとも、 高柳は、平成16年2月頃に被控訴人と面談した際、日本には所属教会はない旨を述べた (乙23.4~5頁、被控訴人本人3~4頁)。

 また、〇〇、□□及び北村は、平成16年ないし17年頃、東京ソフィア教会に通いつつ、 淀橋教会の礼拝に通うことがあったところ、□□は、当時、クリスチャントゥデイが異端だと疑われていたために大きな教会の信者となる必要があると認識しており、また、〇〇は、控訴人の記者が取材を行う際に取材先から所属教会を聞かれた場合にはどのように答えればよいかが話題になった際、 張牧師が「どうして大きな教会に行かないのか」 と発言したことを聞いたことがあった。 □□らは、 淀橋教会の礼拝に通った折に、自身が東京ソフィア教会に所属することを淀橋教会関係者等に明かすことはなかった。 (証人〇〇 14~15頁、証人□□16、17、 24~25頁)

 他方、矢田は、平成15年頃から東京ソフィア教会に通い始め、 同教会に籍を置いていたが、平成17年に淀橋教会に転籍し、同教会に通うようになった。 また、 矢田は、同年、控訴人に入社し、 平成23年に控訴人の代表取締役となった。 なお、峯野牧師は、矢田の依頼を受けて、平成23年から令和元年までの間、控訴人の取締役会長を務めていたが、事業の細部には関与はしていなかった。(甲48、 50 乙150、証人□□ 17、24~25頁、 弁論の全趣旨)」

(6) 10頁3行目の「18」 を削り、 9行目冒頭から21行目末尾までを次のように改める。

「ウ控訴人は、平成19年5月、 控訴人ウェブサイトにおいて、 「張在亨は再臨のキリストではない」 旨、控訴人としての見解を表明した。 (甲48, 乙150) 」

(7)14頁19行目末尾に改行の上、次を加える。

「(10) 日本基督教団、 日本福音同盟及びウェスレアン・ホーリネス教団の声明等(以下「本件声明等」という。)

ア 日本基督教団は、平成20年7月12日、 「クリスチャントゥデイ」の発行団体には当初から疑念があり、 張牧師の前歴問題や異端問題が提起されているところ、これらの疑惑が解決されない限り、 キリスト教として同一の線に立つことはできない旨の議長声明(乙2)を発出した。

 また、同教団は、平成29年10月に 「統一原理問題全国連絡会」を開催した上、 平成30年1月27日、別件山谷訴訟の平成25年11

月の判決において、 控訴人を含む多数の関連団体・教会が張牧師の影響下にある一体的なものであることが明らかにされたこと、2その後、同グループの脱会者から、張牧師が来臨のキリストであるとの信仰に誘導する聖書講義が行われていた事実や、団体・教会の活動を維持するため、メンバーが消費者金融から借入れをするよう仕向けられたり人事指示を受けて過酷な集団生活や無償労働をさせられたりしていた事実などについて、複数の証言を得たことを挙げ、控訴人など張牧師関係グループに対してキリスト教として同一の線に立つことはできないとの判断を再確認する旨の議長声明 (乙3)を発出した。(乙130の2).

 他方、上記の議長声明に対しては、同教団に所属する教職の中には、上記議長声明につき、公平を期した声明ではない旨の抗議などをした者がいた。(甲29,30)

イ 日本福音同盟は、 加盟団体等に対し、 平成16年6月17日付けで、韓国クリスチャントゥデイ新聞の常任理事である張牧師が統一教会のメンバーであるとの報道がされたことを受け、控訴人からの取材を一切受けないこととした旨を報告した (乙19 前記(8) ウ)。また、同同盟は、平成30年12月に開催した理事会において、上記対応を変更しないことを決定した(乙11)。 (乙129の2)

ウ ウェスレアン・ホーリネス教団は、 控訴人に係る特別調査委員会を設け、「張関連団体」と関係のあった複数の者への事情聴取等を行い、 令和2年3月に最終報告 (乙18) を取りまとめた。その内容は、 ①関連団体においては、張牧師を再臨主とする教義が組織的に教えられていたという疑念を払しょくできないこと、②控訴人ほか事業体においては、張関連団体の信者に労務を提供させるほか、 経費を負担させる実態がうかがわれること、③控訴人の財務状況は違法ではないものの健全とはいえない実態がうかがわれることなどを指摘し、控訴人とは一定の距離を置きつつ、その言動を注意深く見守る必要がある旨のものであった。

 他方、峯野牧師は、矢田について、 平成17年から現在までの間、異端的な言動や行動が見られたことはなく、 淀橋教会の他の教徒・信徒との交流を積み重ねている旨を陳述している。(甲50)」

4 投稿1について

(1) 原判決の「第3 当裁判所の判断」 の3(1)(2)(ただしイ (イ) を除く。)及び(3) のとおりであるから、これを引用する。

(2) 当審における控訴人の補充主張 (真実性がないこと)について

ア 控訴人は、 1リ・ジョンが宣教師として記載されているメール(乙99)は、出所や趣旨が不明であり、これを根拠としてリ・ジョンが張牧師の宣教活動を行っていたことを認定することはできず、仮にリ・ジョンが宣教活動を行う立場にある者であったとしても、同人の入国が宣教目的の入国であったとは限らないこと、2リジョンは平成15年から平成16年初頭にかけて留学ビザを取得し日本に滞在した後、 平成19年6月から8月までの間は韓国クリスチャントゥデイの記者として報道活動に携わっており、平成19年8月には報道ビザ (在留期間1年) を利用して日本に入国していたことを指摘して、控訴人が宣教師であるリ・ジョンが宣教活動を行う目的で入国する便宜を図るために同人に対して 「入国許可願い及び身元保証確認書」(乙103。以下「本件確認書」という。)を交付した事実は認定できない旨主張する。

 また、控訴人は、 3〇〇は平成19年6月当時の控訴人における出来事を直接に知る立場になく、「日韓報道企画会議」 は開催されていない旨の〇〇の証言は信用できないこと、4本件確認書に記載されている「福岡支局」は、控訴人が当時福岡における拠点として日本キリスト教長老教会福岡第一教会の一区画を間借りしていた場所(甲47)を指すものであることを指摘して、控訴人が開催場所を偽った会議の開催等を示す文書を交付した事実は認定できない旨主張する。

イ しかしながら、 上記1のメール (乙99) は、 〇〇が作成したものと認められ(乙98)、「ベレネット記事」とのタイトルの下、「ダビデ先生主催の世界韓国人宣教師チャットにおいて各県の開拓者が決定した」として46の都道府県をそれぞれ担当する宣教師が一覧化されたものであるところ、その内容は具体性に富むものとして信用性を肯定できる。 さらに、控訴人の関係者の間では 「李ジョン宣教師」 のメールアドレスが共有されていたこと(乙101) にも照らすと、リ・ジョンは張牧師の配下の宣教師であったことが認められる。

 また、控訴人は、原ブログについて発信者情報開示を求める請求に係る令和2年1月付けの訴状 (乙104) において、 侵害部分1に関し、出入国管理法上、 韓国人が会合を目的として入国する場合に控訴人が 「嘘の保証書」を作る必要はなく、 また、 控訴人には国内外を含め支店や支社は存在していないと主張しており、本件確認書の作成自体を否定する趣旨の主張を行い、かつ、支店や支社の存在を否定していたところ、 本件訴訟において提出された本件確認書について、それが控訴人において作成されたものであることを争わず、教会の一区画を「福岡支局」と称していたと主張するに至った。このことに、本件確認書上、 「福岡支局」の連絡先が高柳とされていることをも勘案すると、 平成19年6月当時、控訴人には福岡において事務所としての機能を有する場所はなく、「教会を即席のクリスチャントゥデイ支部に仕立て」 たことが認められる。そして、本件確認書が会合の開催場所に関する偽りを記載する

ものである以上、仮にリ・ジョンの入国が宣教活動を目的とするものではなかったとしても、出入国管理上、問題視され得るものといえる。

 以上によれば、 控訴人が上記で指摘する各点は、侵害部分1の真実性に関する判断を左右するものとはいえず、控訴人の上記アの主張は採用することができない。

  

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令和6年(ネ) 第2683号 損害賠償請求控訴事件、同第38号 同附帯控訴事件 (原審・東京地方裁判所和3年(ワ)第33995号) 2

2024年12月03日 | 法律

5 投稿2について

(1) 社会的評価を低下させるか否かについて

ア 原判決の「第3当裁判所の判断」の4 (1) 記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、侵害部分2は、侵害部分2の前で摘示された体験に基づく事実を前提とした上での意見、 論評を述べたものである旨主張する。

 しかし、侵害部分2は、 控訴人が無軌道な思考の持ち主によって運営され、まともな事業を営めない旨、 社会性を逸脱する傾向を有する旨が記載されているところ、これらの事項は、いずれも証拠により立証可能な事項というべきであるから、事実を摘示したものというべきである。

 また、被控訴人は、侵害部分2を含む原ブログの一般読者はクリスチャンであり、張牧師や同人が立ち上げた控訴人を含むメディア関連企業等の共同体について関心を有する者であって、本件声明等の内容を把握していることからすれば、控訴人の社会的評価は低下しない旨主張する。

 しかし、本件各投稿は、一般ユーザーを対象とするSNSサービスにより広く公開されている上、本件各投稿が引用した原ブログも、大手プロバイダーが運営するブログサービスが利用され、その情報は広く一般に公開されているから、原ブログの一般読者を上記のようなクリスチャンに限定するのは相当とはいえない。

 さらに、被控訴人は、侵害部分2は記事作成時の現状ではなく平成17年頃の状況を踏まえた表現である旨主張する。

 しかしながら、 原記事2には、 過去の出来事に関する記載もあるが、侵害部分2は「今、色々なところでクリスチャントゥデイの主張を目にすることができます。ここまで問題になるとは驚きましたがその時が来たようです。」との表現から始まっており、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、投稿2が行われた当時の事実を記載しているものと解するのが自然である。

 したがって、被控訴人の上記の各主張は、いずれも採用することができない。

(2) 違法性の有無について

ア 次のとおり補正するほか、原判決の 「第3 当裁判所の判断」の4 (2) 記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 原判決の補正

 19頁8行目冒頭から20頁3行目末尾までを次のように改める。

「イ 真実性

(ア)前記認定のとおり、 ①控訴人は、平成15年の設立当時、 張牧師が設立した韓国クリスチャントゥデイ等からの資金援助を受け、張牧師の信仰に関わりのある高柳が代表取締役となったこと(認定事実 (1))、②控訴人や張牧師の関連組織の活動には、張牧師の信奉者が「使役」として無償で従事し、 寄付や借財を求められることがあったこと (認定事実 (3) ウ) ③控訴人の従業員の中には、張牧師の示唆により、 東京ソフィア教会に所属することを明らかにしないで淀橋教会に通った者がいたこと (認定事実 (3) エ) ④張牧師が、平成16年から平成18年までの間頃、 控訴人が発信する記事の内容等について指示をすることがあったこと (認定事実 (5) ア) が認められ、また、証拠(乙47・13~15枚目) によれば、 ⑤張牧師の信奉者と思われる者が、平成20年10月に、チャットを通じて、 高柳及び矢田を含む当時の控訴人の関係者に対し、張牧師の発言であるとして、被控訴人が執筆した控訴人に関する記事に対する対抗手段として、控訴人も反論の記事を書くよう求めたことがあったことが認められる。

 また、証拠(甲27、乙150) によれば、控訴人は、設立された当初から、資金繰りに困難を来し、正社員といえる従業員はおらず、 高柳は役員報酬を得ておらず、 張牧師の信奉者の無償の労働提供を得て活動する状況にあり、 平成18年ないし平成19年の頃になっ

ても、売上げは年間200~300万円程度であったことが認められる。

(イ)上記(ア)の事実によれば、控訴人は、その設立当初から数年の間において、張牧師の宗教組織と人的・物的なつながりがあり、張牧師の信奉者の無償活動に依拠していて事業活動が低調な時期があったことは否定し難い。 しかしながら、 投稿2が行われた平成31年当時における状況は必ずしも明らかではなく、むしろ、 控訴人は、 平成23年7月、代表取締役が高柳から矢田に変更され、峯野牧師が控訴人の取締役会長に就任するなどの変化があり(75)、その事業活動についても、平成30年頃には、 従業員として複数の記者が存在し、必ずしも張牧師やその関係者の宗教的影響を受けることなく報道に従事していて(認定事実 (7) ア)、インターネット上の情報媒体として相当数の読者を確保するまでになっていたこと(認定事実 (9)) が認められる。

 以上の諸点を考慮すると、投稿2が行われた平成31年当時においては、侵害部分2が摘示する事実の重要な部分、すなわち、 控訴人 が無軌道な思考の持ち主によって運営され、まともな事業を営めず、社会性を逸脱する傾向を有するとの点は、いずれも真実であるとの証明がされたとはいえない。

(ウ)以上によれば、被控訴人が侵害部分2を引用、摘示したことについては、 違法性は阻却されない。」

ウ 当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、真実性の根拠として、 ①ウェスレアン・ホーリネス教団が令和2年に作成した最終報告 (認定事実 (10) ウ)、②日本福音同盟の総主事が作成した陳述書(乙155。 総主事が令和6年8月に峯野牧師と面談した際、峯野牧師は、かつて張牧師から控訴人のスタッフである高柳をよろしくと言われたことがあると述べ、 また、 張牧師との連絡窓口は矢田であると述べた旨のもの)、③◇◇らによる従業員声明(認定事実 (7) ア)を挙げる。

 しかしながら、①の最終報告は、 張牧師を再臨主とする教義が組織的に教えられていたという疑念を払しょくできないことや、 財務状況が健全でないことをいうにとどまり、③の従業員声明も、同様の疑惑等を指摘するにとどまる。 また、②の陳述書は、張牧師が日本で控訴人の設立に関与し、 高柳や矢田と連絡をとっていることを示すにとどまる。そうすると、これらの証拠により、控訴人が、 平成31年当時、無軌道な思考の持ち主によって運営され、まともな事業を営めない状態にあったことを推認することはできない。

 したがって、被控訴人の上記の指摘は、上記の判断を左右するものとはいえない。

(3) 故意又は過失の有無について

ア 原判決の 「第3 当裁判所の判断」 の4(3) 記載のとおりであるから、これを引用する。 ただし、原判決 20頁 8行目冒頭から24行目末尾までを次のように改める。

「前記(2) イ (イ)のとおり、控訴人は、その設立当初から数年の間において、張牧師の宗教組織と人的・物的なつながりがあり、張牧師の信奉者の無償活動に依拠していて事業活動が低調な時期があったことは否定し難く、被控訴人が脱会者の証言記録等に基づいてこれらの事実を真実と信じたことには相応の理由がある。

 しかしながら、これらは、原記事2の作成時から約10年ないし15年前の事実であり、同様の状況が継続しているかどうかについては、別途調査を要する事柄であると言わざるを得ない。 そして、被控訴人が、平成31年当時における控訴人の経営状況や組織体制につき、調査を尽くしたことを認めるに足りる証拠はない。」

イ 当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、平成30年、 ◇◇から、控訴人は取締役会を開いたことがなかったこと、 控訴人の収支決算書の数字に矛盾があり多額の負債を抱え破綻状況であったことなどの情報を得ていたと主張し、それに沿う陳述書(乙156)を提出する。

 しかしながら、被控訴人が得ていた上記の情報は、 そのことから直ちに、 控訴人がまともな事業を営めないことを裏付けるのに十分なものとまではいえず、他に侵害部分2に関する事実に関して調査を尽くしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

 したがって、被控訴人の上記主張は、上記アの判断を左右するものとはいえない。

(4) まとめ

 以上により、 投稿2については、控訴人の主張する不法行為が成立する。

6 投稿3 (侵害部分3) について

(1) 控訴人の社会的評価を低下させるか否かについて

ア 原判決の「第3 当裁判所の判断」の5(1) 記載のとおりであるからこれを引用する。 ただし、 21頁13行目の「侵害部分3 (2) は」の次に「韓国クリスチャントゥデイ日本支局設立の頃である控訴人の草創期における関係者の体験談として」を加える。

イ 当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、侵害部分3 (1)及び(2)に関し、 「詐欺師顔負けの劇場型詐欺」、「法を犯して警察が介入」、「詐欺的な方法」 という表現は、いずれも、意見、 論評である旨主張する。 しかし、これらは、いずれも、「詐欺」 や 「法を犯す行為」 をしたという証拠により立証可能な事柄に言及するものであり、事実を摘示するものというべきである。

 したがって、被控訴人の上記主張は採用できない。

ウ 当審における控訴人の補充主張について

 控訴人は、侵害部分3 (3) に関し、 宣教師個人に関する事実の摘示ではなく、その所属する組織である 「共同体」ないしそれに属するとされた控訴人に関する事実の摘示である旨主張する。しかし、侵害部分3 (3) の文言に照らすと、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、「共同体」の宣教師が信者に対して行っている統制行為に関する事実を摘示していると解するのが自然であり、 控訴人に関する摘示事実とみることは困難である。

 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。

(2)違法性の有無について

ア 次のとおり補正するほか、原判決の 「第3 当裁判所の判断」の5 (2) 記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 原判決の補正

 23頁4行目冒頭から10行目末尾までを次のように改める。

「(ウ)他方で、控訴人が設立された平成15年から平成19年頃までの間、当時学生であった者を含む張牧師の信奉者が、宣教師らの要請に応じて「使役」の名目の下に控訴人を含む関連組織の活動に無償で従事し、活動の維持のため、 寄付や借財を求められることがあり (認定事実 (1) (3) ウ)、控訴人を含む関連組織は、その資金調達を信奉者の寄付や借財に頼り、その事業活動に対して労働の対価を正当に支払わなかったものと認められる。 そうすると、 上記期間における控訴人を含む張牧師の 「共同体」 について、侵害部分3 (1) が 「法的なことはどうでもよい」 とする点、侵害部分3 (2) が 「困れば借金をすればよい」との感覚であったとする点は、いずれも、その重要な部分において真実に合致するものというべきである。」

ウ 当審における控訴人の補充主張について

 控訴人は、侵害部分3 (1) のうち「法的なことはどうでもよい」 とする表現、侵害部分3 (2) のうち 「困れば借金をすればよい」 との感覚であったとする表現については、真実性が認められない旨主張する。

 しかし、侵害部分3 (1)及び(2)については、その直前の見出しである「韓国クリスチャントゥデイ日本支局設立時の記憶」 との記載からして、控訴人草創期の運営状況について記載したものとみるべきであり、そのような前提の下では、上記各点については、真実性が認められることは、前記引用に係る原判決の 「第3 当裁判所の判断」 の5 (2) イ (ウ) 当裁判所の判断」の5(2)イ(ウ) (前記イの補正後のもの)で説示したとおりである。

 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

エ 当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、侵害部分3 (1) のうち 「詐欺師顔負けの劇場型詐欺がスタートしていきました」、 「法を犯して警察が介入したとしても (中略)信者個人がやったことにすれば逃げきれます」 とする表現、侵害部分3 (2) のうち 「詐欺的な方法で1円でも多く金を得ればよい」とする表現について、これらの真実性の立証対象は、「法を軽視し、違法行為の責任を関係者たる個人に転嫁し、 借金や詐欺的な手法等での金銭獲得を容認する組織感覚を有していた」 かどうかであり、このことを前提とすれば、真実性の立証はなされているとみるべきである旨主張する。

 しかし、当該事実の立証対象については、摘示事実の字義に照らせば、「詐欺行為」、「犯罪行為」に及んでいたか否かをも含むものとみることが相当であるから、被控訴人の上記主張は採用することはできない。

(3)故意又は過失の有無について

ア 原判決の「第3 当裁判所の判断」の5 (3) 記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、投稿3の掲載に際して、 〇〇、 □□らの証言記録を入手していたこと(乙157) や、 控訴人の上部機関や関連組織であると主張するところの別法人が詐欺及びマネーロンダリング等の容疑で起訴されるなどの報道記事(乙91、92)に接していたことを挙げて、侵害部分を真実であると信じたことについて故意又は過失はない旨主張する。

 しかし、被控訴人指摘の上記証拠は、控訴人が組織として 「詐欺行為」や「犯罪行為」を行っていたとの事実に関して言及するものではなく、これらの証拠は、侵害部分3のうち、 控訴人が組織的な詐欺行為に及び、詐欺的な手法での金銭獲得を容認し、違法行為の責任を関係者たる個人に転嫁していた事実を根拠づけるものとはいえない。

 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

(4) まとめ

 原判決の 「第3 当裁判所の判断」の5 (4) 記載のとおりであるから、これを引用する。

7 投稿4について

(1) 控訴人の社会的評価を低下させるか否かについて

 原判決の 「第3 当裁判所の判断」 の6 (1) 記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)違法性の有無について

ア 公共目的及び公益性について

 原判決の「第3 当裁判所の判断」の6(2) ア記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 真実性について

(ア) 侵害部分4 (2) について

a 前記認定によれば、 ①平成14年頃から平成15年頃にかけて、東京ソフィア教会等の宣教師等の中には、 〇〇や□□など、 後に控訴人の活動に従事することになる者に対し、 張牧師が再臨のキリストであると示唆する講義を行う者がいたこと (認定事実 (3) ア)、②〇〇及び□□は、平成16年ないし平成17年頃に東京ソフィア教会に通いつつ、異端信仰であることを疑われないように、 淀橋教会の礼拝に通っていたこと、東京ソフィア教会の伝道師等であり、控訴人の代表者であった高柳は、控訴人の設立後、淀橋教会に通ったことがあること、控訴人の現在の代表者である矢田は、かつて東京ソフィア教会に属していたが、平成17年から淀橋教会に転籍し、 同教会に通うようになったこと(認定事実 (3) エ) が認められる。

b もっとも、 原記事4の「体験談」において、侵害部分4 (2) の投稿内容(「淀橋教会に (中略) 信者たちが計画的に送り込まれていた、その実態」)に対応するのは、侵害部分4 (1) の上の段落であるところ、当該段落には、 「2010年だったか11年の初頭に共同体の宣教師が宣言した」 との記載があることからすると、侵害部分4 (2) の指摘する事実は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、平成22年から平成23年頃に「派遣」された人物をいうものと解される。

 しかるに、上記a②の事実は、これと時点を異にするものである上、上記時点において〇〇や□□は脱会していたから (認定事実 (3)ア)、これらの者の証言をもって、上記平成22年ないし平成23年の事実を直ちに推認することはできない。 そして、他に、この頃において張牧師の信奉者が淀橋教会に計画的に送り込まれていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

c 以上によれば、侵害部分4 (2) については、重要な部分につき真実であるとの証明がされたとはいえない。

(イ)侵害部分4 (1) について

 控訴人は、平成19年5月、 控訴人ウェブサイトにおいて、張牧師は再臨のキリストではない旨、 控訴人としての見解を表明しており (認定事実 (5) ウ)、また、高柳と矢田は、本件訴訟において、張牧師が再臨のキリストである旨の信仰を有しておらず、 模範的なキリスト教徒を装って淀橋教会の峯野牧師を騙したことはない旨を陳述している(甲48、49)。 さらに、峯野牧師は、矢田には異端的な言動や行動が見られたことはない旨を陳述している (甲50、 認定事実 (10) )。

 以上のとおり、控訴人の新旧の代表者が、 異端信仰を有していないことを公にしており、峯野牧師においてもそのことを偽りのないものと判断して尊重していることに加え、ここで争点とされている事項が個人の信仰の自由又は宗教的行為の自由に関わる事柄であり、私人間の民事訴訟で争われる場合であっても慎重に判断されるべきものであることをも勘案すると、上記 (7) a 1及び2の事情をもってしても、峯野牧師と直接の面識のある控訴人の役員が、 平成14年頃から投稿4が行われた令和元年8月頃までの間において継続的に、異端信仰を秘して、峯野牧師を騙したとの事実 (侵害事実4 (1)) を真実と認めることはできないというべきである。

 以上によれば、侵害部分4 (1) については、重要な部分につき真実であるとの証明がされたとはいえない。

(ウ)当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、侵害部分4 (1) につき、 ①経験豊富な宗教家であっても、真の信仰を隠している信者の嘘を見抜くことは容易ではなく、峯野牧師の陳述書(甲50)を重視すべきではないこと、②高柳は張牧師が設立したとする教団(オリベットアッセンブリー教団。 乙63)の牧師であり、矢田は東京ソフィア教会の後続とされる教会にも出入りしていることなどからして、 高柳や矢田の陳述書は信用できない旨主張し、これに沿うものとして、張牧師の関連組織で活動していた者(△△など) の証言記録(乙157)を提出する。

 しかしながら、上記①の峯野牧師の認識に不合理な点があるとは認められない。また、上記②の高柳の地位や矢田の行動は、両名が未だ張牧師との関係を維持していることをうかがわせるものの、異端信仰を秘して峯野牧師を騙しているとの事実を直ちに帰結するものとまではいえず、疑惑の域を出るものではない。 そして、このことは、被控訴人が提出した上記の証言記録や日本基督教団等に属する牧師の陳述書等(乙158~160) を勘案したとしても、同様である。 したがって、被控訴人の上記主張は、上記(イ)の判断を左右するものではない。

ウ 小括

 したがって、被控訴人が侵害部分4を引用、摘示したことについては、違法性は阻却されない。

(3)故意・過失の有無について

 被控訴人は、侵害部分4の内容は、元信者の証言記録と一致していたから、真実であると信じたことについて故意又は過失はない旨主張する。

 しかしながら、侵害部分4 (2) については、前記(2)イ (ア)において説示したとおり、侵害部分4 (2) が引用する原記事4の体験談が言及している平成22年ないし平成23年頃の事実は、 〇〇らの証言記録の範囲外のものであるから、別途調査を要する事柄であると言わざるを得ない。そして、被控訴人が、投稿4が行われた当時における控訴人の経営状況や組織体制につき、調査を尽くしたことを認めるに足りる証拠はない。

 また、侵害部分4 (1) は、控訴人の役員の信仰の内容という個人の内心の領域に関する事実が前提となっているところ、その真実性については、前記(2)イ (イ)において説示したとおり、慎重な判断を要するというべきであるから、元信者の証言記録を入手したことのみでは、調査を尽くしたとはいえない。

 この点に関し、被控訴人本人は、被控訴人が平成30年4月に淀橋教会を訪問し、峯野牧師に対して同牧師が控訴人に騙されていることを説明した折に、同牧師は、異端信仰を否定する矢田の発言を信用していることがうかがわれる様子があった旨の供述をするが (乙164、 被控訴人本人12、13、23頁)、そのことは、直ちに矢田が異端信仰を有することを裏付ける事情とはいえず、上記被控訴人本人の供述によって、真実と信じたことにつき相当の理由が具備されたものとみることはできない。

 したがって、被控訴人が、侵害部分4が摘示する事実の重要な部分を真実であると信じたことについて、 相当な理由があると認められず、被控訴人が投稿4においてこれを引用、摘示したことには過失がなかったとはいえない。

(4) まとめ

 以上により、投稿4については、 控訴人の主張する不法行為が成立する。

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令和6年(ネ) 第2683号 損害賠償請求控訴事件、同第38号 同附帯控訴事件 (原審・東京地方裁判所和3年(ワ)第33995号) 3

2024年12月03日 | 法律

投稿5について

(1)社会的評価を低下させるか否かについて

ア 原判決の「第3 当裁判所の判断」の7 (1) 記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 当審における被控訴人の補充主張について

 被控訴人は、侵害部分5 (1) につき、控訴人がビジネスとして成り立っておらず、法令遵守もされていない会社であるという意見、論評をしたものである旨主張する。

 しかし、侵害部分5 (1) においては「黙っていれば (中略) 税務署云々 「黙っていれば(中略)税務署云々からタッチできず運営」 などと記載されていることに加え、 同部分に記載された「ペーパーカンパニー」という語義にも照らすと、 前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の7(1) における認定説示のとおり当該部分は、その事業体としての実体がないかのように装っていた会社の一つであるとの事実を摘示するものとみることが相当である。

 また、被控訴人は、侵害部分5 (2)、(3)につき、本件声明等を把握している一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、これらは控訴人の社会的評価を低下させない旨主張する。

 しかし、 上記の主張は、投稿5の一般読者をクリスチャンに限定される旨の前提に立った上でのものと解されるところ、投稿5の一般読者をクリスチャンに限定することが相当でないことは、前記5 (1) イで説示したとおりである。

 さらに、被控訴人は、侵害部分5 (2) につき、宗教教義の内容は多様であるから、これを閲読した一般読者において控訴人を含む「共同体」の教えは高慢であると認識することはないから、控訴人の社会的評価を低下させない旨主張する。

 しかし、キリスト教の教義に通じていない者であっても、侵害部分 5 (2) の記載は、張牧師は一般のクリスチャンが悟っていない福音を特別に知っており、控訴人を含む張牧師の関連組織はそのことを全世界に知らしめるための活動を行っている旨を述べ、その高慢さを指摘して批判する趣旨のものであることを理解することにはさしたる困難はないから、一般読者の注意と読み方を基準としても、侵害部分5 (2) が控訴人の社会的評価を低下させることは否定できない。

 したがって、被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。

(2)違法性の有無について

ア 次のとおり補正するほか、原判決の 「第3 当裁判所の判断」 の7 (2)記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 原判決の補正

(ア) 28頁15行目の「課税等の負担を免れるために」 を削る。

(イ) 28頁20行目の「この点」 から 24行目末尾までを 「しかるに、前記認定によれば、 控訴人は、 張牧師の関連組織の一つであり、張牧師が設立した団体からの資金援助を受けて設立され、数年程度は、張牧師の教えの信奉者が無償でその活動に従事している時期があったことが認められるものの、 投稿5が行われた令和元年8月当時における状況は必ずしも明らかではなく、控訴人が侵害部分5 (2) が示すような、宗教上の理念 理想を 「共同体の教え」として会社組織全体で共有して事業活動を行っていたとまでは認められない。」 に改める。

(ウ) 29頁5行目の「平成20年頃まで」 を 「平成19年頃まで」に改め、6行目の「足りない。」の次に 「また、峯野牧師と直接の面識のある控訴人の役員が、 平成14年頃から平成31年頃までの間において継続的に、 異端信仰を秘して、峯野牧師を騙したとの事実を真実と認めることができないことは、 投稿4における違法性の有無に係る判断の中で説示したとおりである。」 を加える。

(エ) 29頁9行目冒頭から12行目末尾までを次のように改める。

「(エ)原記事5において、侵害部分5 (4) の投稿内容のうち「そこから派遣されタダ働きをさせられる」 との摘示事実(給与の支払を受けないまま就労していたこと)に対応するのは、 原記事5の侵害部分5(1)の1つ上及び2つ上の段落であり、これらは 「あの当時」との記載から始まることからすると、 当該摘示事実は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、 元信者が張牧師の関連組織に在籍していた当時のことをいうものと解される。しかるに、前記認定のとおり、控訴人や張牧師の関連組織の活動には、 張牧師の信奉者が 「使役」として無償で従事し、 寄付や借財を求められることがあったことが認められるから (認定事実 (3) ウ)、当該摘示事実はその重要な部分が真実に合致すると認められる。

 他方、侵害部分5 (4) の投稿内容のうち 「嘘で固めて淀橋教会に入り込んだ理由と手口」との摘示事実は、原記事5の侵害部分5 (3)段落であるところ、前記説示のとおり、 同段落は記事が作成された当時の現状として摘示されていることが表現上明らかであって、 同段落に含まれる重要な部分が真実に合致するとは認められない。」

ウ 小括

 以上により、被控訴人が侵害部分5(1) ないし(4) (ただし、 給与の支払を受けないまま就労していたことを摘示する部分を除く。以下同じ。)を引用、摘示したことについては、違法性が阻却されない。

(3)故意・過失の有無について

ア 次のとおり補正するほか、原判決の 「第3 当裁判所の判断」 の7 (3)記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 原判決の補正

(ア) 29頁25行目の「侵害部分5 (3)」 を 「侵害部分5 (3) 及び侵害部分5 (4)」に改める。

(イ) 30頁1行目冒頭から7行目末尾までを次のように改める。

「以上によれば、被控訴人が、 侵害部分5 (1) ないし(4) を引用、摘示したことについては、過失が認められる。」

(4)まとめ

 以上により、 投稿5 (侵害部分5 (4) の一部を除く。)については、控訴人の主張する不法行為が成立する。

9 控訴人の損害について

 原判決の 「第3 裁判所の判断」の8記載のとおりであるからこれを引用する。ただし、 30頁15行目から16行目にかけての 「投稿2 投稿3及び投稿5の各不法行為」 を 「投稿2ないし投稿5による各不法行為 (ただし、上記のとおり不法行為が成立しない部分を除く。)」 に、 19行目の「本件訴え」から21行目末尾までを「本件訴えの提起に係る控訴人の弁護士費用のうち6万円を、被控訴人の不法行為と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である」 にそれぞれ改める。

10 小括

 以上のとおりであるから、控訴人の被控訴人に対する請求は損害賠償金66万円(投稿2ないし投稿5による各不法行為の損害金60万円及び弁護士費用6万円の合計額) 及びこれに対する令和元年8月7日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

11 結論

 よって、原判決中、上記と一部異なる部分を本件控訴に基づき上記の趣旨に沿って変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第22民事部
裁判長裁判官 谷口豊
裁判官 篠原淳一
裁判官 石垣智子

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