──そう、…ほんとうに存在したのね、あの伝説の夜のひと花は…!
待ちくたびれた初日の出を拝むような感動、思いがけずに流れ星に巡り会ったような歓喜が、じわじわとのぼってくる。
奇跡の青花火。
誰も見知った者のいない異境のルーム。
ほどよく酩酊させてくれるワイン。
そして、姫子の熱いまなざしと元気のキス。
臆病な私のくちびるからほんとうを語らせるには、じゅうぶんなしかけだった。
私は姫子の瞳に輝く花火を見つめがら、落ち着いた声で語りかけた。一年前の夏に封じた想いをひらくために。一時間前のとぎれた言葉をつなげる気持ちで。そして、一日経っても、一年経っても、一生涯この日をたいせつな想い出にできるように。
「とてもきれいな青花火ね。ぜひとも姫子といっしょにこれを拝みたかった。そして言いたかった、『貴女が好き』だって…」
「ありがとう、千歌音ちゃん…でも、ごめんね…わたしは…。この花火はね、だめなんだ」
ごめんという姫子の謝罪に、私のこころは凍りついた。
私の胸に灯った勇気の炎が、落ちた花火の消え口のように闇につぶされていくのがわかる。
ああ、遅かったんだ、私の決意は。それもしかたないだろう。最初に男と付き合ったと思わせて幻滅させてしまったのは、私のほうなのだから。お酒の力がなければ言えないなんて。花火の熱さがなければ伝えられないなんて。急き立てられないと認められないなんて。やはり情けなかった。
姫子のいう嘘とはなんだろう。私にとっては嘘でも、それが姫子にとっての幸せな現実ならうけいれなければならない。
私が日本を離れていた月日、姫子にはもう好きな相手ができたのかもしれない。もっと早くいえば私は先に姫子のこころに入りこめえただろうか。だが、そんな自信はなかった。
「いいのよ、謝らなくて。姫子が誰かと幸せだったら…私はもうそれでいいのだから」
「……? 千歌音ちゃん、なにかまだ、勘違いしてない?」
しんみりと滲むように押し出された暗い声に、いささか不似合いなトーンの外れた声がかぶさった。
待ちくたびれた初日の出を拝むような感動、思いがけずに流れ星に巡り会ったような歓喜が、じわじわとのぼってくる。
奇跡の青花火。
誰も見知った者のいない異境のルーム。
ほどよく酩酊させてくれるワイン。
そして、姫子の熱いまなざしと元気のキス。
臆病な私のくちびるからほんとうを語らせるには、じゅうぶんなしかけだった。
私は姫子の瞳に輝く花火を見つめがら、落ち着いた声で語りかけた。一年前の夏に封じた想いをひらくために。一時間前のとぎれた言葉をつなげる気持ちで。そして、一日経っても、一年経っても、一生涯この日をたいせつな想い出にできるように。
「とてもきれいな青花火ね。ぜひとも姫子といっしょにこれを拝みたかった。そして言いたかった、『貴女が好き』だって…」
「ありがとう、千歌音ちゃん…でも、ごめんね…わたしは…。この花火はね、だめなんだ」
ごめんという姫子の謝罪に、私のこころは凍りついた。
私の胸に灯った勇気の炎が、落ちた花火の消え口のように闇につぶされていくのがわかる。
ああ、遅かったんだ、私の決意は。それもしかたないだろう。最初に男と付き合ったと思わせて幻滅させてしまったのは、私のほうなのだから。お酒の力がなければ言えないなんて。花火の熱さがなければ伝えられないなんて。急き立てられないと認められないなんて。やはり情けなかった。
姫子のいう嘘とはなんだろう。私にとっては嘘でも、それが姫子にとっての幸せな現実ならうけいれなければならない。
私が日本を離れていた月日、姫子にはもう好きな相手ができたのかもしれない。もっと早くいえば私は先に姫子のこころに入りこめえただろうか。だが、そんな自信はなかった。
「いいのよ、謝らなくて。姫子が誰かと幸せだったら…私はもうそれでいいのだから」
「……? 千歌音ちゃん、なにかまだ、勘違いしてない?」
しんみりと滲むように押し出された暗い声に、いささか不似合いなトーンの外れた声がかぶさった。