プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

< 蝶々さん 最後の武士の娘 >

2020年09月07日 | ドラマ。
なかなか力が入ったいいドラマだった。高水準。市川森一監督の遺作。
が、評価しつつもあまり好きだという気分にならないのは、
ちょっと真面目過ぎるドラマだからでしょう。好みの問題です。

宮崎あおいは、実力派で演技の上手さに文句はないんだけれども、
やっぱり重いんだよなー。「私を見て!」という演技に思えてあまり好きじゃない。
一人で完結している演技。演技は1+1が3になるのが面白いと思っているので、
わたしにはむしろ戸田恵子とかともさかりえの方が光って見える。


前編は(長いよ、と感じつつも)面白かった。満足感があった。
が、後半は尺が短すぎたかねえ。

特に海軍士官との関係性が全然あかんかった。
長崎式結婚をして数か月で去っていき、子供を本妻に迎えにこさせるような男に
誠実さを感じるのは無理というものでしょう。
これをクズ男じゃなく描くとしたら、相当な尺を必要とする。

しかし日本に来て、一目で恋に落ちて、結婚して日が過ぎるまで30分ですからね。
30分で見せられてはそのお手軽さしか目につかないし、
土下座までするのも違和感があったし、そこまでするのならもっとリアクションが
あるのかと思いきや、当初の予定通りお蝶を捨てて去っていく。

これで真実の愛でした、海軍士官は人間として誠実でした、と描こうとするのは
無理がある。

三部作くらいにして、このあたりのエピソードも盛り込んで書いたら
もっと良くなったかもね。でも結局海軍士官のクズっぷりはオペラから
ひきずるだろうけどね。だってやっていることはやっぱりクズなんだから。


とにかく海軍士官パートでは話がとっちらかっていて……
長崎式結婚をしてどっちつかずの態度をとるのも話としてはマイナスだと思う。
「長崎式結婚、いいねー!」でノリノリで上陸した人が、
お蝶と真剣に恋に落ち、悩む。というのなら良かった。
最初からどっちつかずの態度の人がどっちつかずで長崎を離れ、
どっちつかずで戻ってきても話としては全然面白くないのだ!

お蝶はお蝶で、単にアメリカへ行くための手段として海軍士官を利用した
ようにしか見えないしなあ……。あと制服がかっこいいから。
それ以上でもそれ以下でもない。お互いに一目ぼれという説得力皆無の展開。

土下座のシーンだって不自然。
上官として対応するなら、公平に判断しなければならない。
水兵たちに一言も事情を聞かず、自分が勝手に土下座をしておいて、
「謹慎しろ」では部下は納得できない。「日本女に骨抜きにされた」と噂され、
一気に相手にされなくなるだろう。
それは実際に猿と言ったか言わないか、とはまた違うところでの話。

そしたら、言っているのをすれ違いざま聞いてたというシーンにしても良かったのに。
別に難しいことではなかった気がするのに。


3ヶ月で長崎を離れ、1年何ヶ月後に長崎に戻って来て、その間に上海にいる?
上海から一度本国へ帰ったの?ずっと上海にいたの?

上海にいたのなら、
お蝶さんとの仲がぐずぐずのままなのに、養子をてきぱきと進めてるのは変だし、
海軍士官が妻にその養子をわざわざ日本まで迎えに来させるのも変。
この時点で妻がいるなら、そもそも長崎に来る前に結婚していたわけだから、
「妻がいます」と、少なくともパトリック・ハーランには言っておかないと。

妻が優しすぎる。「あなたの不始末はあなたがして」と言っても当然だし、
そんな妻がお蝶さんに(表面的にせよ)親切なのも不自然。
領事もいざこざを避けたいなら、お蝶さん抜きに話をすすめるはずない。
ピンカートンを間に置くならまだしも。

そもそもお蝶さんだけが法律的な結婚だと信じていて、周りがみんな知っている
というのがおかしいんだよなー。
今まで数々あったことでしょう。長崎式結婚と名前がつくくらい。
国際結婚をしようという人が、その話を知らないとは思えない。


前編の、中国人を懐剣で追い払う話だって、実際に懐剣を突きつけておきながら
藤村志保に「この刃は他人に向けるものではありません。自分ののどを突くため
だけのものです」っておかしいと思ったよ。
このセリフをここに置くのなら無くてもいいくらいだったのに、
わざわざここに置いたのは何かの皮肉か?

宮崎あおいの舞妓姿は美しかったですね。でも当時あの歳で舞妓は無理がないのか。

領事館として東京の鳩山会館を使うのは止めて欲しい。
位置関係が気になって気が散ってしまうよ。もっとマイナーな建物を。


後半は不満な点が数々あったので乗れなかった。


ただ役者たちはみんな良かったね。

宮崎あおいはわたしの好みじゃないだけでいい役者だと思うし、
藤村志保が出て来たのは嬉しくて叫んだし、
気づかなかったけど奥貫薫も好きだし、
底意地の悪い役をするのかと思った戸田恵子も絶妙。
ともさかりえも出過ぎず、引っ込み過ぎず。良い匙加減。

岩松了は「時効警察」の時と、顔はほとんど変わらないんだけど、
声の出し方で完全に悪役になっていてすごい。元々悪役派なんだろうな。
ほんと、にくたらしい。
西田敏行は染みついてしまったコミカルさが、今回は仇にならずいい味。
いい役だったしね。


やっぱり原作(オペラ)からして無理があるもんよ~~~~。
これはもう悲劇なんだから、ピンカートンも悪役として描くしかないんだ!
伊藤淳史に言われたくらいですごすごとひっこんでいくのもヘタレだし。
いろいろ無理がある。


水月楼のセットは見事だったね!青い大津磨き。でも赤い壁なら心理学的に
納得出来るんだけど、青く塗っては逆効果じゃない?冷静になってしまうよ。
まあ水月楼ってことで、海の底をイメージさせたいんだろうね。

方言もがんばっていた。多分地元民が聞いたら目も当てられないんだろうけど
(方言はたいていそう)、健闘しているように感じた。


全体を見ればなかなかいい出来のドラマで、
このレベルのドラマを時々見られれば受信料を払っている意味があるというもの。
まあわたしの好きな軽めのコメディではありませんが。
好きじゃなくても見られるんだから、良作。

そのうち蝶々さんの関連本でも読んでみるかなー。




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