分け入っても分け入っても本の森

本読む日々のよしなしごとをそこはかとなく♪

●ちいさなヨンダくん13

2006年02月27日 22時43分42秒 | ちいさなヨンダくん
なかでも、ヨンダくんがきになってしかたないのは、にんげんのこどもたちが、学校へいくおはなしです。

「クオレ」、「愛の一家」、「ビーチャと学校ともだち」、「ふたりのロッテ」、「あしながおじさん」、「アン」、「ケティ」、「トム・ソーヤー」――百トンのはんせんにのって、うみをひょうりゅうし、ながいなつやすみをすごしたしょうねんたちも、学校へかよっていました。
学校には、さまざまなこどもたちがいます。先生がいます。つくえをならべて、みんなでべんきょうしています。
でも、ほんとうは――ほんとうの学校って、どんなところかしら。ぼくも、いってみたいな。
きょう、おうちへかえったら、おかあさんに学校のことをきいてみようと、ヨンダくんはおもいました。

じつのことをいうと、おとながこどもたちの「ためになるように」、「わざと」かいた本を、ヨンダくんはあまりすきではありません。(だから、なかには、きらいな本もあるのです。ないしょですよ)

●ちいさなヨンダくん12

2006年02月23日 22時29分12秒 | ちいさなヨンダくん
つぎのひから、「木のむろがよい」は、ヨンダくんのしゅうかんになりました。
「木のむろがよい」なんて、きいたこともないかもしれませんが、これはにんげんのこどもたちの「としょかんがよい」とおなじようなものです。
パンダのこどもたちとあそぶあいまに、ヨンダくんは「木のむろ」にかよいます。
そんなことをするパンダのこどもは、ヨンダくんのほかにはいません。
ヨンダくんは、「木のむろがよい」を、みんなに――おかあさんにも、ないしょにしていました。
うまれてはじめて、ヨンダくんがもった「ひみつ」でした。
そして、木のむろへいくと、そこに本はいっさつしかないのですが、ふしぎなことに――そのないようは、いくたびにいつもちがうのです。

あるひ、本のなかのせかいは、そらとぶじゅうたんにのっていく、アラビアのくにでした。
つぎのひは、いかだにのって、うみをひょうりゅうするぼうけん。
またつぎのひは、「ちゅうせいヨーロッパ」のきしたちのものがたり。
とうぞく、ようかい、ようせい、おひめさま、まじょ、おうさま、こじき、やくにん、たんてい――本のなかには、かぞえきれないくらい、おおくのものがいきて、いきいきとうごめいています。
もりがあり、ヨンダくんのしらない「さとやま」があり、まちがあり、さばくがあり、どうくつが、みずうみが、おおうなばらが、うちゅうがあります。
せかいは、はてしなくひろがります。
そのどこに、「自由」はあるのでしょう。
まいにちわくわくしながら、ヨンダくんはページをめくります。

●ちいさなヨンダくん11

2006年02月21日 21時23分03秒 | ちいさなヨンダくん
そのときさっと、みなみかぜのおねえさんが、ヨンダくんをむかえにきました。
「くらくなるまえに、かえりますよ。いそいで、いそいで」
とっさに、ヨンダくんは本を木のむろにかくします。
本がぬれないように、とおもったのです。
もっとよみたいなあ。でも、おそくなったら、おかあさんがしんぱいするだろうなあ、というヨンダくんのきもちは、みなみかぜのおねえさんにつたわったようでした。
「また、あしたですよ」
やさしくそうささやいて、ヨンダくんをおかあさんパンダのもとへつれてかえります。

いきをせききって、ヨンダくんがかえってきたのに、おかあさんパンダはしらんかお。
「ぼくがまいごになったの、おかあさんはきづかなかったんだ」
おかあさんにしんぱいをかけなくてよかったと、ヨンダくんはおもいました。
だけど、ほんとはちょっぴりさびしかったのです。
おかあさんは、ぼくがみえなくなっても、しんぱいしないのかしら。
いえいえ、そんなはずはありません。ヨンダくんがまいごになったのは、ほんのすこしのあいだだけだったのです。だから、おかあさんは、きづかなかったのです。
「そうだよ。だって、おかあさんのことだいすきだもの、ぼく」
じぶんでじぶんに、そういいきかせながら、ヨンダくんはきょうも、おかあさんパンダにしっかりつかまって、ねむりにつきます。
でも、こころのなかでは、まいごになったときみつけた、あの本のことがおもいかえされて、なりませんでした。

学校、机、兵士、国王、ジャングル、砂漠――なんなのでしょう、それらは。
どこにあるのでしょう、それらは。本のなかに、あるのでしょうか。それとも?
そして――自由。
ああ、自由ってなんでしょう。どこにあるのでしょう、それは。

●ちいさなヨンダくん10

2006年02月20日 21時23分07秒 | ちいさなヨンダくん
ゆらゆらと、ダンスをするようにゆれるこもれびの、みちびくさき――大きな木のむろのなかに、「それ」はありました。
こもれびのなかで、ヨンダくんは、いっさつの本を、てにとりました。
それは、ヨンダくんがはじめてみる本。かつてない、きたいとよかんに、ヨンダくんのむねはたかなります。
ページをめくると、そこには、かがやくようなことばがちりばめられていました。


 学校のノートの上
 勉強机や木立の上
 砂の上 雪の上に
 君の名を書く

 読んだページ全部の上
 まだ白いページ全部の上に
 石 血 紙 または灰に
 君の名を書く

 金いろの挿絵の上
 兵士たちの武器の上
 国王たちの冠の上に
 君の名を書く

 ジャングルと砂漠の上
 巣の上 エニシダの上
 子供のころのこだまの上に
 君の名を書く

 夜ごとに訪れる不思議の上
 日ごとの白いパンの上
 結び合わされた季節の上に
 君の名を書く

 切れ切れの青空すべての上
 池のかび臭い太陽の上
 湖のきらめく月の上に
 君の名を書く


 ――(中略)――



 一つの言葉の力によって
 僕の人生は再び始まる
 僕の生まれたのは 君と知り合うため
 君を名ざすためだった


 自由 と。




ヨンダくんは、ふるえました。
ポール・エリュアールの詩、「自由」――はじめてそれをよんだ、ヨンダくんのむねは、あこがれにはりさけそうでした。
さがしにいかなきゃ、ぼく――自由を!

●ちいさなヨンダくん9

2006年02月17日 21時21分54秒 | ちいさなヨンダくん
「まいごになったのかしら、ぼく」
くちにだして、そういうのは、ゆうきがいることです。
だって、「ほんとうにそうなった」みたいですものね。
ヨンダくんは、ふあんでした。
どうしよう、まいごになっちゃったんだ――きょろきょろとあたりをみまわして、みちしるべをさがします。
ほんとうは、まいごになったところから、あるきまわるのは、よくないことなのです。
でも、そのときは、いつもとはちがう、なにかとくべつなちからが、ヨンダくんのまわりではたらいているようでした。
やわらかなこもれびが、ヨンダくんをつつんでいました。

●ちいさなヨンダくん8

2006年02月16日 22時03分02秒 | ちいさなヨンダくん
森は、ふたたび春になろうとしていました。
ねむっているヨンダくんの耳もとを、なつかしい風の歌がとおりすぎてゆきます。

 さらさら さらさら 
 おいで ぼうや ちいさな ぼうや
 なつかしい このみちを とおっておいで
 さらさら さらさら

はっ、とめざめたヨンダくんは、いま、じぶんがどこにいるのか、わからなくなっていました。
たいへんだ!おかあさんと、はぐれてしまったのです。
いつもなら、こういうときは、みなみかぜのおねえさんがたすけてくれます。
おかあさんのにおいをはこんで、まいごにならないように、みちあんないをしてくれるのです。
でも、このひにかぎって、ヨンダくんはひどくうろたえてしまいました。

ぼく、どこからきたのかしら。
ぼく、どこにいこうとしているのかしら。
それは、きょうおかあさんときたみちのことでしょうか。
それとも、もっととおいむかし、あかんぼうだったヨンダくんがやってきたみちのことでしょうか。
ヨンダくんは、こんらんしていました。

●ちいさなヨンダくん7

2006年02月15日 23時18分53秒 | ちいさなヨンダくん
「パンダにしては、かわったこ」
そういわれるたび、ヨンダくんのちいさなむねはいたみました。
どうしたらぼく、かわってないかしら。「ふつう」って、どういうのかしら。
ぼくぼくぼく――どうして、「かわってる」といわれたら、かなしいのかしら。
かわっていたら、いけないのかしら。
「かなしい」って、どういうきもちなのかしら。ぼく、かなしいんだけど。
かんがえているうちに、いつのまにかヨンダくんは、ねむってしまいました。

●ちいさなヨンダくん6

2006年02月12日 23時15分51秒 | ちいさなヨンダくん
「これはまた、パンダにしては、みっともないこだね」
ユキヒョウのおくさんは、ヨンダくんをみて、ふしぎそうにくびをかしげました。
森はもう、冬になっていました。
パンダのこどもたちは、雪がだいすき。つもった雪のうえをすべったり、雪がっせんをしたりして、あそびます。
そんなとき、むちゅうになってしまうと、ヨンダくんはうしろあしだけで、はしってしまうのでした。
「にほんあしではしるなんて」
ユキヒョウのおくさんは、かおをしかめます。
「やまのふもとにすんでいる、にんげんたちみたいじゃないか」
ヨンダくんは、はずかしくなって、おかあさんパンダのうしろにかくれました。

●ちいさなヨンダくん5

2006年02月10日 20時29分46秒 | ちいさなヨンダくん
ヨンダくんは、それはがんばりました。
じぶんからなげだしたり、そっぽをむいたりしないで、こんきよく、パンダのこどもたちのあいだであそびました。
みんなになじめなくて、つらいことがあっても、がまんしたのです。
ただ、ヨンダくんはどうしたって、ほかのこどもたちより、すこしばかりかわったところがありました。
ヨンダくんは、みなみかぜのおねえさんのうたにみみをかたむけたり、カヤの木のおじいさんのおはなしをきいたりするのが、すきでした。
それは、ヨンダくんいがいのだれにもきこえなかったのです。

●ちいさなヨンダくん4

2006年02月09日 22時40分26秒 | ちいさなヨンダくん
まいにちまいにち、
ヨンダくんはおかあさんのあとを、ついてあるきます。
おかあさんパンダと、こどものパンダのあとを、です。
(ヨンダくんは、じぶんをおかあさんパンダのこどもだとおもっているのですから、とうぜんですよね)
森のどうぶつたちは、そんなヨンダくんが、ものめずらしくてたまりません。

キンシコウのおくさんが、よってきて、ききました。
「パンダのおくさん、これはどこのこ。いつ、あずかったの」
ヨンダくんは、おもわず「どきり」としました。
だって、ほんとうのことをいうと、ヨンダくんはきのぼりもじょうずにできませんでしたし、おかあさんパンダのこどもとなかよくしようとおもって、こどもたちのあそびにくわわろうとしても、うまくいかなかったのです。

●ちいさなヨンダくん3

2006年02月08日 22時36分55秒 | ちいさなヨンダくん
よる。
ねどこで、おかあさんパンダは、こどもをだいて、やさしくはなしかけます。
「ぼうやは、きのぼりじょうずにできるのね」
「ぼく、もうおおきいもの」
あまえて、とくいそうにはなをならす、こども。
ヨンダくんも、おかあさんのうでのなかにはいりたくて、いっしょうけんめいです。
でも、あしもとにしがみつくのが、せいいっぱい。
「ぼく、あんまりちいさいから、おかあさんがわすれちゃったのかしら」

ぼくも。と、ヨンダくんはおもいます。
あしたになったら、きのぼりじょうずにしてみせよう。
そしたらきっと、おかあさんはほめてくれるでしょう。
「ああ、おかあさんてあたたかいなあ」
まるくなって、おかあさんにしっかりつかまりながら、ヨンダくんはねむりました。

●ちいさなヨンダくん2

2006年02月07日 22時58分06秒 | ちいさなヨンダくん
おかあさんパンダは、ちらとヨンダくんのほうを向きました。
こどものパンダは、しらんかおをしています。
ヨンダくんは、ふたりのうしろにならびました。
おかあさんパンダと、こどものパンダは、ヨンダくんをふり向きもせず、あるいていきます。
おいていかれたら、たいへんだ。ヨンダくんは、むちゅうであとをおいかけました。

●ちいさなヨンダくん

2006年02月05日 22時33分36秒 | ちいさなヨンダくん
みどりふかいパンダの森でうまれたとき、どういうわけか、ヨンダくんはひとりぼっちでした。
さらさらと、やさしい風のなるこかげで、
「おなかがすいたなあ」
よちよちとあるきながら、
「おかあさんは、どこかしら」

さがしまわる、ヨンダくんのまえを、パンダのおかあさんがとおりかかりました。
そのひとは、ほかにこどものパンダをつれていたので、おかあさんだということが、ひとめでわかったのです。
「おかあさん!」
きっと、このひとがぼくのおかあさんにちがいないと、ヨンダくんはおもいました。