分け入っても分け入っても本の森

本読む日々のよしなしごとをそこはかとなく♪

●ちいさなヨンダくん24-(1)

2006年11月19日 17時39分19秒 | ちいさなヨンダくん
おおつぶのなみだがこぼれるのをぬぐうこともできず、ヨンダくんは、めのまえのけしきがぼうっと、かすんでいくようなきがしました。
「あのね、ぼくね」
カヤの木のおじいさんに、――といいかけたまま、つづけることができずに、ひっくひっく、としゃくりあげます。
おかあさんパンダが、ヨンダくんにくるりとせなかをむけてしまったからです。

そして、おかあさんパンダは、パンダのこどもをかかえて、すあなからでていってしまいました。
どこにいくの、ぼくもつれていって。おいていかないで。
ことばにならならず、しゃくりあげるヨンダくんののどには、あついかたまりがこみあげてきて、あたまがくらくらします。

おいていかれたヨンダくんは、あとからひとりですあなをでました。
おかあさんパンダのにおいをおいかけて、どろだらけになりながら、いきさきをさがします。
どんなにわかってもらえなくても、おかあさんのそばにいたいのです。
おかあさん、ぼくここにいます。

みなみかぜのおねえさんも、かやのきのおじいさんもたすけてくれない、まっくらな森のなかを、ヨンダくんはあるきました。
こわさと、ふあんにおしつぶされそうになりながら、むちゅうでおかあさんパンダをさがして、あるきつづけました。

●ちいさなヨンダくん23

2006年11月18日 23時23分00秒 | ちいさなヨンダくん
(おなかがいたくなったのは、)*1 あんなにたくさん、のいちごをたべすぎたりするからです。
「どうしよう、どうしたのかしら」
おかあさんパンダは、しんぱいそうにパンダのこどものせなかをさすります。
ヨンダくんも「おろおろ」して、すあなを、でたりはいったり。カヤの木のおじいさんなら、なんでもしっているのだけれど。こういうときは、どうしたらよいか、おしえてくれるのではないかしら。

「ぼうや、だいじょうぶ」
そのあいだにも、パンダのこどもは「うんうん」うなって、それいじょう、よくもわるくもなりません。
「いちどにたくさん、のいちごをたべたりするからだよ」
どうしたらよいのか、カヤの木のおじいさんにききにいくつもりで、ヨンダくんはそういいました。
おかあさんパンダのかおいろが、かわります。

「なんですって、なにをたべたの」
「のいちごをたくさん……」
ヨンダくんは、こういうときにうそをついたりするこどもではありませんでした。これいじょう、パンダのこどものぐあいがわるくなったりしたら、たいへんですもの。
しょうじきにこたえるヨンダくんに、おかあさんパンダは、つづけてなにかをきこうとします。
そこに、おかあさんパンダのこどもは、さっとわってはいりました。
「ぼくは、いやだっていったんだけど。はやくたべないなら、ひとつもわけてやらないぞ、って」
――じぶんのほうが、ヨンダくんよりよい子だと、おかあさんパンダにおもわれたかったのです。

あっ、とおもったのは、つぎのしゅんかん。
おかあさんパンダのおおきなてが、さっとふりあがって、ちいさなヨンダくんのほおを、ピシッとうちました。
あっけにとられるヨンダくんのめから、そうとしらぬまに、ポロポロとなみだがこぼれおちます。

ヨンダくんは、なにもいえませんでした。
ほんとうの「いきさつ」を、おかあさんパンダにはなしたらどうでしょうか。
いえいえ、そんなことをしたら、パンダのこどもは、おかあさんパンダにしかられてしまいます。
それに、「つげぐち」するみたいで、わるいですものね。

――でも、ほんとうにそうだったでしょうか。


*1 前の更新は7月30日です。