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吉田大八による「美しい星」についてレビュー

2019-08-23 18:34:41 | レビュー



「美しい星」という映画について。
原作は三島由紀夫である。
私はその小説をまだ読んだ事がないので、吉田大八さんが編み直した「美しい星」についての感想を書きたいと思いました。
 
因みに吉田大八監督の作品では、
「腑抜けども、悲しみの愛をみせろ」
を観たことがあります。これもまた、壮絶な姉妹の愛憎劇の話しで、良かったです。

映画の大杉重一郎は、天気予報のおじさんである。サインをねだられる程なので人気がありそうである。

大杉はある日UFOと出会い、更にUFO に詳しい青年に、ムー的な?本を貰い、読み
覚醒する。

※私の解釈では大杉は天気予報に詳しい人間である。気象を何年も見続けているのであれば世界的にどのような気象の変化があるのか、分かっている筈だ。地球は温暖化の傾向があるという事、それは軽くみてはいけないという事。(大杉の予報は当たらないという伏線もあるけど)
 普段の大杉であれば、適当にお天気おじさんをしたのであるが
「実は自分は火星人だったらしい。火星人として覚醒したからには、意味がある。地球の皆さんにその危機を教えなければならない。」
と、思ったのか生放送中何度も、温暖化危機を叫んでしまう。使命感に乗っ取られたように。
一方同時期に大杉家の長男も水星人として目覚める。

何でか……プラネタリウムで確信する。

あと、重要な存在。代議士秘書黒木に出会い長男一雄の人生が変わる。


実は黒木は色々な事をしていて
大杉家の妻が「美しい水」の販売員をする事になり、この世で最も純粋な、美肌になるし健康にも良い万能の薬のような水を売る事になるのだが、
その組織はあまりにも詐欺的な団体にもかかわらず
そこにも黒木は一枚かんでおり、大杉の妻の前にも現れる。


大杉家の娘暁子も金星人っぽい男と出会い金星人として目覚める。
(原作ではこの暁子も、もう一人の金星人もかなり美しく、それゆえに人と違った世界観を持っているようです。ちなみに原作では暁子は、人類を救うためにソ連連邦局に「水爆を使わないように」という手紙を書くそうです。映画ではUFO と交信するだけ?そして処女受胎をする存在であります……)
大杉家の妻以外がそれぞれ別の星のものとして覚醒する。そんな話しです。

ここから最後までネタばれというか、私の解釈。
大杉重一郎は、実は末期の癌患者なんです。
だから、遡って考えるとUFO 体験の時、病気故に気を失って光に包まれる夢を見たのじゃないかと私は考えました。
 あの切迫感のある行動も、もうすぐ自分の体が駄目になるという身体からの知らせゆえの行動だったのではないか?と考える。
黒木の言う「カウントダウン」
それは、人類の。という意味がストーリー上では合っているのだろうが、大杉の身体の持ちこたえのギリギリのカウントダウンの合図であったのでは無いだろうかと、考える。要するに黒木という存在は本当は無く、大杉の想像の中の人物だったのではないか?つまり、この話しの殆どが大杉の想像か夢にすぎないのでは無いだろうか?

-もしかしたら、妻は水の販売員になり、長男は、代議士秘書のスカウトのもと就職。娘はすけこましに騙されているのに気づかず妊娠してしまったという、大筋のような事は実際にあったのかもしれない。

やがて大杉はUFO に乗る事になるが、UFO に乗るという事。それは自らの人生が終わり、この世とおさらばしたという事ではないか。
大杉は、この世は、地球は美しい
というような言葉を残す。
それ故に大杉は世界を愛していたのだ
という切なさが残る。

 所で途中途中で、自然環境の破壊やエネルギーの有限について等のメッセージが入る。
そして、黒木というキャラクターは
[地球には人間がいるから駄目だ。
人間という不純物が地球にいるのは良くないので地球上から滅ぼす]
という?存在として登場する(大杉が大慌てで人類に呼びかけても、本当は地球の環境は人間には関係なく循環し続けているのだとは、言いつつも)
それは、三島由紀夫や吉田大八の俯瞰で見た地球についての考察なのだろう。
勿論大杉は、そんな黒木に必死な抵抗をする。
が、最後に大杉は世界と決別する時にUFO の中から、本当に心残りになる存在を眺める。それは、残していく家族なのだ。

もう1つ最後に。

大杉の乗ったUFOの中は、なんと日本庭園の枯山水の世界である。
三島由紀夫の、美的に最も優れていると感じているであろう、砂で海や水を表現した庭園。それが死に導くUFOの中にある。
吉田大八は、三島由紀夫をそうとう好きなんじゃないかと映画を観終わって思った。

大徳寺大仙院の庭園。


⇧実は三島由紀夫自らが監督、脚本、美術全てを、自分の理想の美で作り上げた映画「憂国」も
最後日本庭園枯山水の中で死んで終わる。
三島由紀夫自身美しい日本が本当に好きだった分かる映画である。