建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

人見優,森傑:視覚障害者の白杖の使い方と空間知覚に関する基礎的研究

2012-02-26 21:53:04 | 書架(障碍者関係)

視覚障害者の白杖の使い方と空間知覚に関する基礎的研究

人見優,森傑

日本建築学会計画系論文集 第611号,75-81,20071

 

1.背景と目的

視覚障害者と晴眼者にとっての間には,視覚障害者にとっての生活環境の質への理解において齟齬が存在し,今日においてもそれが十分に解消されたとはいいがたく,公共的に提供されている案内や安全を示す情報は非常に限られているのが現状である.視覚障害者の歩行時の空間知覚に関する行為の特性を明らかにすると共に、視覚障害者自身の安全と快適を確保するためにどのように工夫しているかを改め理解し、今後のユニバーサルデザインのあり方を再検討するうえで非常に重要であると考える。

2.調査概要

白杖の環境への定位の仕方には視覚障害者と構築環境との相互関係が現れていると考える。日常生活で白杖を用いて歩行する場合が特に多い全盲の視覚障害者を対象に、観察記録と撮影記録を行う活動同行調査とした。調査対象者の属性,失明に至った経緯と現在の状況,調査日時,調査場面を分類する。白杖の動かし方を大きくスライド(白杖の杖先を接地したまま動かす), タッチ(白杖の杖先で突く), 持ち上げ(白杖の杖先を浮かす), 複合(スライド,タッチ,持ち上げのいずれかを組み合わせた動き)の4つに捉えるものとする。

3.結果と考察

床・地面における歩行,および誘導ブロック・異なる材質,縁石,壁・フェンス,段差を利用した伝い歩きにおいて,一定のリズムで左右にタッチすることで歩行の安全性を高め,起伏や段差をスライド法によって補う方法が有効な定位パタンであり,これらは歩行を安全に持続するための白杖の使い方であると考えられる.段差や障害物を発見・回避あるいは目印や居場所の発見・確保するといった白杖本来の役割と機能の中にこそ視覚障害者独自の工夫による定位パタンが見られる.歩行訓練において指導される白杖の使い方を超える個人技の豊かさの一端を示し得た.また歩行訓練からの経過時間,中途視覚障害者や先天性視覚障害者との違いが白杖の動かし方に関係している可能性が高いとみられる.

5.まとめ

現在の歩行訓練は,誘導ブロックを想定したスライド法を中心に計画され,建築や都市の環境も同様である.それは視覚障害者に対してスライド法を身に付けることを条件に課している環境デザインであり,誘導ブロックの上を歩くだけで視覚障害者の日常生活が満たされることは決してない.視覚障害者の身体の特性には個性があり歩行も個別多様であることの一端が理解でき,自らの歩行の仕方を開発しその技を洗練させているのである.

6.感想

視覚障害者の方の努力と適応が必要な今の環境デザインのあり方やユニバーサルデザインについてとても興味をもった.

 

 

横井 玲伊


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