お好み夜話-Ver2

おじいちゃんたちの野望

高校の時の修学旅行、西へ走る新幹線の車内にデヴュー間もない「浅野ゆう子」がいたのを

「オマエ知ってるか❓」

と「ヨシオ」が言った。

生ビールをしこたま飲んで「安田」のロックを3杯やり、テンションが上がったダミ声で。


開店と同時に焼き続けて4時間半、ようやくひと段落ついて同級生4人が座るテーブルへ生ビール片手に合流したところだった。

「あのねぇヨシオ、浅野ゆう子が乗っているのを見つけてお前らにおしえたのはオレ、ワタクシなんですけど」

それは事実だ。

40数年前の新幹線はなんども停車し、ホームにはまだ駅弁売りがいて、食べ盛りの紅顔の少年はそれを見つけてはお買い上げ、大阪までに3個の駅弁を平らげたのだった。

駅弁を買うために乗降口へ行ったら、そこにひとり佇んでいたのはアイドル然とした格好の「浅野ゆう子」だったのだ。

ミニスカートから伸びた足がやたら長くて、ちょっと眩しくて奥手な紅顔の少年は声もかけられなくて、そのかわり走ってみんなのところへ行きご注進に及んだのだ。


なんだよちくしょうめ💢といった顔つきの「ヨシオ」に追い打ちをかけてやる。

「じゃオマエこれしってるか。あの時グリーン車に鬼車が乗っていたの」

「鬼車❓❓」

と首をひねる「タゴ」と「ミヤザキ」。

「鬼車」とは、テレビで放映された「柔道一直線」で主人公の「櫻木健一」をシゴく必殺技「地獄車」の使い手の師匠のことだ。

演じたのは「高松英郎」なのだが、「ヨシオ」くんこれがわからない。

おじいちゃん、海馬をフル回転させて自力で思い出しなさい。

「浅野ゆう子」より「鬼車」のサインが欲しかったが、「高松英郎」さんの役のイメージが怖くてやっぱり声がかけられなかった紅顔の少年であった。


「じゃじゃじゃ、オマエ修学旅行で・・・」

ゴメン、他のお客さんの注文が入ったので中座。

連中の喧々諤々の声を聞きながら仕事をし、もうみんなお勤め人は定年の時期を迎えるんだなぁと考え、つくづく長い付き合いだと感慨深くなる。

7月には先ごろ亡くなった担任の先生の供養を兼ねたクラス会をするとのことで、またむかし話に花が咲くんだろうね。

男どもの漏れ聞こえてくる声が、もうお互いいい歳だから女子と混浴露天風呂に行こうと盛り上がる。

あーらら、むかしちょっといいと思っていた子と風呂に入ってお話ししたいんだと。

「斉藤和義」の「ずっと好きだった」じゃないけれど、そんなことをしたらヘンなことにならないかい❓

すると即座にふたりが「もう大丈夫」「終わった」だって😁

今さら邪な気持ちはないだろうが、ちょっと悲しいじゃないかご同輩。

なに❓オマエはどうだって⁉️

フン、余計なお世話だよ‼️


などというおバカな話で、おじいちゃん達の野望は膨れ上がるのだった。

ジジイが失ってはいけないものは、好奇心と欲望。

ま、連中は大丈夫か。

また会おうぜ、友よ👋

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