神無月の巫女アニメの話数に合わせ、とうしょ全十二回としたこのブックレットレビュー企画。今回はすこしおまけをつけて十三回目更新となります。
ひさびさにブックレットを読みなおして幸福感に包まれた、企画記事でした。
アニメDVDじたいは再生メディアの事情でもう観られなくなってしまったので、紙で読むしかありませんね。動画視聴もできるのだけども、円盤のような付録特典があるわけではない。ぜひとも、その魅力を、この作品を動画経由で知ったらしき、若く新しい世代に知ってほしいと思ってはじめたのがこのシリーズ記事なのです。動画を倍速で見て物語のあらましを掴んでわかったつもりになるのもいいですが、できれば二度三度とくりかえし観てほしい。このアニメは一度観ただけではわからない部分もあります。なにせ私がそうでした。このブックレットを精読するまでは、この作品が生まれた真意や戸惑ってしまう台詞回し、演出の意図が見えなかったからです。このブックレットを入手したことで、私はずっとこの作品にとらわれているといっても過言ではありません。
2009年の神無月の巫女生誕五周年記念として発売された新装版DVD-BOXは、旧版よりもよりコンパクトで廉価なお得版。ディスク3枚で全話収録となっていました。旧版BOX版の付録特典のBGM集はありません。ディスクのレーベル絵は、原作者が旧版で描きおろしたあのリバーシブルジャケット絵になっています。これは2021年にキャンパス地のキーホルダーとしても発売されましたよね。
旧版では黒い太陽が昇った夜の世界をあらわした背景アイボリーな全面豪華フルカラーデザインだったものの。こちらは表紙のみ藤井まき作画、背景は白地で二色刷りのシンプルなものになっています。全18頁のうち大半は旧版にあったブックレットの各話解説の転載。
そして、おまけは植竹先生書き下ろしの小説「神無月の巫女~月日御伽草子~」。
転生後、いまだ顔も姿もわからぬ幻の想い人に寄せる姫子。真琴にからかわれてもその信念はゆらがない。そんな姫子がある日、あの黒柴の仔犬を見かけて…というアフターストーリー。これが、まあ、姫子とマコちゃんの掛け合い、ほんとにアニメの雰囲気そのまんまで面白いですね。いいですね、いいですね。アニメの脚本書いたひとの言葉なんだからあたりまえなんだけど。もし想い人に出会えなかったらあたしが貰ってやるよ、みたいな姉御肌なマコちゃん、相当好きです。惚れてしまうわ。
名前も知らぬ運命のあの人のために無茶をしてしまった姫子。
アニメ本編のように溺れて救い上げてくれる巨大な手のひらもなく。外伝小説「はじまりの春」のように、池に落ちても救ってくれたあの人の腕もない。ここでは救済者になるのが真琴なわけで、姫子の秘め恋を主軸にしたマコちゃん活躍話ともいえます。湯舟のなかで月影をすくいあげたその残像に、姫子は「私の手にした幸せをあの人に捧げる」と誓うわけです。別れの悲しみ、不在の虚しさにとらわれず、いまを生きていく自分で、巡り会ったあの人を幸せにしたい。そんな前向きさがうかがえる、ひじょうに読後感のいい素敵なお話です。私はこの小話が好きで、二次創作の下地にさせていただきました。
このSSについての解説文は過去レビューにあります。ご参照までに。
(「神無月の巫女公式小説集(四)」 )
ラストページには、「DVD-BOX発売に寄せて」と題して、原作者の介錯先生および植竹先生のコメントがあります。
介錯氏が明かしたところでは、Hプロデューサーとの合議で「円盤皇女ワるきゅーレ」制作時に柳沢監督起用でやりたかったロボットもの。そこへ植竹氏の脚本採用が決まり、キャラデザも藤井まきさんに、といった具合。神無月の巫女はすぐれたスタッフの共同作品であり、「誰一人欠けても生まれなかった」「好きな人が10年後も愛してくれる」「代わりの利かない」作品にしたいと抱負を語り、事実、この願いは十周年記念の2014年には現実化していたように感じます。何かの形で物語を紡いでいこうという決意表明があったのが、ウェブノベル「姫神の巫女」であったのでしょう。
そしておなじみの植竹コメント。そうやたらと字が小さく濃密な、アナロジー爆裂の。
この人は情熱がたぎるあまりに同じ話を繰り返してしまう現象がおきてしまうようです。コメントの半分は旧版ブックレットにあった解説文のように、作品の総括的な紹介。そして、後半はそれに対しての、なぜこれが生まれたか、生んだのかの弁明。強さや優しさだけでは幸せになれない。エンタメのように明るく勝利・友情・努力でハッピーエンドにはならない、一癖二癖もある物語。それが神無月の巫女の醍醐味。SMAPの「世界に一つだけの花」になぞらえた、オンリーワンの創作物。それに対するクリエイターとしての矜持をかなり感じさせるかなりアクの強い文面です。この方の、脚本や小説は、あまり自分っぽさがなくて、キャラの個性にかなりなりきったわかりやすいものだけに、この自己解説文の熱っぽさときたら、いつもくらくらしてしまいますね。
この新装版DVD‐BOXのブックレットは2009年で、ウェブノベルが発表の少し前。このころから「姫神の巫女」の構想やら、企画倒れになったらしい前世編の構想はあったものと思われます。
植竹氏の神無月の巫女関係作は、2014年10月終了のウェブノベル「姫神の巫女」を最後に途絶えていますが、神無月の巫女の外伝作をふくめた小説などは、商業出版もしくは同人誌でも紙媒体で読みたい方もいらっしゃると思うので、いつか陽の目を見る機会があれば…と思う次第です。
さて、最後に。
新装版新装版DVD‐BOXのブックレットの裏表紙は、純白のシンプルなサマードレスに着飾った姫子と千歌音のふたり。白一色でおそろいです。千歌音ちゃんは堂々と正面顔なのですが、姫子がすこし振り向いて、え、なに?見ないでね、わたしたちイイトコロなんだよ、みたいな顔つきに見えるのが、なかなか絶妙な。アニメCパートの千歌音ちゃん、ちょっと背が低く若く見えるので、中学生疑惑があったりもしたのですが、この絵だとあきらかに千歌音ちゃんに上背がありますね。
じっさい、転生後、姫子のほうが小柄なんだけど、意外にいろいろリードしてて、千歌音ちゃんのほうが翻弄されているとか、そんなアフター見てみたいな~と思っていたら、いやそれ漫画版の「姫神の巫女」で実現されちゃっていることに、いま気づいたのでした。
新装版の外装箱のデザインについて。オモテ面のひめちかについては、二次創作小説「想いの後先」で解説したので割愛しますが。(「【後書き】神無月の巫女二次創作小説「想いの後先」(了)」 )
ウラ面は、ひめちか二人に背を向けるようにソウマとツバサの兄弟。
目を合わせてはいないけどもこの二人同じ方向を向いているように見えます。しかも、ツバサはアニメの最終決戦でソウマに託した剣を持っています。この剣があったおかげでアメノムラクモ機に搭乗したソウマはヤマタノオロチを打ち破ったわけですから、実質、世界を救った力は、この兄弟ふたりの絆であったとも言えますね。我が弟を惑わす陽の巫女や憎しと口にした一の首でしたが、弟に敗れてからはソウマの決意を認めており、ソウマはソウマで、自己犠牲を払っても自分に輝かしい未来をくれた兄貴のことを倒そうとまではしなかった。ツバサは月の巫女である千歌音のことは同胞だと認識しており、この兄弟のいわく言い難い精神的なつながりは、姫子と千歌音のそれと対照的になっています。世界を一緒に滅ぼさんとしたのに、けっきょく下の子が自分の意思で違った選択をする。それでもいいかと上の子が背中を押してやる。そんな関係性は、「絶対少女聖域アムネシアン」の来栖守姉妹にも踏襲されているわけですね。
このソウマとツバサの対決と和解は、神無月の巫女の前進作であった「十字架トライアングル」にでてきた大神少年と、神父ユリウスとの、予定されていたエピソードでもあったのでしょう。連載が途中で終わったので兄弟であることしかほのめかされなかったわけですが、関連作をかけあわせてみると、おもしろい繋がりが見えてきますよね。
さて、ブックレットでめぐるアニメ神無月の巫女考察のシリーズ記事。
いろいろ話題がわき道にそれて長くなってしまい、最終巻のレビューは想いきわまって筆が動かず数年越しで完結となりました。皆さま、お待たせして申しわけございませんでした。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
月日は流れ、すでに20周年も目前と迫った現在はもう2020年代。
あれから夏の五輪は4回も開催され、元号も改まって、驚くようなことがたくさんありました。私の望みはこの作品がめでたく50周年を迎える日を見届けること。末永く応援し、見守っていければと思っています。では、また、次の企画記事でお会いしましょう。
最後に。こんなに美しく素晴らしいブックレットをつくってくれた制作者の方には感謝します。さすがに棺に入れてくれとまでは思いませんが、死ぬまでずっと持ち合わせておきたい宝物になりました。
(2022年9月18日)
アニメ「神無月の巫女」ブックレットについて(まとめ)
月には誰も知らない朽ち果てた社があるの。全ては其処からはじまりました──。感動の全十二話を堪能したあと、再観賞用に、保存用にオススメのDVD。今回はその旧版DVD付録のオールカラーブックレットで、作品をふりかえります。
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