泣いてはいけない
母は子どもが泣くことを、ひどく嫌った。
私は、もの心ついた頃から、泣くと厳しく叱られた。
泣き出しそうになると、「泣きやみなさい!」という母の怒声が頭の上で鳴り響く。
その大声に驚いて、私は自分の鳴き声と涙を押し込める。大きく息を吸い込んで、溢れてくる声と涙と鼻水を飲み込むのだ。
あの時の感覚、味とか匂いとか、未だに覚えている。たぶん、一生、忘れない。
ただ問題なのは、泣くという感情の発露を禁止された子どもは、その他の喜怒哀楽の感情も、上手に表現出来なくなる。
これが、その後の私の生づらさの原因となってゆく。
ただ、私の母はといえば、それはそれは、とても感情的な人なのだ。
私が小さな頃、母が大事に飼っていた小鳥が死んだことがあった。その時、母はその小鳥を握りしめて、ワンワン泣いた。
私は「泣いてはいけない」という絶対不文律を発令した張本人の母が、あたり構わず号泣する姿に戸惑った。それから、母に歩みよって「泣いたらあかんよ、泣いたらあかんよ、、」と母の肩のあたりを撫でさすったと思う。でも、この後が更に衝撃的だった。母はそんな私の小さな手を荒々しく振り払い「うるさい!」と怒鳴った。
悲しくても、辛くても、人は泣いてはいけないはずではなかったか? なのに、母は悲しい時には、泣いてもいいのか……
見事なダブルスタンダード。
思えば、こういうことは、その他にも、我が家にはたくさんあった。
子どもが子どもらしく泣くことは許されず、大人は実に感情的に振る舞う。そして、子どもが大人の心のお守りをする。私の家はそういう場所だった。
母は子どもが泣くことを、ひどく嫌った。
私は、もの心ついた頃から、泣くと厳しく叱られた。
泣き出しそうになると、「泣きやみなさい!」という母の怒声が頭の上で鳴り響く。
その大声に驚いて、私は自分の鳴き声と涙を押し込める。大きく息を吸い込んで、溢れてくる声と涙と鼻水を飲み込むのだ。
あの時の感覚、味とか匂いとか、未だに覚えている。たぶん、一生、忘れない。
ただ問題なのは、泣くという感情の発露を禁止された子どもは、その他の喜怒哀楽の感情も、上手に表現出来なくなる。
これが、その後の私の生づらさの原因となってゆく。
ただ、私の母はといえば、それはそれは、とても感情的な人なのだ。
私が小さな頃、母が大事に飼っていた小鳥が死んだことがあった。その時、母はその小鳥を握りしめて、ワンワン泣いた。
私は「泣いてはいけない」という絶対不文律を発令した張本人の母が、あたり構わず号泣する姿に戸惑った。それから、母に歩みよって「泣いたらあかんよ、泣いたらあかんよ、、」と母の肩のあたりを撫でさすったと思う。でも、この後が更に衝撃的だった。母はそんな私の小さな手を荒々しく振り払い「うるさい!」と怒鳴った。
悲しくても、辛くても、人は泣いてはいけないはずではなかったか? なのに、母は悲しい時には、泣いてもいいのか……
見事なダブルスタンダード。
思えば、こういうことは、その他にも、我が家にはたくさんあった。
子どもが子どもらしく泣くことは許されず、大人は実に感情的に振る舞う。そして、子どもが大人の心のお守りをする。私の家はそういう場所だった。