人は希望を見つける職人 ( 「トレモスの風屋」小倉明作 石倉欣二絵 くもん出版)
トレモスの町には風の精ロゼルをとらえる「風屋」という職人がいる。ロゼルは風の中にいる風の精。修行をつんだ風屋にしか見えないし、特別な網でなくてはとらえることができない。
この本は『トレモスのパン屋』に続くトレモスの町の物語だ。
ロゼルは風のように透き通っていて、とらえられてから少しずつ、三日もすると美しい姿を現す。鳥に似ているが少し違う。色ガラスのような羽根や宝石のような瞳をもち、小さな鈴のような声でさえずるのだ。
とらえられたロゼルを町の人たちは、美しさとともに「森の祝福」をもってくるものと信じ、大切に扱った。
風屋はトレモスの町にしかない珍しい仕事だ。昔は多くの風屋がいて網を大空に流していたが、一人残ったのがリオンというおじいさんだった。
そこへアルトという若者が弟子入りする。細い山まゆの糸で編んだ大きな「風網」を作り、風にうまく流すのは難しい。
アルトはりっぱな後継ぎとなれるだろうか―。
もちろん私の周囲に風屋はいない。
ロゼルに会いたければ探すしかない。
見えるか見えないかもわからないロゼル。とらえられられるかどうか。美しい姿を見せ、声を聞かせてくれるかどうか。
私にとってロゼルは希望だ。
希望は一心に追いかければやがて光になる。
どこにでもある風のように希望もどこにだってある。
希望を握りしめて生きていれば、いつかきっと大きな光になると私は信じている。
人は希望を見つける職人なのだから。
『トレモスの風屋』はそんな夢のような心持ちにさせてくれる本だ。
架空の存在は時を経ても色あせず、読んだ時の年齢や気分によって思いも変わる。
本棚に大切にしまい、またいつか読み直そうと思っている。
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産経新聞8月8日夕刊「ビブリオエッセー」(本に関するエッセー募集、あなたの一冊をおしえてください)に掲載していただきました。