「魚が獲れない日本」と豊漁ノルウェーの決定的差漁業先進国では「大漁」を目指さない合理的理由片野 歩様記事抜粋2022/10/22 5:40
筆者の記事『「魚が獲れない」は世界で日本だけという衝撃事実」』に対して、大きな反響が寄せられました。日本は「漁業大国」という旧来のイメージが頭の中にあり、現在の漁獲量の激減ぶりをはじめて知ったという人が少なくないようです。
改めて日本と世界の漁獲量推移を比較したグラフを確認しましょう。世界では漁獲量の増加が進んできた時期に、日本では1200万トンから400万トンへと逆に3分1に激減しています。A Flourish chart
日本の漁獲量の減少の仕方は、世界でも類を見ない異常な状態です。この現実を知って行動を起こさないと、国は動きにくく、成長を続ける世界の漁業・水産業とは対照的に衰退が止まりません。
魚が減った原因を「乱獲」と認められない国
北欧・北米・オセアニア(以下、漁業先進国)をはじめ、漁業で成長をとげる国々は、科学的根拠に基づく水産資源管理をしていることが共通しています。水産物輸出で世界第2位、水産業で大きな成長を続けるノルウェーをはじめ、漁獲量減少の原因を「乱獲」と認めて資源管理に大きく舵を取った国々があります。
一方、わが国では、漁業者に任せる自主管理が主体です。さらに、魚が減っていく主な理由を「乱獲」と認めない傾向にあります。「よくわかりません」ではなく、もしわからないのであれば、FAO(国連食糧農業機関)の行動規範にあるように、予防的アプローチをすることが必要です。
前回記事に対するリアクションで、目についたのが「漁業者が悪い」という趣旨のコメントでした。「魚が獲れない⇒小さな魚まで獲る⇒魚が減る⇒魚が獲れない」という悪循環の中で、確かに小さな魚まで獲っているのは漁業者です。
しかしながら、筆者は漁業者が悪いとは考えていません。それは「自分ゴト」として考えていただけるとよくわかります。悪いのは、漁業者ではなく、資源管理制度がまだ機能していないことにあります。
大きくて、脂がのった旬の時期のほうが、消費者のニーズに合い価格が高いことを漁業者が知っていることはいうまでもありません。しかし、小さな魚でも自分が獲らなかったら、他の漁業者が獲ってしまうことになります。これを「共有地の悲劇」と呼びます。
ご自分が漁業者という前提で考えてみてください。昔たくさん獲れていた魚が獲れなくなり、どんどん価値が低い小型の魚ばかりになっているとします。価値が低いと言ってもお金にはなります。しかし、大きくなってしまう前に獲ることで、資源が減っていくことは誰にでもわかることです。
全体としては悪循環となりますが、漁業者自身は生活がかかっているので、この状況下では「小さな魚でも獲る」という選択に、ならざるをえないのではないでしょうか。
この状況がまさに「乱獲」です。しかしこれは漁業者が悪いのでしょうか? 漁業先進国でのほとんどの商業魚種がそうであるように、水産資源を適切に管理にしている国々では、日本のようなことは起こりません。
漁業先進国の漁業者はどう違う?
わかりやすい成功例として、筆者が長年見てきたノルウェーの漁業者のケースをあげてみましょう。漁業者には、漁船ごとに実際に漁獲できる数量より、はるかに少ない漁獲枠が割り当てられています。
漁業者の関心は「大漁」ではありません。決められた漁獲枠でどれだけ「水揚げ金額」を上げるかに関心があります。つまり重要なのは「水揚げ数量」ではなく「水揚げ金額」となります。
価値が低い小さな魚や、市場の評価が低い、おいしくない時期の魚については、安い魚を獲るために貴重な漁獲枠を使うのは、もったいないという発想になるのです。
他の漁業者が水揚げしているからといって、すぐに漁場に向かうということはしません。それは、水揚げが集中すれば魚価が下がるからです。
漁業者は、どの漁業でどのくらいの大きさの魚が何トン獲れたかをネット上で公開します。そしてバイヤーである冷凍加工業者はその中身を見て入札します。ネットに公開する情報の内容に駆け引きはありません。
漁業先進国の漁獲枠は、譲渡可能であったり(ITQ・ニュージーランドなど)、漁船ごとであったり(IVQ・ノルウェー)など国によって運用は異なります。しかしながら、大漁祈願をして価値が低い小さな魚まで一網打尽にする漁業は行っていないという点で一致しています。
自分が漁業先進国の漁業者であったとしたらどうでしょうか。貴重な枠で少しでも水揚げ金額を増やすことに腐心し、価値の低い魚は獲るのを避けるのではないのでしょうか?
魚のサステナビリティに無関心な日本人
消費者の意識も日本は進んでいるとは言えません。フランスの調査会社「イプソス」が28カ国の人々を対象に実施した調査が、日本人がいかに魚のサステナビリティに無関心であるかを浮き彫りにしています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます