ウクレレとSwing(スヰング)音盤

Ready For you (2008) / Janet Klein and Her Parlor Boys

60年代にシーンに登場し戦前ポピュラー音楽をウクレレで奏でたタイニー・ティムやイアン・ウイットコムの流れを現代に受け継ぐアーチストといえば、90年代末に出現したウクレレの歌姫ジャネット・クラインこそ筆頭に挙げられるだろう。恐らく本国では地元カリフォルニア周辺のローカルなノスタルジック音楽シーンやウクレレ愛好家の間で知られるに留まる一方、日本では2000年代にアメリカ・ルーツ音楽の研究家である鈴木カツ氏が仕掛けたアコースティック・スイングの文脈から現役アーチストとして大きな注目を集め、何回も来日して公演をした事もあり高い人気を得た。所謂音楽業界でいう所の「Big in Japan」な存在ではあるが、耳の肥えた日本の音楽ファンが認めるアーチストは往々にして作品の完成度が高いという事が言える。

1998年に発表した最初のアルバムでは本人のウクレレ伴奏だけの素朴なサウンドだったが、ノスタルジックなボーカル・スタイルと戦前ファッションのビジュアルという独自の意匠はすでに確立されていた。セカンド以降はJanet Klein & Her Parlor Boys 名義となり、音楽面ではこの方面の第一人者であるイアン・ウイットコムから全面的なバックアップを得て、戦前ジャズソングの再現度はさらに高まった。イアン・ウイットコムにとっては長年追求し続けた理想の世界感を具現化してくれる逸材が晩年に至ってようやく遂に手に入った、といったところだったのではなかったか。

こうして実現した高い音楽的な完成度に加えて、戦前ファッションを身にまとい、本業がグラフィックデザイナーだそうですべてのアートデザインを本人自らが手掛けており、手にしたウクレレという楽器のかわいらしさも相まってのビジュアル制作面でのクオリティの高さも、特に日本で人気を集めた要因だったろう。2008年発表の本盤はそうした日本での人気絶頂期の一枚で、日本盤のみ二曲の日本語詞による昭和ジャズ歌謡「銀座カンカン娘」および「泣かせて頂戴」を収録。さらにこの年はアルバム発売に合わせて行った日本公演の模様までCD-Rに収録され国内タワーレコードなどで販売されたほどの盛り上がりを見せた。

下記の収録曲はBuffalo Recordsというアメリカン・ルーツミュージックの専門レーベルから本国に先駆けて先行発売された日本盤に準ずる。なお本国盤は本人たちによる自主制作レーベルである。

1 I'm Getting Myself Ready For You
2 Who's That Knocking At My Door?
3 Lookie, Lookie Here Comes Cookie
4 Walking My Baby Back Home
5 My Canary Has Circles Under His Eyes
6 That's What You Think
7 A New Moon Is Over My Shoulder
8 Have A Martini!
9 Nakasete Chodai
10 Au Bal Musette
11 Them Piano Blues
12 Sentimental Gentleman From Georgia
13 I Love a Ukulele
14 Take A Number From One to Ten
15 Sweet Papa, Momma's Getting Mad
16 Roll On, Mississippi Roll On
17 Ginza Kan Kan Musume
18 I Ain't That Kind of a Baby
19 Runaway Blues
20 Then I'll Be Happy

CDインナースリーブには各曲のクレジットに加えて原曲の発表された年度が明記されており、本盤の収録曲はすべて1930年前後の楽曲が集められているようだ。

2020年のコロナ禍では地元カリフォルニアのローカルシーンにおける活動に支障が生じたためであろう、一時期はユーチューバーとして毎日のように動画投稿し元気な姿を見せてくれた。


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