❖ 御射鹿池
中央自動車道「諏訪インターチェンジ」から車で約35分、長野県茅野市豊平奥蓼科の「御射鹿池(みしゃかいけ)」は、日本画家「東山魁夷」の代表作のひとつ「緑響く」のモチーフとしてや、「吉永小百合」によるCMのロケ地になったことでも知られる標高1,500mの山中にある農業用のため池だ。酸性が強いため魚などは生息できないというが、背景の山の木々を水面に映し込んで、静謐の中に幻想的な色彩を愉しませてくれる。
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神に捧げるための鹿を射るという諏訪大社に伝わる神事「御射山御狩神事」に名前の由来があると云われているが、諏訪大明神が狩りをする「神野」と呼ばれる神聖な土地に、1933(昭和8)年に完成し、2010(平成22)年には農林水産省の「ため池百選」に選定されているという。
❖ 東山魁夷「緑響く」
戦後を代表する国民的画家と言われ、文化勲章受章者でもある「東山魁夷」(1908/明治41年~1999/平成11年)は、長野県の四季の変化、山や湖、川、渓谷と地形の変化に富んだ風景などにも向き合い、情感に富んだ風景画を描きだした日本画家だ。連作「白い馬の見える風景」のひとつで、「御射鹿池」を描いた作品「緑響く」(1982/昭和57年)は、長野県立美術館に収蔵されている。
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作品について、「一頭の白い馬が緑の木々に覆われた山裾の池畔に現れ、画面を右から左へと歩いて消えて行った- そんな空想が私の心の中に浮かびました。私はその時、なんとなく第二楽章の旋律が響いているのを感じました。」「おだやかで、ひかえ目がちな主題がまず、ピアノの独奏で奏でられ、深い底から立ち昇る嘆きとも祈りとも感じられるオーケストラの調べが慰めるかのようにそれに答えます。白い馬はピアノの旋律で、木々の繁る背景はオーケストラです。」(「東山魁夷館所蔵作品集」 信濃毎日新聞社 1991/平成3年)と語る。